新米が「不良在庫」に…大手卸売りの「国は米を買い取れ」に米店は冷ややか「恥ずかしいと思わないのか」

2024(令和6)年産の米が積まれた店頭。富山県産のコシヒカリは税込み5キロ5378円=米倉昭仁撮影 この記事の写真をすべて見る

 米価が高騰して久しい。「米を溜め込んでいる業者がいるのではないか」という疑惑も噴出した。残念ながら、一部において、それは単なるうわさではなかったようだ。

【写真】店頭からコメが消えたのに…在庫はあった【流通の闇】

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店頭に並ぶ「6年産米」

「これも、令和6年産だな」

 首都圏の老舗米店の店主、小島敏郎さん(仮名)はスーパーを訪れると必ず、米の棚をチェックする。米の袋を裏返しにして、「販売者」も見る。

 最近、不審に思うのは、スーパーの店頭に「令和6年産」の米が目立っていることだ。多くは、卸売り大手の商品だという。

 小島さんら米店には、昨年夏から秋にかけて、卸売業者に米を発注しても「在庫はない」と回答された苦しい記憶がある。商品が底をつき、「店を閉めるか」と、漏らす米店もあった。

 そしていま、店頭には潤沢に令和6年産の米が並んでいる。

「実際は、卸売り大手は米の在庫を持っていたんですね」(小島さん)

 さらに納得がいかないのは、その価格設定だ。令和6年産の米も、5キロ4500~5000円くらいする。だが、仕入れ時はどうか。今年の仕入れ値は60キロ3万3000円前後だが、昨年は2万2000円くらいだったはずだ。

「今年よりもずっと安い価格で仕入れた6年産米を、新米が高騰しているいま売って、売り上げを伸ばしている」(同)

余る新米に「国が買い取って」

 では、卸売り大手が潤沢な利益を享受しているかというと、「そうとはとてもいえない状況」と小島さんは見る。

「今年になって、高値で新米を集めすぎてしまって、相当困っているのではないか」(同)

 新米は売れていない。銘柄米で5キロ5000円前後。高騰しすぎた価格に、消費者が二の足を踏んでいるようだ。

 実際、卸売業者から、国に支援を求めるような発言が相次いでいる。

 JA全中の山野徹会長は10月の会見で、「備蓄米の買い入れや買い戻し、機動的な対応が必要だ」と訴えた。


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2024(令和6)年秋、販売する商品がなくなり、値札だけが残された米店=米倉昭仁撮影

 米卸売り最大手・神明ホールディングスの藤尾益雄社長は、朝日新聞の取材に対して、こう語った。

「正直、60キロ3万5000円で買った米を、2万5000円では売れない。国が買い取って安く売るしかないのではないか」

 小島さんはこう話す。

「昨年、売る米がなくて、閉店した米店もあったのです。高値で買い集めておいて、『売れないから国に買い取れ』なんて、ずいぶん都合のよい話だと思います。恥ずかしいと思わないのか」

ブローカー「安くするから買い取って」

 新米の販売不調に苦しんでいるのは卸売業者だけではないようだ。

 最近、小島さんの元に、「米を安くするから買い取ってほしい」という電話が次々と舞い込むようになった。電話の主の多くが、米を扱ったことのないブローカーだという。

「昨年、農家に買いつけに現れたといわれる『転売ヤー』とは違うようです。米自体は袋に検査印が押されたきちんとしたものです」(同)

 小島さんはこう推察している。

 米を「もっと高く売れるだろう」と踏んでいた一部の集荷業者が、卸売業者に売り抜けるのを失敗した。集荷業者は販売に長けたブローカーに依頼して、米店に買い取りを打診しているのだろう。

注意喚起する理由

 だが、何しろこれまで取引したことのないブローカーだ。思わぬ被害を受けないとも限らない。

 他の米店にも同じような電話がかかってきていると聞き、小島さんは、注意を呼びかけている。

「米店は、なじみの業者から前金で米を買うのが普通です。取引が初めてのブローカーが相手となると、金を支払っても商品が引き渡されるのか、確証がない。代金を支払うのは、必ず現地に行って、トラックに米が積まれるのを確認してからにすべきだ、と伝えています」(同)

「安い新米」のニーズ

 消費者が米の高値に慣れつつある一方で、小売業者が求めているのは、とにかく売りやすい「安い新米」だ。

「最高品質の『1等米』よりも『2等米』が卸売業者から買われています。質より価格ありきです」(同)


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透き通った1等米。白くにごった2等米は安く取引される。1等米と2等米をブレンドすれば比較的安価な米ができる=米倉昭仁撮影

 通常の米よりも小粒の「中米(ちゅうまい)」も人気だという。これは収穫した玄米を選別する際、ふるい目から落ちた米で、粒厚が1.85~1.7ミリのもののことだ。

「これらの米をブレンドして、少しでも安く売れる商品を作るのです」(同)

 農林水産省によると、10月27日~11月2日に全国のスーパーで販売された銘柄米5キロの平均価格は税込み4540円で、過去最高になった。それに対して、ブレンド米は9月以降、同3500円前後と、比較的安値で推移している。

「特別栽培米」は堅調

 小島さんの店では、販売する米は11月からすべて新米に切り替わった。

 だが、新米が売れていないといわれるなかにあって、「売れ行きは好調」だという。なぜか。

「うちは、無農薬の米や、有機肥料を使用している『特別栽培米』を主力商品にしているからではないでしょうか」(同)

 特別栽培米は生産コストがかかるぶん、令和の米騒動が起こる前から、5キロ3000円(2023年実績)くらいの販売価格だった。

「この数年、通常栽培の銘柄米(慣行米)の価格が高騰したので、『特別栽培米』に割安感が出たのだと思います。価格は5100円前後で、昨年の約1.5倍の価格なのですが、お客さんが増えています」(同)

 どうせ高いのだから、値上げ幅の少ない、良質な米を食べたいということか。

今になって「流通の目詰まり」

 そんな小島さんの目下の悩みは、東北地方を中心に新米の入荷が遅れていることだという。

「例年ならほぼ全て10月中に入荷するのに、大幅に遅れている。新米全体の売れ行きが悪く、卸売業者の倉庫になかなか空きができないため、遅く取れた東北地方の新米の入庫が遅れているのです」

 かつて農水省が米価高騰の原因だと主張していた「流通の目詰まり」が、まさに今、起きている。

 その原因が、「米余り」というのは、なんとも皮肉な話だ。

(AERA編集部・米倉昭仁)

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