みずほFG、法人向けAI与信で国内最大の新興買収-460億円

みずほフィナンシャルグループは29日、人工知能(AI)による独自の与信モデルに強みを持つUPSIDER(アップサイダー)ホールディングスを買収すると発表した。「マス法人」と呼ばれる中小・零細企業やスタートアップ向け事業のテコ入れを図る。

     日本では人手不足やデジタル化の遅れを背景に中小・零細企業の生産性向上が社会課題となっている。スタートアップが大きく育たない環境も課題で、政府も2022年に「スタートアップ育成5カ年計画」を策定し、成長を金融面で支えるための官民での取り組み強化を求めている。

  発表資料によると、みずほFG傘下のみずほ銀行がアップサイダーの株式7割を約460億円で取得する。関係当局の許認可などを経て9月頃の完了を目指す。株式は国内外のベンチャーキャピタルから買い取る。アップサイダーの経営体制は維持し、今後の上場も視野に入れる。

  同日会見したみずほFGの木原正裕社長は「日本経済を支えているのは中小企業だ。人手不足の解消や資金調達力の向上を実現したい」と説明。その上で「アップサイダーの優位性はキャッシュフローでのAI与信モデルを構築し、しっかり実績を上げてきたところだ」と述べた。

  みずほFGは買収により、アップサイダーの与信モデルを活用してマス法人向け融資の高度化を図るほか、みずほ銀自身の与信業務のデジタル化も目指す。また、アップサイダーの強みである法人カードなどを通じて支援メニューを増やし、マス法人分野で決済や預金を獲得したい考えだ。

  18年創業のアップサイダーはスタートアップ向けの法人カードで成長し、カード決済情報などを元にしたAIによる与信判断に強みを持つ。累積与信枠は4兆2000億円に上り、与信業務の99%をAIで行う。法人向けAI与信では国内最大級という。23年11月からみずほFGとの合弁で運営するスタートアップ向け融資ファンドでもAI与信を活用している。 

  また、請求書発行や振り込みデータの作成、給与計算など経理全般を自動化する別のAIサービスも手がける。スタートアップに限らず中小・零細全体の業務効率化も支援している。みずほは、マス法人に大きな顧客基盤を持つ法人カードに加え、与信と業務という2つのAIサービスを内製化することになり、決済、融資、業務のデジタル化支援と幅広いサービスをそろえることになる。

預金獲得の狙いも

  マス法人向けのビジネスを巡っては、一定額が口座にとどまりやすい決済性預金の獲得につなげたいとの狙いもあり、大手銀行間での競争が熱を帯びてきた。金利のある世界となり、銀行ビジネスにおける預金量の重要性が増しているためだ。

  三井住友フィナンシャルグループは5月、中小・零細向けに銀行口座や決済、資金繰り支援を行う新しい金融サービス「Trunk(トランク)」を始めた。利用者は自らスマートフォンなどで最短翌営業日に法人口座を作ることができる。

  口座開設の早さや送金手数料の安さを売りにするほか、請求書をスマホで撮影すれば、金額入力や振り込み予約ができるサービスも今年度中に始める。クレジットカード機能を使い支払いを翌月に繰り延べることも可能とし、顧客企業の資金繰り支援につなげる。3年間で3兆円規模の預金獲得を目指す。

  りそなホールディングスは23年に法人向けのスマホアプリを始めた。クレジットカード大手のジェーシービー(JCB)とも24年に業務提携し、マス法人の決済分野でサービス高度化を図っている。

  南昌宏社長は5月のブルームバーグとのインタビューで「日本は中小・零細の決済のデジタル化がすごく遅れている」と指摘。その上で「手形・小切手など銀行による伝統的な決済は一気に変わっていく時代を迎えた」として、いかにデジタル決済を中小向けに広げていけるかが重要との認識を示した。

(4段落目に記者会見での内容を追加して記事を更新します)

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