46A、イタリアもA330MRTTを選択
空中給油システムの信頼性が欠如するKC-46AはA330MRTTと競合した全入札で敗れており、イタリアも予定していたKC-46A調達を2024年4月に撤回し、今月19日「エアバスに総額14億ユーロ(関連費用込み)でA330MRTTを6機発注した」と判明した。
KC-46Aは「4度目となる不具合解消の遅延」「調達コストの約1億ドル上昇」「イタリアのA330MRTT導入」というトリプルコンボを喰らう
KC-46Aの空中給油システムは信頼性が高いKC-10のものを使用するはずだったのだが、米空軍は予備設計後に空中給油システムの制御をアナログからデジタルに変更するよう要求、未検証の技術で構築されたリモートビジョンシステム=RVS1.0は新規設計と呼ぶに相応しいものだったにも関わらず予備設計審査を簡略化して初期設計に移行し、プロトタイプのテスト中に不具合が報告されたのに問題を軽視して調達を強行した結果、KC-46AはRVS1.0の不具合で空中給油能力が制限される事態に直面。
出典:DoD Photo by U.S. Army Sgt. James K. McCann
この不具合は小手先の修正で何とかなる問題ではなく、米空軍とボーイングはRVS2.0開発を決定して「2024年3月から交換作業に入る」と発表したが、一から作り直すRVS2.0には未検証の新技術(自動空中給油システム導入に向けた拡張要素など)が含まれており、これを標準的な手順で検証すればリリース時期は2026年頃になると予想されていたものの、米空軍とボーイングはスケジュールを守るため予備設計審査を再び簡略化し、米政府説明責任局が「再び同じ失敗を繰り返そうとしている」と警告した通り、RVS2.0のリリース時期は2024年3月→2025年10月→2026年→2027年夏と遅延を繰り返していく。
空中給油システムに関する信頼性の欠如は輸出市場でも結果として現れており、エアバスは日本が実施しようとした競争入札について「公平な条件で競争入札を実施する気がない」「入札条件が著しく競合のボーイングに有利だ」と批判して入札から撤退したが、A330MRTTはKC-46Aと競合した全ての入札(カナダ、韓国、ポーランド、アラブ首長国連邦、インドネシア)で勝利し、KC-46Aを導入したのは米国の軍事援助(年間約38億ドル)で調達できるイスラエル、競争入札しなかった日本だけで、最後の希望は入札なしでKC-46A調達を予定していたイタリアだけだった。
出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Joshua Hastings
そのイタリアも2024年4月「イタリアがKC-46A(6機)の購入計画を中止した」「この決定はKC-46Aの調達コストと約束された(RVS2.0の)納期問題に関連している可能性がある」「イタリアは数ヶ月以内に新しい空中給油機の入札を行う予定で、匿名の関係者はKC-46A購入を否定していなかったものの他の空中給油機も見てみたいと述べた」と報じられ、米空軍は5月12日「RVS2.0配備は2028年初頭になる」と4度目の遅延を発表、上院軍事委員会の航空・陸上小委員会でも「KC-46Aの調達コストがどうして2億3,500万ドルから3億3,400万ドルになるか」と問い詰められた。
そしてEUの公共調達プラットフォーム=Tenders Electronic Daily portalは19日「イタリアが実施した空中給油機に関する入札結果」を公表し、イタリアはエアバスに総額14億ユーロ(関連費用込み)でA330MRTTを6機発注したと判明、この入札はGARA EUROPEA A PROCEDURA RISTRETTA=欧州限定の制限付き入札で、Airbus Defence&Space SAU(スペイン)しか入札に参加していないため、イタリアは端からKC-46Aを相手にしていなかったことになる。
出典:Public Domain A330MRTTの空中給油作業コンソール
2024年4月時点と現在では対米関係が大きく異なるため「KC-46A購入を否定していなかったものの他の空中給油機も見てみたい」という立場が「KC-46Aは空中給油機としての信頼性が欠如する上、現在の欧米関係を鑑みて欧州域内調達を優先する」と変更されていても不思議はなく、ボーイングのKC-46Aは「4度目となる不具合解消の遅延」「調達コストの約1億ドル上昇」「イタリアのA330MRTT導入」というトリプルコンボを喰らった格好だ。
ボーイングは米空軍のE-3後継機問題で迷走し、欧州の対米関係も悪化したため「NATOのE-3後継機需要」もGlobalEyeに奪われることが濃厚となっており、ロッキード・マーティンもF-35の欧州販売が行き詰まりを見せている。
出典:Saab
欧州が米国製兵器とすぐに手を切るわけではないが、米国離れの本質的な部分はトランプ政権の不確実性ではなく、これまで空想上の懸念だった「米国製システムの制約」や「一方的すぎる対外有償軍事援助の有利な立場や権利」を政治利用してくると認識したためで、もはや次の大統領に誰がなろうが「安全保障を米国製システムだけに依存しない」という流れは変わらないだろう。
ちなみに総額14億ユーロ(関連費用込み)でA330MRTTを6機取得するということ1機あたりの取得コストは2.3億ユーロ=約2.6億ドルで、競合するKC-46Aは調達コスト(ほぼ機体単価と同義)が2.3億ドルから3.3億ドルに上昇したため価格面でみても中々だ。
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※アイキャッチ画像の出典:public domain A330MRTT