性暴力が日常の少女は「レイプが悪」とさえ知らない。USAIDの支援がなくなった、紛争地の女性たちに今起きていること(ハフポスト日本版)
世界各地の紛争地で、女性や少女たちへの性暴力が、民族や地域住民らに恐怖心を植え付けてコミュニティを弱体化させるための「武器」として使われる事態が急増している。 国連の統計によると、人道危機にさらされた地域では、ジェンダーに基づく暴力からの保護を必要とする人は2025年に推定9200万人以上に上る。この数字は、レバノンやパレスチナ、スーダン、ベネズエラなどでの人道危機の急速な拡大を背景に、2024年から増加している。 性暴力などジェンダーに基づく暴力の予防・対策や、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の推進に取り組む国連人口基金(UNFPA)の人道支援局長、新垣尚子(あらかき・しょうこ)さんは、中東やアフリカをはじめとする紛争地や被災地の難民キャンプなどに足を運び、女性たちが日常的に暴力にさらされている現状を目の当たりにしてきた。 「少女たちが自らの権利について知らないままに育っていくことが利益になると考える政治的リーダーや権力者が、世界中にいる」と語る新垣さん。 今、紛争下を生きる女性と少女たちに何が起きているのか。 米国による資金援助が停止し、その影響が人道支援の現場に出ている中、新垣さんが「それでも希望はある」と明言する理由とは。新垣さんに聞いた。
妊産婦が安全に妊娠・出産できるよう医療を提供したり、危険にさらされた女性たちに緊急の人道支援を行ったりと、2019年の発足以降、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを掲げて任務に当たってきたUNFPA。 新垣さんも度々現場に入り、2024年にはウクライナやスーダン、アフガニスタン、ミャンマーなどを訪問して、少女や女性たちの訴えを聞いた。 「紛争地ではレイプが常態化しています。ヨーロッパでも日本でも、ジェンダーに基づく暴力は山のように起きていますが、紛争や災害が起きるとそれがさらに悪化し、女性や少女たちの体が『政治的な道具』として使われるケースが増えます。 被害者本人の体と尊厳を傷つけるだけではなく、性暴力によってコミュニティ全体に恐怖心や屈辱感を植え付け、支配する意図があります。 建物やインフラは壊されてももう一度直せますが、人間は一度壊されたら、元に戻すのが難しいことが極めて多いのです。 スーダンでは、民兵が村にやってくると聞いた女性たちが、集団で自殺する事案が発生しています。宗教上の問題で、性暴力の被害に遭った女性は二度と地域コミュニティに戻れないからです。 中絶を禁止された国では、レイプであっても妊娠したら産むしかない。少女たちは、上の世代の母親たちが、子を産んだ後もスティグマと苦難を抱えながら生きる姿を見ているわけです。そういう目に遭って生き延びるよりは、自分で命を絶つことを選ぶと彼女たちは言います」 長年にわたって政府軍と反政府勢力との衝突が続くアフリカ中部のコンゴ民主共和国。東部では2025年1月、ルワンダが支援する非政府武装組織M23と政府軍との間で戦闘が激化した。650万人以上が避難生活を強いられ、このうち260万人は子どもだ。 「レイプの被害が日常になっている東部の都市ゴマでは、ある少女に『これっておかしいことなの?』と問われ、非常にショックを受けました。 シリアでもそうでしたが、戦争が長期化するほど、学校がストップし続けて子どもたちは教育を受けられなくなります。教育を受けられずに識字率がどんどん下がるとどうなるか。情報を得られず、自分に人間としての権利があることすら知る機会がなくなります。 なのでレイプされ、搾取され、どれほど暴力を振るわれても、それは加害者が悪いのだということにも気づけない。 女性や少女たちが自らの権利について知らないままに育っていくことが利益になると考える政治的リーダーや権力者が、世界にはたくさんいるのです」