「ボクシングは本当に素晴らしい」 負けても京口紘人は笑って言う、頭を下げた激闘後の記者会見
13日、ボクシングの元世界2階級制覇王者・京口紘人(ワタナベ)が、東京・両国国技館でWBO世界フライ級王者アンソニー・オラスクアガ(米国・帝拳)に挑戦。2022年11月の王座陥落から再起し、3階級制覇挑戦のチャンスを手にした。不退転の決意で臨んだ日々を全3回でお送りする。第3回は試合当日。リングで「男」を見せ、清々しく笑った。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
13日、ボクシングの元世界2階級制覇王者・京口紘人(ワタナベ)が、東京・両国国技館でWBO世界フライ級王者アンソニー・オラスクアガ(米国・帝拳)に挑戦。2022年11月の王座陥落から再起し、3階級制覇挑戦のチャンスを手にした。不退転の決意で臨んだ日々を全3回でお送りする。第3回は試合当日。リングで「男」を見せ、清々しく笑った。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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声援を噛み締めるようにリングに立った。
一発で試合を終わらせる拳を持った王者。京口は常に神経を尖らせていた。距離を測り、ガードを下げない基本に忠実なスタイル。磨いた防御で空振りを誘い、凌いだ。一瞬の間があれば、キャリアを支えてきた得意のボディーを連打。2回から近距離で拳が交錯した。
7500人の会場が沸く。リングサイドの妻・亜希さんも同じだった。「それそれ! 男を見せている」。相打ち気味の左フックは先にヒット。右ストレートを突き刺した。しかし、王者の拳は重い。距離を取って戦術変更に出た相手に後手に回る。11回にバランスを崩した場面がダウン判定に。最終12回は打ち合い。2年4か月ぶりの世界戦は0-3の判定負け。ベルトに届きそうで届かなかった。
「やっぱり世界戦のリングは上がりたくても上がれない。目に焼き付けよう」。青コーナーから降りる直前、会場を見渡した。涙ながらに自分の名前を叫ぶ観客。「いい景色」。我に返った瞬間、汗だくの体に妻が抱きついてきた。
「負けちゃったわ!」
「いや、めっちゃよかったで」
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2022年11月に世界ライトフライ級王座から陥落。23年5月にフライ級で再起した。日本人8人目の3階級制覇は夢のまま。「ありがとうございました!」。敗者は清々しく会見場に現れた。
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「3階級制覇の壁は高いようで、でも、越えられるかなっていうくらいの壁でした。王者は強かった」。妻の話になると、思わず笑みがこぼれた。
「『面白い試合やったよ』と言われた。妻の方が強かったですね。やっぱり男は勝てない。かっこいい姿を見せたいのは、男が誰でも思うこと。ベルトを巻く姿を見せたかった」
今回の試合は「無事に帰ってきて」ではなく、「絶対に勝ってきて」と背中を叩いた亜希さん。控室の前で深く息をついた。「生きて帰ってきてくれてよかった。気持ちが伝わる試合。紘人くん、めっちゃ頑張ったんやな」。最大限の感謝を受け取ったものの「私は『ありがとう』と言ってもらおうと思ってやっているわけじゃない。自分がやりたくてやっているだけ」と笑った。
初心を取り戻し、全力で走り切った31歳の元世界王者。幼い頃、何でもこなせる器用な子じゃなかった。人一倍の愚直な努力でやっと掴めた2階級のベルト。3本目が手をかすめた今、胸に秘めたものがあった。
「今ね、将来世界王者になると思ってトレーニングをする子どもたちがたくさんいると思う。その子たちに『俺でも王者になれる』『私でもなれる』と思ってもらえるように。そういうメッセージを伝えたいとずっと思っている。自分は本当に才能がない。でも、やることをやれば絶対にチャンスが来る」
進退は熟考する方針。「楽しかったですね、あはは。ボクシングは本当に素晴らしい」。負けても言えるのは、日々が充実していた証し。「ありがとうございました」。会見場からの去り際にもう一度、そっと頭を下げた。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)