なぜワイモバイルはゴールドカードを優遇するのか 背景を考える

山口健太ITジャーナリスト
割引適用のモデルケースではゴールドカードの利用を想定している(ワイモバイルのWebサイトより、筆者作成)

ワイモバイルが9月25日から提供する新料金プラン「シンプル3」では、ゴールドカード利用時の割引額が強調されています。

節約のイメージが強いワイモバイルなのに、なぜ年会費のかかるゴールドカードの保有をすすめるのでしょうか。その背景を探ります。

ゴールドカードの割引を増額 ただしポイント還元率の引き下げに注意

ワイモバイルの料金を「PayPayカード」で支払うと月額187円の割引を受けられます。それに加えて、ゴールドカードでは通信料金1000円ごとに最大10%のPayPayポイントを還元する仕組みでした。

これに対して新料金プランの「シンプル3」では、年会費無料の「PayPayカード」では月額330円、年会費1万1000円の「PayPayカード ゴールド」では月額550円に割引額が増えています。

一方、注意点としては、新料金プランではPayPayカード ゴールドのワイモバイル特典が変更され、スマホ料金に対する還元率が最大10%から最大1%に引き下げられています。さらに固定回線や電気料金に対するポイント還元も減っています。

ワイモバイルは新料金プランの発表にあたってゴールドカードを前面に出しており、Webサイトや新CMでは、これまでの一般カードに代わってゴールドカード利用時の料金を中心に見せています。

これまでの「シンプル2」のCM。年会費無料の「PayPayカード」による割引適用後の料金を示していた(ワイモバイルのYouTube動画より)「シンプル3」の新しいCMでは、ゴールドカードの利用を前提として見せ方になっている(ソフトバンクによる説明会の配信映像より)

ワイモバイルの利用者は節約志向にある人が多いと考えられる中で、年会費1万1000円のゴールドカードを持ちたい人はどれくらいいるのでしょうか。

この点についてソフトバンク 専務執行役員の寺尾洋幸氏は「ゴールドカードを使われているお客様はまだ少ない」としつつも、「結構な割合で回収されている」と説明。年会費の元を取っている人が多いことを強調しています。

PayPayカード ゴールドのポイント還元率は、条件達成などで最大2%になります。ざっくり計算してみると、1.5%還元で月3万円を利用すると年間5400ポイント、シンプル3における月額550円(年間6600円)の割引とあわせて1万2000円相当となり、年会費1万1000円を上回ることになります。

11月からはPayPayの決済回数(クレジット、残高、ポイントを含む)に応じて1GBなどのデータ容量がもらえるキャンペーンが始まることとあわせて考えると、ワイモバイルでも「PayPayをよく使う人を優遇したい」という思惑が感じられます。

11月から開始予定のキャンペーン。PayPayの決済回数に応じて無料で追加のデータ容量がもらえるという(ソフトバンク提供資料より)

ただし前述の通り、PayPayカード ゴールドの主要な特典だった通信料金などに対する最大10%のポイント還元は大幅に減っています。基本料金の値上げと相まって、全体的なおトク感はそれほど高まっていない印象を受けます。

そうなると輝きを増してくるのが年会費無料のPayPayカードです。新料金プランでは月額330円(年間3960円)の割引を受けつつ、毎月の利用傾向を見ながらゴールドカードに乗り換えるチャンスをうかがうことができます。

逆に、毎月の利用金額が多い人にとってはゴールドカードでも物足りない場合が出てきそうです。ドコモが「dカード PLATINUM」の発行枚数を伸ばしているだけに、PayPayカードから対抗策は出てくるのか気になるところです。

ワイモバイル利用者のニーズが多様化

ワイモバイルの契約数は2024年に1200万回線を突破後、現在では1300万回線に迫っているとしています。

近年はソフトバンクが提供する複数のブランドの中でワイモバイルが占める割合は増えており、「サブブランド」らしからぬ存在感を放っています。

ワイモバイルが占める割合は年々増えている(ソフトバンクの2024年10-12月期 決算説明会資料より)

ここまで増えてくると利用者のニーズも多様化していると考えられます。通信費の節約といっても、若年層のように収入が限られている層ばかりではなく、十分な収入を得ながらも、趣味や投資に回すお金を最大化する目的で使う人もいるでしょう。

新料金プランで2GB分の海外データ通信が加わったのも印象的な変化といえます。「ワイモバイルとゴールドカード」と同様に、「ワイモバイルと海外旅行」も必ずしも意外な組み合わせとは言えなくなりつつあります。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、2012年にフリーランスのITジャーナリストとして独立。日経クロステック(xTECH)やASCII.jp、ITmedia、マイナビニュースなどの媒体に寄稿し、2021年からは「Yahoo!ニュース エキスパート」として活動しています。

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