KDDIも白旗…「0→1を生み出せない」大企業が年間7.6兆円市場で弱者転落の衝撃(ビジネス+IT)
かつては市場を席巻したJTC(Japanese Traditional Company)、すなわち日本の伝統的大企業のマーケティング戦略。しかし、時代は変わり、彼らの手法はもはや過去の遺物と化している。私たち中小ベンチャーから見れば、マーケティングの世界において、もはや大企業は恐れるに足らない存在である。むしろ、彼らが失敗した分野で、私たちがあっさりとヒットを生み出すことさえ珍しくない。 前述したように2024年の日本の広告費総額は7.6兆円、そのうちWEB広告費が3.6兆円、マスコミ四大メディア合計が2.3兆円、その他が1.7兆円となっていることから、現代のマーケティングの主流がWEBマーケティングであることは間違いない。 しかし、このWEBマーケティングで大企業は苦戦している。WEBマーケティングの世界において、JTCと言われる大企業はもはや「弱者」と言っても過言ではない。 この現象の核心は「組織のDNA」にある。企業の成長プロセスを解剖すると、驚くべき法則が浮かび上がる。なぜ、大企業はWEBマーケティングで弱者に陥ったのか? その謎を、企業の組織論という名のメスで解剖していこう。
世の中には、2種類の優秀な人材が存在する。「新たなものを創造する者」と「事務処理能力に長けた者」だ。その比率は、おおよそ5対95といったところだろうか。理由は単純で、日本の義務教育は「事務処理能力に長けた者」を生み出す内容になっているからだ。 企業は、何もない荒野で前者の「新たなものを創造する者」が1人~数人で立ち上げる。そこから、試行錯誤を繰り返しながら、マーケティングの「勝ち筋」を探し求める。もし、その勝ち筋が見つからなければ、企業は容赦なく淘汰される運命にある(創業10年以内に94%が消え去るという冷酷な現実)。 しかし、わずか6%の企業は「勝ち筋」を見つけ、その険しい道を生き残る。その勝ち筋は2種類あり、1つは「創業者だからこそできる勝ち筋」、もう1つは「誰にでも再現可能な勝ち筋」だ。 「創業者だからこそできる勝ち筋」は、出現率5%と少ない前者の「新たなものを創造する者」にしか操れない秘伝の技である。 よって、誰にでもできる技ではないので、大規模な展開には向かない。そのため、「創業者だからこそできる勝ち筋」で勝負する企業は、職人気質の少数精鋭集団として、独自の道を歩むことになる。 一方、「誰にでも再現可能な勝ち筋」を見つけた企業は、出現率95%の「事務処理能力に長けた者」を大量に投入することで、雪だるま式に成長し、大企業へと変貌を遂げる。もちろん、この道も競争が激しい。しかし、その競争を勝ち抜いた者こそが、現代の巨大企業の礎を築いたのだ。 これが、JTCと呼ばれる20世紀型の大企業がたどってきた成功の軌跡である。つまり、彼らの組織は、事務処理能力に秀でた人材によって支えられているのだ。 しかし、現代の市場を支配するWEBマーケティングは、事務処理能力だけでは太刀打ちできない。
Page 2
従来のマーケティング、たとえばテレビCMやチラシを例に取ろう。 そのプロセスは、 ・まず、CMやチラシなどのクリエイティブを作成し、狭い地域でテストを行う テスト結果が良好であれば、全国規模で大量展開する というものだ。 このうち、後者の大量展開の段階で、事務処理能力の高い人材が圧倒的な力を発揮する。短期間で大量の業務をこなし、ビジネスを急拡大させるのだ。「大ヒット」はここで生まれる。 そして前者のテスト段階は、地味で目立たない作業であるため、後者の大量展開で成果を上げた者が「プロモーションの成功者」として脚光を浴びる。 多くの人々は、自分が敷かれたレールの上を走っていることに気づいていない。しかし、実際には、「新たなものを創造する者」が敷いたレールの上を、ただひたすら走り続けているに過ぎないのだ。 そして前者の工程は、最初は「創業メンバー」が担っている。しかし会社が大きくなると、創業メンバーが現場を離れ、残されたのは事務処理能力の高い人材ばかり。これでは、新たなものを生み出すことはできなくなる。そこで、大企業は、「新たなものを創造する」業務を前述の「職人気質の少数精鋭集団」の企業に外注し、自分たちは大量展開に特化するようになる。 だから大手企業のマーケティング関連部署の周辺は、必ず複数の小さな優良外部ブレーン会社が取り巻いている。 スタートアップ企業への連携が7年連続首位のKDDIは、スタートアップへの熱心な支援の理由を「社内では0→1ができないので、社外に求めているから」と公言している。 こうして、大企業は自ら「0→1」の部分を手放し、「1→100」は得意だが、「0→1」は不得意な組織へと変貌していくのだ。
さて、本題に戻ろう。なぜWEBマーケティングは、既存の大企業に不向きなのか? 従来のマーケティングが「0→1」のアタリを生み出す工程と、「1→100」の大規模展開工程に分けられるとすれば、WEBマーケティングは「0→1」のアタリを生み出す工程と、「1→10」の中規模展開工程を10回繰り返すことで「100」に到達する構造になっている。 比較するとこのようになる。 【新旧マーケティング比較】 ・従来型:1→100の単発爆発 ・WEB型:(1→10)×10の複数展開 つまり、従来は「1本の大ヒット」を狙っていたのに対し、WEBマーケティングは「10本の小さなヒット」を積み重ねることで勝利を掴むのだ。 WEBマーケティングの最大の特徴は、従来のマーケティングとは比較にならないほど正確なターゲティング能力である。たとえば、一度「ロバの爪を切る動画」を見ると、次から次へと同じような動画が表示される。これは、超ニッチなニーズにもピンポイントで応えられることを示している。 つまり、商品特性とユーザーの嗜好を完璧にマッチングさせれば、極めて効率的なマーケティングが可能になる。そして、「0→1」の段階では、WEBマーケティングは従来のマーケティングを圧倒する精度と利益率を誇る。初期の顧客獲得コストは、従来のマーケティングの半分から1/10にまでに抑えられる。 しかし、WEBマーケティングは、狭いターゲットに特化しているため、対象者が少なく、拡大の限界がある。拡大する工程では1→10までしか広がらないのである。そこで、「1→10」を10個展開することで、「100」を目指す戦略が有効になる。 しかし、この戦略こそが、既存の大企業にとって最大の難関となる。 「1→10」を10個展開するには、その前に「0→1」が10個必要なのだ。しかし、事務処理能力の高い人材だけでは、それを用意することは不可能だ。「0→1」を10個用意するには、10人の創造者が必要なのだ。 さらに、残念なことに大企業の持つ「ネームバリュー」「資金力」を背景にした戦い方は、WEBマーケティングでは通用しない。 WEBの世界は「世に埋もれた新しいものを発見しよう」という観点においては、「有名じゃないからこそ意味がある」場合も多いので、大手企業の「ネームバリュー」があまり通用しないのだ。 また、資金の多寡も関係がない。 1万円の広告投資で1万2,000円の売上(粗利)を作れる人が、1億円の広告投資をすると1億2,000万円の売上を上げられる。よって、1万円の広告投資で1万2,000円の売上を作れる人は、いくらでも簡単に資金を調達できる。 一方で、いくら最初から資金があっても、1万円の広告投資で8,000円しか売上を上げられない人なら、1億円を提供しても8,000万円しか売り上げられない。 つまり重要なのは、「最初から資金があるか」ではなく、「少ない資金でも成果を出せる能力があるか」だ。真に成功できる人材であれば自然と資金は集まってくるので、最初から資金があるかどうかは関係がないのである。 よって、WEBの世界は「ネームバリュー」「資金力」に頼らず「0→1」を生み出せる人でなければ成果が出せないため大企業の強みを活かせず、大企業の弱みがそのまま出てしまうのだ。 大企業の社員で、自らSNSアカウントを立ち上げ、育てることができる者がどれほどいるだろうか? SNS運用には、WEBマーケティングの基礎が凝縮されている。自ら投稿し、反応を分析し、改善を繰り返す。そのようなPDCAサイクルを回せる者がどれほどいるだろうか? 私は、WEBマーケティングの世界に参入するにあたり、これらの点を理解していた。だからこそ、大企業をまったく恐れなかった。産業構造上、彼らは競合たり得ないからだ。私がWEBマーケティングの世界に足を踏み入れて25年、この構造は今も変わっていない。
※本記事は『戦わずして売る技術 クリック1つで市場を生み出す最強のWEBマーケティング術』を再構成したものです。
執筆:北の達人コーポレーション 代表取締役社長 木下 勝寿