ウクライナ支援で合意できず EU首脳、ハンガリーが反対
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【ブリュッセル=北松円香、辻隆史】欧州連合(EU)は20日開いた首脳会議で、新たなウクライナ支援策について合意できなかった。ハンガリーのオルバン首相が反対し、全会一致の決定を断念した。残りの加盟26カ国は支援強化などを掲げる文書を採択した。
ウクライナを巡っては、EUの外相にあたるカラス外交安全保障上級代表が2025年に400億ユーロ(約6兆5000億円)規模の軍事支援をすることを加盟国に提案していた。ハンガリーなどが否定的でまとまらなかった。
カラス氏が提起した、50億ユーロ(約8100億円)の弾薬支援も見送った。米ブルームバーグ通信によると、フランスとイタリアが反対したという。フランスはロシアの凍結資産を活用した軍事支援の拡大に重きを置く。
ウクライナは米国の支援が細るなか、EUによる軍事支援の拡大を期待していたが機動的な決断ができなかった。
ウクライナ支援に関する全加盟国による声明も出せなかった。EU首脳会議では通常、加盟国(27カ国)が成果文書で一致した方針を示す。今回は6日の特別首脳会議に続いて2回連続で断念し、26カ国で文書を公表した。
1カ国が反対したままで文書採択を続けるのは異例の事態で、EUの結束に深いひびが生じている。ブルームバーグによると、オランダのスホーフ首相は「ハンガリーは同意しないが26カ国でよい合意に至れるだろう。もうそんなことはだれも気にしていない」と述べた。
文書ではウクライナの独立と主権、領土の一体性への支持を再確認した。「ロシアによる再侵略を阻む強固な平和の保証が必要だ」とも指摘した。米国とウクライナによる停戦案の同意を歓迎し、ロシアに「終戦のための本物の政治的意志」を示すよう促した。
EUは追加の制裁や既存の対応の強化を通じ、「ロシアへの圧力を増す準備がある」と強調した。ロシアが侵略を中止し、ウクライナの被害を弁償するまではロシアの資産凍結を続けるべきだと主張した。
ハンガリーの反対がEUの意思決定を阻む機会が目立ち、「決められないEU」が常態化する懸念が強まってきた。権威主義的な政治手法をとるオルバン氏はロシア寄りの姿勢でも知られる。これまでの首脳会議でもウクライナ支援に慎重姿勢を示してきた。
2023年12月の首脳会議では、ウクライナのEU加盟交渉入りに反対した。この時はドイツのショルツ首相が「コーヒーでも飲んできたらどうか」とオルバン氏に退室を促した。オルバン氏を実質的に棄権させる奇策で形式上は全会一致にこぎつけた。
トランプ米政権主導でロシアとの停戦交渉が始まり、オルバン氏はウクライナ支援継続への反対をさらに明確に示し始めた。オルバン氏はトランプ氏と懇意で、追加のウクライナ支援に後ろ向きなトランプ氏と歩調を合わせる。
今後もハンガリーが強硬姿勢を崩さなければ、ロシアやウクライナ関連の重要決定の障害となる恐れがある。
会議に先立ち、スウェーデンやフィンランドなど有志国はEUの執行機関、欧州委員会に対してウクライナの加盟プロセスの加速を求めた。
オルバン氏は20日、X(旧ツイッター)でウクライナ加盟に改めて否定的な見解を示した。EUでは、新規加盟や外交・安全保障に関わる重要決定には全会一致の決定が必要なルールがある。ハンガリーが拒否権を使えばウクライナは加盟できない。
ロシアの凍結資産を活用したウクライナ支援の仕組みもハンガリーの意向に左右される。EU加盟国が一定期間ごとに、域内にあるロシアの資産を凍結し続ける決定をしなければならないためだ。
今回の会議にオンラインで参加したウクライナのゼレンスキー大統領はXで、「欧州は全ての国々にとって必要な事項を単独のメンバーが邪魔できないようにする手段を持つべきだ」と発言。オルバン氏の動きに何らかの対応を検討するよう呼びかけた。
EUは加盟国が27に増え、ポピュリストや極右など多様な政治的意見を持つ政権を内に抱える。合意形成をはかる難しさは増しており、今後の加盟国の選挙結果次第では一層困難になるおそれがある。
米国がロシアやウクライナと停戦交渉を進めるなか、統一した方針を示せないEUの存在感はさらに低下する。すでに英仏主導で、和平合意後の平和維持部隊派遣に向けた有志国の協議が進む。
足元の軍事支援にはスピードが不可欠で、意思決定に時間を要するEUは出遅れがちだ。欧州のウクライナ支援はEUという枠組みから、有志国中心の形に徐々に比重が移っていく可能性がある。
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