地下水の枯渇が進行、地球規模の乾燥化が加速している:研究結果

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気候変動と地下水の過剰利用、極端な干ばつが重なり、陸地の乾燥化が加速している。最新の研究によると、北半球には4つの大陸規模の乾燥域が形成されつつあり、海面上昇や食料安全保障に深刻な影響を及ぼす可能性がある。
カリフォルニア州のモハーベ砂漠に位置するデスバレーの様子。この地域一帯は過酷な猛暑でも知られている。Photograph: Anadolu/Getty Images

地球温暖化で生じた余分な熱が海に蓄積される一方で、陸上では別の危機が進行している。地下水や氷河などの淡水資源が急速に減少した結果、地表の乾燥度合いが深刻さを増しているのだ。

米航空宇宙局(NASA)とドイツ航空宇宙センター(DLR)が人工衛星「GRACE」と「GRACE-FO」から収集した22年間の観測データによると、地球上の陸水貯蔵量(陸地に存在する水の総量)は長期的に見て明らかに減少傾向を示している。その結果、乾燥域の面積は毎年カリフォルニア州の2倍の規模で広がっているという。

かつては「湿る場所はより湿り、乾く場所はより乾く」という水文学的なパターンが存在していたが、いまや乾燥の進行が湿潤化を上回る現象が定着しつつある。世界の水循環は、大陸規模でバランスを崩し始めているのだ。

こうしたなか、北半球に4つの巨大な乾燥域が形成されていることが、研究によって明らかになった。北米の南西部から中米にかけての農業地帯、アラスカとカナダ北部の高緯度地域、ロシア北部の永久凍土帯、そして中東と北アフリカからユーラシア大陸を横断する乾燥ベルト地帯の4カ所である。これらの地域では、氷河や積雪の融解だけでなく、地下水の枯渇も進行しているという。

「この発見は、気候変動が水資源に及ぼす影響を示す最も深刻な警鐘かもしれません」と、アリゾナ州立大学教授のジェイ・ファミリエッティは説明する。「大陸は乾き、淡水は減少し、海面上昇は加速しています。地下水の過剰な利用が続けば、世界中で数十億人の食料と水の安全保障が脅かされるでしょう」

各国ごとの2003年2月から24年4月にかけての長期的な陸水貯蔵量の変化。赤が乾燥、青が湿潤の傾向を示している。人工衛星「GRACE」と「GRACE-FO」から収集した22年間の観測データから算出した。

Illustration: Arizona State University

氷床融解よりも深刻

とりわけ深刻だったのが、地下水の消失である。ファミリエッティらの研究チームが観測データを解析したところ、陸地における水資源の損失の68%が地下水由来であることがわかった。地下水は人間の活動によって汲み上げられた後、河川を経て最終的には海に流れ込む。現在の地下水の消失規模は、グリーンランドと南極の氷床融解を合わせた水量よりも海面上昇に影響しているという。

こうした傾向について、2014年から15年にかけて発生した「メガ・エルニーニョ」が転換点であると、研究者たちは考えている。通常のエルニーニョ現象よりも大規模かつ長期間のメガ・エルニーニョは、太平洋赤道域の広範囲で海面水温を2〜3℃以上も上昇させた。

その影響で熱帯の豪雨と乾燥の偏りが拡大し、北半球の中緯度では干ばつが深刻化した。結果的に農業地帯や都市部で地下水の利用が急増し、北半球における乾燥化の加速に拍車をかけたのである。

研究者たちによると、2014年を境に乾燥域と湿潤域の地理的な分布にも変化が見られる。これまで南半球に多かった乾燥域が北半球にシフトし、逆に湿潤域は南半球に偏るようになったという。この反転は従来の自然変動だけでは説明がつかないことから、気候システムの構造的な変化を示唆している。

これまで地下水の消失は、局地的な“ホットスポット”として認識されることが多かった。しかし、長期間の変化を可視化した最新のデータは、それらが広がって4つの大陸をつなぐ超大規模な乾燥域を形成している事実を示している。

食料安全保障や生態系にも直結

今回の研究で明らかになった4つの乾燥域では、農業や都市の水源となる地下水が急速に減少するとともに、氷河や積雪も失われている。水資源の消失が連鎖的に進むことで、地域の農業や生活、自然環境に深刻な打撃を同時にもたらしているのだ。

この乾燥化は海面上昇だけでなく、食料安全保障や生態系にも直結する問題である。今回発見された巨大乾燥域は穀倉地帯を含んでいることから、地下水の枯渇は世界の食料供給体制を直撃することが予想される。

さらに陸地から淡水が失われることは、最終的には沿岸都市における浸水リスクの増加につながる。何千年もかけて蓄えられた貴重な資源である地下水や氷河を日常的に取り崩している現状は、将来世代への負債そのものといえるだろう。

こうしたなか研究チームは、地下水の枯渇を抑制するとともに、残された淡水資源を保護するために即時行動する必要性を強調している。そのためには、戦略的な水資源の管理と国際協力が不可欠であり、地下水の持続可能な利用を前提とする新たな政策が求められている。

(Edited by Daisuke Takimoto)

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