畑岡奈紗、3年半ぶり優勝の裏側! プロが解説する“右手の握り方”と“骨盤シフト”の秘密をプロが解説【勝者のスウィング】
女子ゴルフの米ツアー公式戦「TOTOジャパンクラシック」で3年半ぶりの勝利を飾った畑岡奈紗。降雨のため最終ラウンドの中止から変則のプレーオフで勝利を勝ち取ったスウィングをみんなのゴルフダイジェスト特派記者でプロゴルファーの中村修が解説。
「本当に長かった3年半」と勝利を飾りホッとした感想を語った畑岡選手。2016年にアマチュアで「日本女子オープン」を制すると連覇を達成し、勝みなみ選手を始めとした黄金世代のリーディングプレーヤーとして米女子ツアーに挑戦。しかしメジャー制覇を目前にして何度も辛酸をなめて来ていました。松山英樹選手の現コーチを務める黒宮幹人コーチに師事していた時期もありましたし、メジャーで勝つために様々な取り組みをするなかで少しずつ体の故障やスウィングの安定感を失っていました。
米国で活躍する理学療法士の高田洋平トレーナーとの取り組み
2年前からトレーナーとして体のケアを担当している高田洋平氏は、米国でも活躍する理学療法士ですが自身も米国の所属コースでクラブチャンピオンを獲得するほどの腕前を持っています。今季はコーチとしてもスウィングやクラブについてもサポートし、畑岡選手の復活に尽力していました。そしてサポートするメンバーや地元の応援も背中を押し、再び輝きを取り戻す瞬間が訪れました。
「TOTOジャパンクラシック」で3年半ぶりの優勝を飾った畑岡奈紗
高田トレーナーによると「体の面からいうと、やっているスウィングと体の特性が合っていませんでした。畑岡選手の持つ体の特性に合わせた取り組みが、結果的に今のスウィングに結びついています」と教えてくれました。
最後のピースは右手の使い方
これまでリハビリに近い機能的トレーニングから始め、体の使い方の効率を良くするトレーニングを主な取り組みとして来ていましが、9月の「AIG女子オープン」(全英女子)後に合宿をした際に、最後のピースともいえるカギが見つかったと言います。「体のクセと動きをスウィングに落とし込む最後のカギは、右手の使い方でした」と高田トレーナー。実際に右手の握り方を変えてからこの3カ月で飛距離も大幅に伸びて来てるとのこと。
優勝会見でも「下から握っていた右手を少し握り方を変えてからしっくり来るようになった」と畑岡選手は言及していました。もう一つ、そのことによって「体を縦に使えるようになった」とも話していました。右手を下から握るとトップも体の使い方もフラットな横回転になり、軌道もインサイドアウトが強くなる傾向にあります。そこで右手を少し上から握るようにしたことで、前傾姿勢に沿った縦に回転ができるようになったことで、体の特性とやりたいスウィングがマッチしたということなのでしょう。
右手の握り方を少し上から握るようにしたことで、体を縦にねじるように使えるようになった
切り返しで左へのシフト
そして試合中には「切り返しのタイミングで骨盤を意識している。右に残ったままだと、ちょっと伸び上がるクセがでてしまうので、しっかり左にシフトすることが自分のキーになると思います」と、2日目のホールアウト後のコメントでは話していました。
昨年のスウィングと比較してみると、トップからの切り返しで左腰のラインが左足の上にあるように見えています。体を縦に使えるようになったからこそ切り返しで左に乗れるようになったはずですし、こうすることで右に残って伸び上がるクセを改善することができたのだと思います。
「左へのシフトがキーになる」と右に残って伸び上がるクセを改善しショットが安定した(2025写真/大澤進二、2024写真/JJ・Tanabe)
スウィングのエネルギーはどの選手も、トップ付近でターゲット方向に移動する横方向、回転(トルク)、そして縦方向(バーティカル)の3つ力を使っていますが、その3つの力の使う割合は人それぞれです。ただし横→回転→縦方向と使う力の順番(シークエンス)がとても重要です。
左へのシフト、回転、縦方向と力を使う順番が整いショットが安定した
例えば切り返しでいきなり回転から入ってしまうと、カット軌道になりやすく縦方向の力も使いにくくなり飛距離も望めません。左へのシフトの後に回転が入ることで上半身と下半身の捻転差を作り、クラブはインサイドから下ろしやすくなります。
数々の最年少記録を塗り替えて来た畑岡選手が再び輝きを取り戻しました。メジャー制覇は後輩たちに先を越されましたが、飛距離もある畑岡選手であれば、5つあるすべてのメジャーで勝つチャンスがあります。早くも来シーズンのメジャーがとても楽しみになって来ました。
取材協力/「身体から診るゴルフ」PRIISM Golf
写真/大澤進二、JJ・Tanabe
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早稲田大学ゴルフ部主将としてアマチュア界を牽引してきた中野麟太朗が、22歳の誕生日を迎えた本日(11月11日)、プロ転向を発表した。同時に、株式会社太平洋クラブとのスポンサー契約締結も発表され、プロとしての門出を飾る。プロデビュー戦は、因縁の地となる「三井住友VISA太平洋マスターズ」(太平洋クラブ御殿場コース)だ。会見では、スポンサーから「松山英樹を追い越し、ゴルフ界の大谷翔平になってもらいたい」という熱烈なエールが送られるなど、規格外の期待が寄せられた。
学生の正装である“学ラン”で会見に臨んだ中野麟太朗
会見に、早稲田大学ゴルフ部の正装である学生服(学ラン)を着用して臨んだ中野。学生として育ったことを表現したいという彼の姿は、プロとしての自覚と、アマチュアゴルフ界への感謝を示すものだった。
身長185cm、体重95kgという恵まれた体格を持つ彼は、2023年日本アマ優勝、2024年大学団体戦日本一に貢献し、世界アマ個人8位など国際舞台でも実績を残してきた。
スポンサーである太平洋クラブの河本和彦副社長は、中野の「世界を目指す」明確なビジョンが同社のビジョンである「Top of the Top 日本が世界へ誇るゴルフクラブへ」と一致するため、契約に至ったと説明。特に昨年、太平洋クラブ御殿場コースで開催されたアジアアマチュアゴルフ選手権で、中野が3位に終わりながらも、「もっと高みを目指す」という発言を聞き、「この選手しかいないと確信した」という。
中野は「アマチュア時代、特にこの4年間で積み重ねた『優勝の喜び』や『(アジアアマでの)悔しい思い』がプロ転向につながった」と語り、デビュー戦を思い出深い御殿場コースで迎える喜びをかみしめた。
世界の壁と「ハングリー精神」
プロとしての目標は明確だ。
「自分には明確な夢があって、将来、世界の舞台でメジャーの大会に挑戦し、いつか大舞台で優勝争いをできるような選手になりたいと強く思っています」
しかし、その道のりの厳しさも知っている。質疑応答では、世界で戦うための「足りない部分」を問われ、冷静な自己分析を披露した。
● 技術的な課題:「技術的な部分を表現したらたくさんあるのですが」と前置きしたうえで、「自分より体格が劣る選手がより飛距離を出したり、体格以上のタフネスを持っていたりした」と、恵まれた体格に甘んじない技術的な向上心を強調。
● 精神的な課題:「ハングリー精神的な面がまだ足りていないと感じ、この1年間で養うよう努めてきた」と、世界で戦うための精神的なタフネスの必要性を認識している。
デビュー戦の夢の組と「世界へのルート」
中野のプロデビュー戦は、石川遼、そして賞金ランク1位の生源寺龍憲という注目の組で回る。
石川遼については、自身が初めてJGTOのツアーに出場するきっかけを作ってくれた人物(石川遼インビテーショナル)だと述べ、「感謝の気持ちでいっぱい」としつつ、「プロという立場で対等に戦えるのがとても楽しみ」と期待を膨らませた。
世界へのルートについては「近いようで遠い」と表現。まずはサード、ファイナルとQTを勝ち進み、来シーズンの日本ツアーのシード権獲得を目指す一方、来年1月からはオーストラリアンツアーのメンバーシップを活かして参戦する予定だ。
「まずは来季日本ツアーで賞金ランキング上位に入り、DPワールドツアー(欧州ツアー)の権利獲得を目指すなど、自分に合った最短のルートを選びたい」と、堅実かつ戦略的に世界の頂点を目指す姿勢を示した。
今日プロ転向して、まず最初の仕事は明日のプロアマ出場。それもホストプロとしての出場だ。それについて聞くと「前夜祭には2度ほど出席させていただいたことはありますが、プロアマは初めてです。どうすればいいんですかねぇ?」と最初は困惑した表情を浮かべたが、「同伴のアマチュアの方に『一緒に回れてよかった』と仰っていただけるよう、自分のできる範囲のプレーや言動、レッスンを頑張ります」と力強く話した。
誕生日ケーキの大きさに驚いたが、ロウソクを一息で消し切った
会見の結びには、22歳の誕生日を祝うサプライズでバースデーケーキが用意され、太平洋クラブのマリガンジャケットとキャップが贈られた。
マリガンジャケットと太平洋クラブのロゴが入ったキャップで撮影
「ゴルフを通じて、勇気だったり希望を与えられるプロゴルファー」になりたいと語る中野麟太朗。その強い意志と、それを後押しするスポンサーの熱い期待が伝わる、記念すべきプロとしての第一歩となった。
撮影/岡沢裕行
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スウィング動画をAIによる3D解析技術でデータ化することができる、コーチ専用のゴルフスウィング解析アプリ「スポーツボックスAI」。このアプリを活用しているゴルフコーチ・北野達郎に、「マオタイ シンガポールオープン」で日本勢2人目のインターナショナルシリーズ勝利となった浅地洋佑のスウィングを解説してもらった。
ロピアフジサンケイクラシック、2日目の浅地(撮影/姉崎正)
こんにちは。SPORTSBOX AI 日本アンバサダーの北野達郎です。今回はアジアンツアーのインターナショナルシリーズ「マオタイ シンガポールオープン」で、見事な逆転優勝で今年2勝目を挙げた浅地洋佑選手の正面からのドライバースウィングをスポーツボックスAIのデータとともに解説させていただきます。浅地選手は2024年から植村啓太コーチとのスウィング改造に取り組み、今年は5月の中日クラウンズと今回のアジアンツアーでそれぞれ優勝して調子が上向いています。そんな浅地選手の現在と以前のスウィングを比較すると、以下の3点が主な違いです。
①右ひじの屈曲が減って、トップが以前よりコンパクトになった
②切り返しにかけて、より手首をやわらかく使えるようになった
③インパクトにかけてリリースのタイミングが良くなった
それでは早速チェックしてみましょう!
右ひじの屈曲が減って、トップが以前よりコンパクトになった
まずはトップを比較してみましょう。「Trail Elbow Flex」は、右ひじの屈曲角度を表します(ひじが曲がるほど角度は小さくなる。以下、右ひじの角度)。以前の浅地選手は、右ひじの角度が69度で、現在は80度と約11度の差があり、現在の方が右ひじをあまり曲げていないことがわかります。次に「Shaft Angle Face On」は、地面と垂直の位置を0度として、そこから左右にどれだけ回転したか? の角度を表します(マイナスが右、プラスが左。以下、シャフトアングル)。以前の浅地選手はマイナス290度と地面と平行の位置よりヘッドが大きく垂れ下がって、ややオーバースウィングなのに対して、現在はマイナス251度とコンパクトなトップになっています。
画像①トップの比較/右ひじの角度が以前より伸びたので、クラブの位置がコンパクトになった
スポーツボックスAIが独自で調査した、トップでの右ひじの屈曲角度の海外男子ツアーレンジは、68度~80度です。以前の浅地選手は69度、現在は80度と約11度の変化は、右ひじの使い方のタイプが以前と真逆になったと言えるほど大きな変化になっています。
切り返しにかけて、より手首をやわらかく使えるようになった
続いて、切り返し(以下P5、切り返しで左腕が地面と平行のポジション)を以前と比較してみましょう。先ほどの右ひじの角度を比較しますと、以前は91度、現在は89度です。このP5の位置だけでデータを比較するとほぼ同じですが、トップから切り返しにかけての推移で考えると、以前は69度から91度と、約22度変化しているのに対して、現在は80度から89度と、約9度の変化にとどまっているので、以前のスウィングのほうがより早く右ひじがほどけ始めていたと言えます。
画像②切り返しの比較/右ひじの角度の変化が小さくなり、その分手首はより柔らかく使えている
右ひじの角度の変化が小さくなったぶん、手首はよりやわらかく使えるように変わっています。「Lead Wrist Angle」は、左手首の縦コックの角度を表します(手首が曲がるほど角度は小さくなる。以下、左手首の角度)。こちらもトップから切り返しにかけての推移で比較しますと、以前の浅地選手は72度から68度と、約4度の変化にとどまっているのに対して、現在は82度から70度と約12度の変化があり、現在の方がトップから切り返しにかけて手首がよりやわらかく使えているのがわかります。そして、この変化がインパクトでのリリースのタイミングの変化につながるのです。
インパクトにかけてリリースのタイミングが良くなった
そして、インパクト直前のポジションを比較してみましょう。この位置は、P6(ダウンスウィングでシャフトが地面と平行の位置)とP7(インパクト)の間の位置なので、ここでは「P6.5」と表現しておきます。「Hand Sway」は、両手がアドレスの位置から左右にどれだけ移動したか?の距離を表します。(マイナスは右へ、プラスは左へ。以下、両手の位置)
画像③インパクト直前(P6.5)の比較/以前より現在の方が、よりハンドファーストの位置を保っている
以前の浅地選手は両手の位置がP6.5で0.5cm(左)、シャフトアングルがマイナス37度で、現在の浅地選手は両手の位置がP6.5で1.6cm(左)、シャフトアングルがマイナス46度と、現在のほうがよりハンドファーストの位置を保っています。先述の右ひじが早くほどけていた時は、ややハンドレイトなインパクトのぶんだけ飛距離と方向性が落ちていましたが、右ひじではなく手首をやわらかく使ってタメを作れるようになった現在のほうが、リリースのタイミングが良くなり、今年の復調につながっています。
今回は浅地洋佑選手のドライバースウィングを解説させていただきました。今回の優勝で、インターナショナルシリーズのランキングも2位に浮上した浅地選手が、LIVゴルフの来季出場権への扉をこじ開けるのか注目です!
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今年、プロへ転向したツアールーキーの福住修が、国内ツアー終盤戦で鮮烈なチャージを見せている。秋のACNツアーでの優勝に加え、「フォーティネット プレーヤーズ カップ」8位タイ(翌週出場権獲得)、「ACNチャンピオンシップ」2位タイと、出場したレギュラーツアーで立て続けに結果を出し、獲得賞金は一気に1000万円を突破し、シード圏内へ。この急激なレベルアップの裏側に何があったのか。彼は「一打に対する思い」が自分を変えたと語る。
8試合で1093万5714円を稼ぎ、賞金ランク56位にいる福住修(撮影/岡沢裕行)
福住のゴルフへの取り組み方を劇的に変えたのは、「フォーティネット プレーヤーズ カップ」での経験だ。選手会主催の同大会で、彼は木下稜介、杉山知靖、堀川未来夢といったシード選手たちと同組で回る機会を得た。
「そこで自分のゴルフとは違うレベルのゴルフを見て、特に一打に対する思いが全然違うことに気づきました。優勝する選手は本当に一打を大切にしている」
福住は、その違いが細部にまで及んでいることを具体的に説明する。
「例えば池に入った後のドロップなどでも、細かいところまで気にしています。僕は普通に適当にドロップしてしまうところを、彼らはちゃんとライを正確に見て、そこにちゃんとドロップするという、それも一つのプロの技だと感じました」
アマチュア時代からの才能に加え、この「一打の重み」を学び、自分のプレースタイルに取り入れたことが、直近2試合の好成績に直結したと分析する。
シード権へのリアルとセッティングの進化
下位に沈んでいた賞金ランキングは一気にシード圏内に躍り出た福住だが、目標は明確だ。
現在約1090万円を獲得している彼の目標は、「1200万円くらいまで行けば、シードはなんとか取れるのではないか」という現実的なラインだ。すでにACNツアー上位の資格で来シーズン前半の最低目標はクリアしており、現在は「この一週間をどれだけ大切に過ごせるかが大事」と、最終戦に向けての心構えを語る。
「レギュラーの試合で自分はレベルアップしているというイメージはあります」と語る彼は、プレーへの意識を変える一方で、クラブセッティングにもプロとしての変化を加えている。
「2番アイアンを抜いてユーティリティを入れました。ユーティリティはティーショットにも使えますし、グリーンも直接狙えるスピン量もあるので、アマチュアの時よりもプロのセッティングに近づいていると思います」
「私は一年目ですし、皆さん上の選手なので、そういったところから一つでも多く自分のものにできるようにと思ってラウンドしています」――貪欲に、謙虚に、そしてプロの技術の細部にまでこだわるその姿勢こそが、福住修の快進撃を支える最大の原動力だ。
彼が目指すのは、「焦らずにゴルフをし、チャンスが来た時に確実に掴む」こと。今週も前の2週間で得たものを忘れずに、その姿勢を貫き通す。