ロシア軍がウクライナを497発の長距離ドローン・ミサイル攻撃、火力発電所と水力発電所に攻撃が集中(JSF)

 2025年10月10日のウクライナに対するロシア軍の長距離ドローン・ミサイル攻撃は合計497飛来(ドローン465機+ミサイル32発)でした。ドローンもミサイルも主にドニプロ川沿いにある火力発電所と水力発電所に攻撃が集中。秋になり電力インフラを狙ったロシア軍の長距離攻撃が開始されました。

※上記リストは9月以降の1日合計400飛来以上かつミサイル二桁以上のケース。

※飛来数は2025年9月7日の823飛来が過去最大、突破された数は2025年10月3日の96突破が最近では最大(突破数の打撃力換算でも10月3日は9月7日を上回る)。

2025年10月10日迎撃戦闘:ウクライナ空軍司令部

  • キンジャール空中発射弾道ミサイル×2飛来1撃墜
  • イスカンデルM/KN-23弾道ミサイル×14飛来4撃墜
  • イスカンデルK巡航ミサイル×12飛来9撃墜
  • Kh-59/69空対地ミサイル×4飛来1撃墜

(さらに加えてミサイル4発が未到達)

(飛来数のうちシャヘド型の推定数約200)

※合計497飛来424排除、73突破 ※阻止率88%

ウクライナ空軍より2025年10月10日迎撃戦闘の集計報告

※図表では「撃墜または制圧420目標」とあるが、これとは別にミサイル4発分が未到達だったと集計の報告文にあるので、4発を排除に含めて424としている。

※排除とは「撃墜+未到達」とする。未到達とは「電子戦での制圧(迷走)+燃料切れでの墜落(囮無人機の任務達成)」とする。

※БпЛА : 宇語で無人航空機の略。Безпілотний літальний апарат

※АБР : 宇語で空中発射弾道ミサイルの略。Аеробалістична ракета

攻撃はドニプロ川沿いの火力発電所と水力発電所に集中

※ППО радар と monitorwar による共同作業の可視化地図(2025年10月10日)

攻撃経路の可視化地図の出典 : https://t.me/monitorwarr/31774

  • 赤色:巡航ミサイル(イスカンデルK:地上発射、Kh-59/69:空中発射)
  • 青色:弾道ミサイル(イスカンデルM/KN-23:地上発射)
  • 水色:弾道ミサイル(キンジャール:空中発射)
  • 黄色:各種ドローン(シャヘド自爆無人機/ガーベラ囮無人機:地上発射)

ППО радарmonitorwar による共同作業の可視化地図。なおウクライナ空軍司令部の最終的な集計報告の発表前に作図されているので、細部は若干異なる。

※両名はこの攻撃経路の可視化地図を世間に広めて欲しいとクリエイティブ・コモンズ・ライセンスをCC 4.0に設定。この図では左下の隅に記載。

ミサイル×32飛来15撃墜4未到達、13突破 ※阻止率59%

  • 弾道ミサイル×16飛来5撃墜(最大4未到達) ※阻止率31~56%
  • 巡航ミサイル×16飛来10撃墜(最大4未到達) ※阻止率63~88%

※2025年10月10日のウクライナ空軍司令部の集計報告ではミサイル未到達4発の種類が不明。この為、弾道ミサイルと巡航ミサイルの阻止率が確定しない。

最近の弾道ミサイルの発射記録(8月28日以降)

  • 2025年10月10日:16飛来5撃墜(最大4未到達) ※阻止率31~56%
  • 2025年10月07日:2飛来0撃墜
  • 2025年10月05日:2飛来1撃墜 ※阻止率50%
  • 2025年10月04日:3飛来0撃墜
  • 2025年10月03日:7飛来0撃墜
  • 2025年10月01日:4飛来0撃墜
  • 2025年09月28日:2飛来0撃墜
  • 2025年09月23日:3飛来0撃墜
  • 2025年09月20日:8飛来2撃墜 ※阻止率25%
  • 2025年09月17日:1飛来0撃墜
  • 2025年09月14日:1飛来0撃墜
  • 2025年09月13日:1飛来0撃墜
  • 2025年09月10日:1飛来0撃墜
  • 2025年09月07日:4飛来0撃墜
  • 2025年08月30日:8飛来6撃墜 ※阻止率75%
  • 2025年08月28日:11飛来8撃墜 ※阻止率73%

※8月28日と30日の対弾道ミサイル迎撃戦闘の後に、ロシア軍はパトリオット未配備地域を弾道ミサイルで狙う戦法に変更。

※ただしパトリオットが何処に配備されているかは正確には掴めていないので、9月20日(チェルニーヒウ、ミコライウ、パヴロフラードの何れか)や10月5日(リヴィウ)のように撃墜された事例も出ている。

※10月10日はキーウの火力発電所を狙う為に、パトリオットが展開しているのを承知で攻撃を仕掛けたと思われる。

※関連記事:ウクライナ軍のパトリオット防空部隊が善戦している根拠(2025年10月5日)

 弾道ミサイルはパトリオット配備地域では撃墜した事例がありますが、パトリオット未配備地域では全く迎撃できなかったという、これまでの傾向が今回の攻撃でも続いています。

最近の巡航ミサイルの発射記録

  • 2025年10月10日:16飛来10撃墜(最大4未到達) ※阻止率63~88%
  • 2025年10月05日:51飛来38撃墜6未到達、7突破 ※阻止率86%
  • 2025年10月03日:28飛来17撃墜 、11突破 ※阻止率60%
  • 2025年09月28日:46飛来43撃墜 、3突破 ※阻止率93%
  • 2025年09月20日:32飛来29撃墜 、3突破 ※阻止率91%
  • 2025年09月10日:42飛来27撃墜、16突破 ※阻止率64%
  • 2025年09月07日:9飛来4撃墜、5突破 ※阻止率44%
  • 2025年09月03日:24飛来21撃墜、3突破 ※阻止率88%

※2025年10月10日にウクライナ国家警察ポルタヴァ州警察がクレメンチュークでクラスター弾の回収を報告(出典)しており、このクラスター弾はロシア軍の巡航ミサイル(イスカンデルKまたはKh-59/69)で運搬されたと見られる。

最近の巡航ミサイルの傾向:種類別(9月以降)

  • 2025年10月10日:イスカンデルK×12発、Kh-59/69×4発
  • 2025年10月05日:Kh-101×42発、カリブル×9発
  • 2025年10月03日:イスカンデルK×21発、Kh-59/69×7発
  • 2025年09月28日:Kh-101×38発、カリブル×8
  • 2025年09月20日:Kh-101×32発
  • 2025年09月10日:3種類(Kh-101、カリブル、Kh-59/69)×42発
  • 2025年09月07日:イスカンデルK×9発
  • 2025年09月03日:Kh-101×8、カリブル×16

※Kh-101巡航ミサイル:空中発射(戦略爆撃機)

※カリブル巡航ミサイル:艦船発射(水上艦及び潜水艦)

※イスカンデルK巡航ミサイル:地上発射(イスカンデルM弾道ミサイルと共通の発射車両)

※Kh-59/69空対地ミサイル:空中発射(戦闘機)

 巡航ミサイルで気になるのは、これまで攻撃の主力だったKh-101ではなくイスカンデルKが主力として投入されているケースが、10月の3回の巡航ミサイル攻撃のうち2回も記録されている点です。

各種ドローン×465飛来405排除 、60突破 ※阻止率87%

※2025年10月10日のロシア軍の攻撃はドローンとミサイルは両方ともにドニプロ川沿いにある火力発電所と水力発電所を集中的に狙っている。秋になりウクライナの電力インフラを狙ったロシア軍の長距離攻撃が開始された。

最近の大規模なドローンの発射記録(9月以降、1日400以上)

  • 2025年10月10日:465飛来405排除 、60突破 ※阻止率87%
  • 2025年10月05日:496飛来439排除 、57突破 ※阻止率89%
  • 2025年10月03日:381飛来303排除、78突破 ※阻止率80%
  • 2025年09月28日:595飛来568排除、27突破 ※阻止率95%
  • 2025年09月20日:579飛来552排除、27突破 ※阻止率95%
  • 2025年09月10日:458飛来413排除、45突破 ※阻止率90%
  • 2025年09月07日:810飛来747排除、63突破 ※阻止率92%
  • 2025年09月03日:502飛来430排除、72突破 ※阻止率86%

※ドローン阻止率の推移は最近に限らず大きな変動は無く、80~95%の範囲に収まっており、特に悪い場合でも過去に70%台が稀に記録された程度。

攻撃を受けたドニプロ川沿いの発電所(判明した範囲で、上流から)

  • キーウ第5火力発電所(Київська ТЕЦ-5) 
  • キーウ第6火力発電所(Київська ТЕЦ-6) 
  • カニウ水力発電所(Канівська ГЕС)
  • クレメンチューク水力発電所(Кременчуцька ГЕС)
  • 沿ドニプロ火力発電所(Придніпровська ТЕС)
  • クリヴィ―・リフ火力発電所(Криворізька ТЕС)

※ТЕЦ : Теплоелектроцентраль 火力発電所の一種である熱電併給発電所。発電だけでなく周辺地域にパイプで湯を送り暖房に利用する。

※ТЕС : Теплова електростанція 火力発電所(発電のみ)

※ГЕС : Гідроелектростанція 水力発電所

 突破数の打撃力換算:ミサイル1点、ドローン0.1点

  • 2025年10月10日:合計19.0点(ドローン6.0点+ミサイル13点)
  • 2025年10月05日:合計13.7点(ドローン5.7点+ミサイル8点)
  • 2025年10月03日:合計25.8点(ドローン7.8点+ミサイル18点)
  • 2025年09月28日:合計7.7点(ドローン2.7点+ミサイル5点)
  • 2025年09月20日:合計11.7点(ドローン2.7点+ミサイル9点)
  • 2025年09月10日:合計18.9点(ドローン2.9点+ミサイル16点)
  • 2025年09月07日:合計15.3点(ドローン6.3点+ミサイル9点) 
  • 2025年09月03日:合計10.2点(ドローン7.2点+ミサイル3点)

※打撃力換算はミサイルとドローンの弾頭重量差を10倍とする。

※上記リストは9月以降の1日合計400飛来以上かつミサイル二桁以上のケース。

キーウの火力発電所が攻撃されて市街が停電する様子

※キーウ第5火力発電所または第6火力発電所が被弾。ドニプロ川左岸側の市街地が停電している。追記:キーウ第5火力発電所と判明。撮影場所の推定座標(50.378650, 30.540470)、発電所から南西に2.5kmの位置。位置特定者:3BM15

クレメンチュークでクラスター弾を回収:ポルタヴァ警察

ポルタヴァ警察よりクレメンチュークで回収されたロシア軍のクラスター弾ポルタヴァ警察よりクレメンチュークで回収されたロシア軍のクラスター弾

※このクラスター弾はロシア軍の巡航ミサイル(イスカンデルKまたはKh-59/69)で運搬されたと見られる。外殻は球形の金属製で(アルミニウム外殻に小さな鋼鉄製の調整破片を埋め込んである)、過去にロシア軍の巡航ミサイルのKh-101やKh-59/69での運搬例があり、おそらくカリブルやイスカンデルKにも同じクラスター弾を搭載可能な派生型がある。

※人口密集地域でのクラスター弾攻撃は無差別攻撃と見做され、国際人道法(ジュネーブ諸条約等)に違反する可能性がある。この場合は軍事目標を狙おうとも民間人が実際に住んでいる居住地域であればクラスター弾攻撃は違反となる。宇露双方ともクラスター弾の使用を制限するオスロ条約には参加していないので、野外での使用ならば合法であるが、市街地で民間人が居住している地域での使用は国際人道法の方に抵触する。

ロシア軍のKh-69巡航ミサイルを撃墜

※ロシア軍のKh-69巡航ミサイル(Kh-59空対地ミサイルからの派生だが形状は全く異なっており、特徴的な四角形断面を持つ)が、ウクライナ軍のレーザー誘導ロケット弾APKWS(発射システムは地上発射型のL3ハリス製ヴァンパイア:関連記事)で撃墜される様子。

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