ネタニヤフ首相「独裁化」反対、イスラエル各地でデモ…治安機関や司法機関のトップを次々解任

 【エルサレム=福島利之】イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は治安機関や司法機関のトップらの解任を次々と進めている。自身を捜査したり、政権の方針に異議を唱えたりするトップの首をすげ替えることで、権力の維持を図るのが狙いとみられる。パレスチナ自治区ガザの戦闘を巡り反政権を訴えるデモが各地で起きているが、政権は今年度の予算を可決させ、一定の安定を確保している。

5日夜、エルサレムで開かれたデモ。人質の解放とネタニヤフ首相の「独裁化」反対を求めた=福島利之撮影

 ネタニヤフ氏は3月31日、国内 諜報(ちょうほう) 機関シンベット(安全保障局)の長官に元海軍司令官を充てる人事を発表したが、数時間後に撤回した。元海軍司令官が2年前、ネタニヤフ政権が進める「司法改革」は三権分立を脅かすとして反対するデモに参加していたことが判明したためだ。

 ネタニヤフ内閣は3月21日、イスラム主義組織ハマスの奇襲を防げなかったとして、シンベットのロネン・バル長官の引責解任を決定した。最高裁判所が今月9日、解任の是非を判断する予定で、「拙速人事」はその前に既成事実化を図ろうとしたとみられるが、ドタバタ劇を演じる結果となった。後任は未定のままだ。

5日夜、エルサレムで開かれたデモ。人質の解放とネタニヤフ首相の「独裁化」反対を求めた=福島利之撮影

 ネタニヤフ氏が長官の解任と後任の指名を急いだ背景には、側近2人がカタールから資金提供を受けたとして収賄などの疑いで逮捕された「カタールゲート」の捜査を妨害する狙いがあったとされる。

 3月23日には、内閣がガリ・バハラブミアラ検事総長の不信任を決議した。バハラブミアラ氏は司法改革に反対するなど政権と対立してきた。検事総長の解任には最高裁の判断や専門家委員会の手続きが必要で、内閣の決議だけでは解任できないが、解任の流れを作るのが狙いだ。

ガザでの戦闘を巡る1年半の主な動き

 国防関係では、ネタニヤフ氏はガザでの戦闘方針に異を唱えてきたヨアブ・ガラント国防相を昨年11月に解任し、今年3月にはヘルツィ・ハレビ軍参謀総長を退任させた。

 ネタニヤフ氏が司法機関や治安機関との対立を抱えながらガザやレバノンでの戦闘を続けることに、「冷静で適切な判断が下せるのか」(地元紙ハアレツ)と疑問の声が上がる。国家安全保障研究所のオフェル・シャラハ研究プログラム部長は読売新聞の取材に「ネタニヤフ氏は汚職の裁判を逃れて首相にとどまろうとあらゆる措置を取っており、高官の解任はその一環だ。適切で安定した国の統治を脅かしている」と指摘する。

5日、エルサレムの首相公邸近くで、人質の解放を求めて座り込むデモ参加者たち=福島利之撮影

 イスラエル各地では5日夜、ガザの人質解放を優先するよう訴え、ネタニヤフ氏の「独裁化」に反対する大規模なデモが行われた。しかし、これに先立つ3月25日、ネタニヤフ政権は過去最大となる1100億シェケル(4兆3209億円)の国防費を盛り込んだ今年度予算を可決させた。昨年度内に可決できなければ、法律に基づき解散総選挙になっていたが、回避した。政権は国会議員が任期満了となる2026年10月まで続くとの観測が出ている。

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