テスラの「完全自動運転」はなぜ他のメーカーと違って危険なのか?
2025年6月、テスラは自社車両をギガファクトリーから顧客の家まで完全自動運転で届けることに成功したと報告しました。2015年に運転を補助する半自動運転機能を「オートパイロット」として搭載して以来10年での到達といえますが、しかしテスラのいう「完全自動運転」は他社の同等の機能とは別物であると、非営利報道機関のMore Perfect Unionが指摘しています。
We Investigated Tesla’s Autopilot. It’s Scarier Than You Think - YouTube
テスラは以前から「自動運転」をウリの1つとした宣伝戦略を採ってきましたが、運転補助ではない「完全自動運転」が提供されたのは、2025年になってサービスインしたロボタクシーからです。
テスラの自動運転ロボタクシーが路上を走る動画が話題に、2025年6月中に客を乗せて走行するとイーロン・マスクは主張 - GIGAZINE
しかし、このロボタクシーも右左折を間違えたり、制限速度を守らなかったりする事例が報告されています。
ジョージ・メイソン大学で自律ロボットの研究室を持つ、元戦闘機パイロットのミッシー・カミングス氏はMore Perfect Unionに対して「自動運転のレベルが幼稚園から高校卒業まであるとすると、テスラの『自動運転』は小学1年生~2年生レベルです」「テスラのやっていることは、大学のロボット工学プログラムで教えていることとまったく相容れません」と、厳しい意見を述べています。
ロボタクシー事業を広く展開しているWaymoをはじめとして、完全自動運転の車両を世に送り出しているメーカーは、車両にLIDARとレーダー、カメラを搭載しています。ロボットや自動運転車が周囲を把握するためのツール「LiDAR」の仕組みとは? - GIGAZINE
LIDARはレーザービームを照射して、車両の周辺環境を把握するために用いられます。長所は正確に周囲の状況を読み取れることですが、有効範囲がそれほど広くないという弱点があります。それを補うのが、正確性は少し落ちるものの有効範囲が広いレーダー技術です。そして、カメラもあわせて利用し、情報の統合処理を行っています。車両を完全自動運転で運用するためにはLIDAR、レーダー、カメラは必須といえるもので、テスラ以外のメーカーは3つをセットで運用しているとのこと。 テスラも以前はレーザーセンサーを搭載していましたが、2021年にセンサーを外してカメラ映像を用いる方針に転換しています。
テスラが「モデル3」と「モデルY」からレーダーを排除、運転支援機能にカメラを用いる方針を打ち出す - GIGAZINE
しかし、カメラ映像を用いたコンピュータービジョンのみに頼ることについて、カミングス氏は「コンピュータービジョンの精度は97%、つまり100回試行すると3回は間違いを犯すということです」と懸念を示し、More Perfect Unionのエリック・ガードナー氏は「もし飛行機が100回飛んで3回墜落するなら、誰も乗りません」と述べました。テスラが他のメーカーのように3つのセットを使わない点について、カミングス氏はセンサーがいずれも高価であるという経済的な問題を挙げています。 また、テスラが用いている「オートパイロット」という名称についても、技術者は「コパイロット(運転支援)」にすべきだと主張したもののマスク氏が押し切ったもので、反対した技術者は辞職したと報告されています。
テスラの自動運転を巡っては、カリフォルニア州の陸運局が「虚偽広告」として訴えを起こしています。カミングス氏も「『オートパイロット』はひどい名称で、『完全自動運転』も単なる虚偽広告ではないかと思います」と述べています。なお、テスラは「『Full Self-Driving(Supervised):完全自動運転(監視付き)』であって、自動運転だと表現したことはありません」と弁明しています。 テスラは複数の訴訟で和解に至ったり、あるいは訴えが却下されたりして、難を逃れてきましたが、2025年8月、カリフォルニア州地方裁判所のリタ・リン判事は、テスラが「自動運転」と主張した内容を巡って集団訴訟を起こせるという判断を下しました。この裁判については、テスラは勝っても得るものが現状維持しかない一方、他の州も同様の訴えを起こす可能性があるため、「終わりの始まり」になるかもしれないと指摘されています。
Tesla drivers can pursue class action over self-driving claims, judge rules | Reuters
https://www.reuters.com/sustainability/boards-policy-regulation/tesla-drivers-can-pursue-class-action-over-self-driving-claims-judge-rules-2025-08-19/ なお、フロリダ州では「オートパイロット」によって発生した死亡事故をめぐり、テスラに対して2億4000万ドル(約353億円)の賠償命令が下っています。350億円超の損害賠償支払いをテスラが命じられる、オートパイロット利用時に起きた死亡事故でテスラに部分的な責任があるとの判決 - GIGAZINE
・関連記事 テスラがオートパイロットによる致命的な衝突事故に関する「重要なデータはなかった」と主張するもハッカーが車両からデータを復旧 - GIGAZINE
テスラのフルセルフドライビングに関する調査をアメリカ運輸省道路交通安全局が開始、視界不良時の衝突報告4件のうち1件が死亡事故 - GIGAZINE
テスラ車の完全自動運転のルートはイーロン・マスクやインフルエンサーに最適化されている可能性があると内部関係者が暴露 - GIGAZINE