【Bリーグ】「1本、筋を通しながら」球宴MIP・川真田紘也が抱く“矜持” 無骨でありながら繊細…ファン魅了の大舞台で輝いた二面性
この舞台の似合う男がなぜ、これまでいなかったのかが不思議な気がした。
もっとも、彼――川真田紘也――が広くバスケットボールファンに認知されるようになって、まだ1年半から2年ほどでしかないのだから、詮方ないことか。
川真田は、1月17日から2日間の日程で行われたBリーグオールスター(会場:ららアリーナ東京ベイ)の本戦に初めて出場した。今シーズンから長崎ヴェルカへ移籍した26歳は、ファン投票での選出となり「Bブラック」の先発としてコートに立った(「アジアライジングスターゲーム」への出場経験はあった)。
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■渡邊との1対1では「こりゃ勝てんでしょう」
川真田紘也(撮影:永塚和志)
204センチのセンターは、出場した大半の他の選手たちのように華麗なドリブルができるわけでも、華麗な3Pシュートを決められるわけでもない。もっといえば、無骨で、不器用さが際立つ。
なのに目が離せないのは、ひとえに見ていて「楽しい」からだ。ダンクを決めたり、普段はほとんど打つことすらない3Pをねじ込みはした。だが一方で、長崎のチームメート、馬場雄大が公言していた自身とのアリーウープダンクはうまくいかない、打った3Pがエアボールになる、渡邊雄太(千葉ジェッツ)との1対1では完全にいいようにやられてしまう(渡邊を相手のポストアッププレー後には、今度は千葉Jの167センチ、富樫勇樹を相手にポストアップするもオフェンスファールを取られてしまった)など、見せ場を生かしきれないところもあった。
渡邊との1対1では、技術も有する渡邊がレッグスルーのドリブルなどを駆使しながら川真田を揺さぶって3Pを決める場面があった。これについて川真田は「(あんなのは)俺、できませんからね。こりゃ勝てんでしょうと思いながらやってました」と正直だった。
それでも試合で15得点を挙げた川真田は、最も印象的な活躍を見せた選手に贈られる「MIP(Most Impressive Player)」賞を受賞した(試合は「Bホワイト」が119-114で勝利)。新設の同賞受賞に川真田は試合後「初代MIPで伝説に名を刻んだ」と、真顔でおちゃらけるという彼ならではの物言いをした。
川真田紘也(撮影:永塚和志)
■着実にステップアップし認知度急上昇
徳島県出身の川真田の名が知られるようになったのは、2023年のFIBAワールドカップで男子日本代表チーム入りをしてからだ。大学は関西リーグの名門・天理大学に進んだが、日本の大学バスケットボールの強豪校の大半は関東の学校であることと比較すれば、最上級のアマチュアキャリアを歩んだわけではなかった。
そもそも、教員の両親を持ち自身も教員となることを考えていた川真田がプロ選手になろうと発起したのも大学4年になってからだった。それは川真田が自身に対して大きな期待を抱いていなかったことの証左と言ってもいいだろう。
B2の佐賀バルーナーズからプロキャリアを歩み始めた川真田は、日本代表のトム・ホーバスヘッドコーチのレーダー網にかかり、2022年に日本代表候補として招集された。しかし、ホーバスHCによれば当時の川真田はまだプロとしての意識に欠けるところがあったというし、実際、川真田はいつも候補で終っていた。そこからワールドカップメンバーに選出されたことはやはり、意外なものであったし、そして日本代表での活躍を経た川真田の人気や認知度の急上昇については感嘆を禁じ得ない。
「本当にありがたいことです」
無名からオールスターの人気投票で上位得票者となったことについて、川真田はこのように話した。
「これを継続できるように、普段のBリーグでももっともっと自分ができることをやっていって、オールスターにも選ばれるような選手になり続けたいなと思っています」
■独特な存在感と潜在的に持つ二面性
川真田紘也(撮影:永塚和志)
ふざけることと真面目。染めた頭と真顔。豪快と繊細。陰と陽。
川真田が醸し出す独特な存在感は、あるいは彼が潜在的に持つ二面性のようなものがあるからではないだろうか。
川真田は、自身が人見知りであることを認めている。自分が知らない人と話すことが苦手なそんな人物が、髪の毛を赤や青、金に染めながら、何千人も入る試合会場で人の目を引くパフォーマンス等をやってのけてしまうことがやや不思議な気もする。
昨年のパリオリンピック前の強化試合の際には、別格の存在である八村塁(NBAロサンゼルス・レイカーズ)にベンチで「絡み」にいってみせたことも、印象的だった。
が、川真田に言わせれば人見知りと人々を楽しませることの両立に問題はないそうだ。
「元々、”ワイワイ”するのが好きだったですし、人見知りを少なくしてワイワイをめちゃめちゃ増やしたっていう感じなので、人見知りは変わらないまま、もっともっとワイワイしていけたらという感じですね」
川真田は「へへへ」と笑いながら、そう述べた。
確かにオールスターでは、プレーをしていてもベンチにいても、時に大きな体を生かして観客を楽しませ続けた。ベンチでは常に彼の周りに選手たちが集まっていた印象だった。
■ファンを魅了するうえでの「1本、筋を通しながら」
とりわけ仲がいい選手の1人は、日本代表活動でも多くの時間を共に過ごしてきたジョシュ・ホーキンソン(サンロッカーズ渋谷)だ。ホーキンソンによれば川真田は英語が話せないため、会話は日本語で交わしているという。
ホーキンソンの日本語能力はかなり伸びてきているであろうが、それでも川真田との会話には一定の「言葉の壁」があるに違いない。にもかかわらず2人が常に近しく接しているのは、ホーキンソンいわく「僕たちは冗談を言うことが好きである一方でプレーの時は全力で臨むといったパーソナリティが似ているから」だという。
川真田がオールスターなどで人を楽しませることについて、「1本、筋を通しながら」と口にしたのが印象的だった。
とりわけオールスターは楽しむことが前提となっているイベントで、いうなれば何をやっても罰せられるわけでもない。しかし、常時ふざけ続けるのは違う。「楽しんでもらう」にはバスケットボールという競技の魅力でという意味も含まれている――。
川真田紘也(撮影:永塚和志)
川真田の言う「1本、筋を通しながら」というのは、そういうことではないかと推察できる。オールスターでの川真田の金髪は獅子のように猛々しく伸びていたが、その見た目の裏でそのように考えていたあたりには、彼の繊細さや真面目さが漏れ出ている気がしないでもない。
川真田が見る者を、他の選手たちを楽しませる人物であることは、かなり知れ渡った。そんな彼が、ここから本分であるバスケットボールでどれだけ成長していくのかも当然、気になる。
ワールドカップには出場したものの、昨年のパリオリンピックの選考ではサポートメンバーとして日本代表に帯同はしたものの落選となった。
続々ととまでは行かないかもしれないが、日本のバスケットボール界全体が如実に盛り上がっていく中で、若いビッグマンも出てきている。言うまでもなく、川真田の日本代表での立場も盤石なわけではない。
川真田の無骨なプレーぶりが今後、大きく変わるとは思えない。また、渡邊雄太のようなレッグスルーができるようになる必要性もないだろう。
それでも、競争を勝ち抜いていくためには、いらぬ世話ながら成長をしていくことが肝要だ。
選手としての技量が増していけばそれこそ、川真田の人気は盤石なものとなる。
川真田紘也(撮影:永塚和志)
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永塚和志(ながつか・かずし) スポーツライター|元英字紙『ジャパンタイムズ』スポーツ記者で、現在はフリーランスのスポーツライターとして活動。国際大会ではFIFAワールドカップ、FIBAワールドカップ、ワールドベースボールクラシック、NFLスーパーボウル、国内では日本シリーズなどの取材実績がある。