故人を生成AIで再現、葬式であいさつ・対話型サービス…依存や死者の尊厳傷つけるリスクも
故人を生成AI(人工知能)で再現するサービスが国内でも出始めている。動画で語らせるだけでなく、対話できるサービスも登場しているが、依存に陥るリスクや、死者の尊厳を傷つけるリスクも指摘されており、課題は少なくない。(福元理央)
「心からうれしく」
葬儀で上映された村川さんのAI動画を前に「本人も喜んでいると思う」と語る長男の寿規さん(さいたま市で)昨年12月、静岡県内の葬儀会場。98歳で亡くなった村川茂夫さん(同県三島市)の葬儀の終盤、祭壇のスクリーンに映像が流れ、村川さんが語り出した。
「今日は私のために集まってくれて本当にありがとう。こうして皆が私を思い出し、送ってくれること、心からうれしく思います」
動画は生前に撮影されたものではない。村川さんが趣味のカメラについて語った約1時間半の映像を基に、死後に生成AIで作られたものだ。
村川さんは亡くなる直前、「お世話になった皆にお礼が言いたい」と語っていたといい、喪主の長男寿規さん(60)は「本人も希望がかない、喜んでいると思う」と話す。
いつでも削除
動画を作ったのは葬儀会社「アルファクラブ武蔵野」(埼玉県)。「葬儀が簡略化する中、弔いの時間を創出したい」と昨年12月、AIで故人を再現した動画を作成・提供するサービスを始めた。
同社はサービス内容を検討するにあたり、有識者を含む倫理委員会を設置。自由に会話できる「対話型」も検討したが、故人が望まなかったであろう内容を発話させ、尊厳をおとしめるリスクがあるため、遺族が考えたセリフのみを語らせる形にした。
動画の改ざんや悪用を防ぐため、再生できるのは同社の特定サイトに限定。倫理委からの「忘れるのも(死別の悲嘆を癒やす)グリーフケア」との指摘を踏まえ、いつでも削除できるようにしている。
葬儀で上映された村川さんの動画。死後に生成AIで作られた(アルファクラブ武蔵野提供)遺族向けのグリーフケアを行う「ウェルステップ」(東京)も、2月から故人のAI動画を作るサービスを始めた。これまで約200件の依頼があり、結婚式で祝辞を述べる亡き父や、会社の周年行事にメッセージを送る創業者なども手がけた。大村晃右社長(31)は「『感動した』などと好評だ」と話す。
同社も、故人の発言内容は遺族作成の原稿に限り、相続関係や他人を中傷する内容を含んでいないか確認している。対話型についても検討したが、相談したグリーフケアの専門家から「依存のリスクが高い」と指摘され、「あえて回避した」(大村社長)という。
癒やしか依存か
対話型に慎重な企業がある中、昨年12月に対話型のサービス提供を始めたのがIT企業「ニュウジア」(東京)。写真や音声、人となりを説明した最大50万字の文章をAIに学習させ、「どんな会話もできる」と柏口之宏社長(54)は話す。悪用を防ぐため、受注の際には遺族の同意を取り、商用への二次利用を禁じるなどの措置を取っているという。
これまで約20件を手がけたが、トラブルの報告はないという。柏口社長は「癒やしになるのか、依存を生むのか、まだ分からないところもある。まずは希望者にサービスを提供し、心理カウンセラーによる支援も受けられるよう体制を構築したい」と話す。
海外では裁判に「出廷」例
AIで故人を再現するサービスは中国や韓国、米国などでも広まっている。
米国では裁判に「出廷」した事例も。現地報道によると、アリゾナ州で5月に開かれた刑事事件の裁判で、殺された男性が意見陳述を行う動画が流れた。遺族がAIで作ったもので、被告に対し「別の人生では私たちは友人になれたかもしれない」などと語らせた。現地の専門家は「こうした技術は説得力、影響力に多大な影響を及ぼす。陪審員や裁判官が判決を下す際に根拠となる記録がゆがめられていないか、常に考慮する必要がある」と指摘している。
「死生観に一石」「ルール必要」識者指摘
故人をAIで再現する影響や課題を識者に聞いた。
弔いとテクノロジーについて研究し、国内外の利用者に聞き取りを行ってきた東京科学大大学院の高木良子さん(宗教人類学)は「遺族らはAIで再現された故人を『故人とは別物』と線引きしている」と話す。むしろ似ていない部分があるからこそ故人を想起できるという。「具体的な姿形をもった位牌とも言える」とし、「『死を乗り越えて前に進むべきだ』という死生観に一石を投じ、『死者とともに生きる』という新たな絆を示すものになる」とみる。
一方、上智大の佐藤啓介教授(死生学)は、日本では死者に人権はなく、死者の尊厳を守ることを規定した法律や生成AIを巡る法規制もないため、「故人の動画を無制限に生成できてしまえば、ディープフェイクに悪用されるリスクもある」と指摘。「どこまでなら許容されるかという議論が、技術の進歩に追いついていない。業界内の自主規制にとどまらないルール整備が必要だ」と訴える。