Wi-Fi信号のみでウェアラブルデバイスを使わずに心拍数測定が可能な技術「Pulse-Fi」

サイエンス

近年は、Wi-Fi信号を利用して人間の居場所や姿勢を推定するCSIセンシング(Wi-Fiセンシング)が注目されています。新たにカリフォルニア大学サンタクルーズ校の研究チームが、「Wi-Fi信号のみでウェアラブルデバイスを使わずに心拍数を測定する技術」を開発しました。

Pulse-Fi: A Low-Cost System for Accurate Heart Rate Monitoring Using Wi-Fi Channel State Information | IEEE Conference Publication | IEEE Xplore

https://ieeexplore.ieee.org/abstract/document/11096342

WiFi signals can measure heart rate—no wearables needed - News https://news.ucsc.edu/2025/09/pulse-fi-wifi-heart-rate/ 心拍数は健康状態の測定における最も基本的かつ重要な指標のひとつであり、身体活動の激しさやストレス、不安、水分不足といった状態を知る手がかりになります。これまで、心拍数を測定するにはスマートウォッチや病院グレードの機器など、何らかのウェアラブルデバイスが必要とされてきました。

新たに、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のコンピュータサイエンスおよび工学教授であるKatia Obraczka氏、博士課程学生のNayan Bhatia氏、そして科学インターンシッププログラムを通じて参加した高校生のPranay Kocheta氏らの研究チームは、ウェアラブルデバイスを必要とせずに、家庭用Wi-Fiデバイスからの信号を利用して心拍数をモニタリングする方法を開発しました。 研究チームが「Pulse-Fi」と名付けたこの技術は、低価格のWi-Fiデバイスと機械学習アルゴリズムを組み合わせたものです。Wi-Fiデバイスは周囲の空間に無線周波数の電波を放射し、PCやスマートフォンなどの受信デバイスに電波を届けます。この際、電波が空間内の物体を通過すると、電波の一部が物体に吸収されて数学的に検出可能な変化が生じます。 Pulse-FiではWi-Fiの送信機と受信機を使用し、受信機に届く電波の信号処理および機械学習アルゴリズムを実行します。研究チームは機械学習アルゴリズムをトレーニングし、環境要因や動作などによって生じる信号の変化をすべて除去することで、人間の心拍によって引き起こされる信号のわずかな変動でさえも識別できるようにしました。Bhatia氏は、「信号は環境に対して非常に敏感なので、不要なノイズをすべて除去するために適切なフィルターを選択する必要があります」と語っています。 以下の写真の左が工学教授のObraczka氏、右が博士課程学生のBhatia氏です。

研究チームは118人の被験者を対象に実験を行ったところ、わずか5秒間の信号を処理するだけで臨床レベルの精度で心拍数を測定できることが確認されました。5秒間のモニタリングでは1分間あたりわずか0.5拍の誤差しかみられず、モニタリング時間が長くなるほど精度は向上したと報告されています。 また、Pulse-Fiは機器の位置や被験者の姿勢に関係なく心拍数を測定でき、被験者が座っている状態・立っている状態・寝ている状態・歩いている状態のいずれでも、システムは機能したとのことです。

これらの結果は小売価格が5~10ドル(約740~1480円)のESP32チップと、30ドル(約4400円)程度のRaspberry Pi 4Bの両方で確認されましたが、より高額なRaspberry Pi 4Bを使った方がより優れた性能が発揮されたとのこと。

さらに今回の研究では、Pulse-Fiは被験者がハードウェアから3m離れた位置にいても正確に機能することが判明しました。研究で発表された内容に加えてさらなる実験を行ったところ、3m以上離れた場合でも有望な結果が出たそうです。Kocheta氏は、「機械学習モデルのおかげで、距離はパフォーマンスにほとんど影響を与えないことがわかりました。これは従来のモデルでは非常に大きな課題でした」と語っています。 研究チームは、心拍数だけでなく呼吸数も検出できる技術を開発するためにさらなる研究に取り組んでいます。人間の呼吸数も検出できるようにすることで、睡眠時無呼吸症候群などの疾患の検出に役立つ可能性があるとのことです。

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