洋上風力への「逆風」日本にも、三菱商が第3四半期に522億円の減損
三菱商事は6日、事業性の見直しに着手した洋上風力発電事業について10-12月(第3四半期)決算で522億円の減損損失を計上した。足元で、日本での洋上風力運営の担い手である総合商社やエネルギー大手で変調が顕在化。資源高や金利上昇を受け、世界各地の洋上風力プロジェクトに吹く逆風が日本勢にも広がり始めた。
三菱商は3日、秋田県や千葉県の3海域で進める洋上風力事業の事業性を再評価するとしていた。インフレや円安、金利上昇などを背景に建設コストが高まっており、協力する中部電力は3日に洋上風力関連で179億円の減損損失を計上したと発表していた。
三菱商の中西勝也社長は決算会見で、損失の内容を調査や設計にかかる費用だと説明。着工や当初2028-30年とされた運転開始時期については「なんとも申し上げられない」と述べ、再評価の結果は予断を許さないとした。撤退の選択肢を含めてゼロから見直しており、結論が出たら改めて説明の場を設けるとした。
世界的に脱炭素化が進む中、拡大の余地が大きい洋上風力発電は再生可能エネルギーの一つとして期待が高まっているが、事業環境は厳しさを増している。世界最大級の洋上風力発電事業者であるデンマークのオーステッドは2024年10-12月(第4四半期)に121億クローネ(約2600億円)の減損費用を計上。米国で洋上風力発電施設の建設コストが増加の一途をたどっていることが影響した。
また英石油大手BPも洋上風力発電事業のてこ入れ一環で、日本最大の発電事業者JERA(ジェラ)と同事業で統合する計画だ。昨年12月の発表時にJERAは事業環境が厳しく、スケールメリットを生かした競争力向上が期待できると背景を説明した。米トランプ政権は大規模な風力発電向けの土地貸与を止める大統領令に署名しており、先行きは不透明な状況だ。
他商社の決算でも慎重な声が相次ぐ。丸紅の柿木真澄社長は洋上風力発電事業の現状について「いきおい余ってちょっと行き過ぎた所は少し後退しなくてはいけない状況に陥っている」との見方を示し、「過度な競争に巻き込まれないように、冷静に開発をするように指示を出している」と述べた。
三井物産の重田哲也最高財務責任者(CFO)も「建設費の高騰や為替の影響などの変動があり、困難には直面している」と述べ、パートナー企業との協業や売電価格の交渉が重要になるとの見方を示した。
大手商社が参画する政府公募の洋上風力発電事業 三菱商事 秋田県内2海域と千葉県銚子市沖 三井物産 新潟県村上市・胎内市沖 伊藤忠商事 秋田県男鹿市・潟上氏・秋田市沖 住友商事 長崎県西海市江島沖 丸紅 山形県遊佐町沖 資源エネルギー庁資料から作成総取りも
国内で太陽光発電に適した立地が限られる中、政府は洋上風力を再生可能エネルギー拡大の切り札と位置づけてきた。領海内だけでなく排他的経済水域(EEZ)まで事業エリアを広げる狙いで、2030年に10ギガワットの案件形成を目標に掲げる。
三菱商らがコンソーシアムを組んで展開する3海域は政府の公募で2021年に採択された。他陣営よりも圧倒的に安い売電価格を提示して「総取り」したことは業界内で今も語り草となっている。ただ、コストが高まった今はその安さが採算性に重くのしかかる。
3海域の一つである千葉県銚子沖の計画では、資材高騰のため設備の着工の見通しが立たないことが事業体から地元関係者に伝えられたとNHKが報じた。
政府の資料によれば、2018年と2024年で洋上風力発電事業にかかる費用は鉄鋼が倍増し、電力やケーブルも80%超の増加となった。平均すると40%超のコスト増となっている。別の資料によれば、洋上風力発電の初期投資は数千億円規模に上り、運営費用も年間数十億円かかる。陸上風力や太陽光発電とは桁違いで、コスト増は重くのしかかる。
再生可能エネルギー領域に詳しいブルームバーグNEF太田瑚己奈アナリストは、欧米企業も日本企業も困難に直面していると説明。特にタービンなどの設備コストの上昇影響が大きいという。