まるで45億年前の太陽系!? “惑星の誕生”が初めて観測される

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太陽系誕生の過程を写し出したかのような瞬間が、誕生から推定500万年という若い恒星の周囲で初めて捉えられた。塵とガスの円盤の“隙間”に、ガスを吸い込みながら成長する巨大惑星が輝いていたのだ。
チリにあるマゼラン望遠鏡やアリゾナ州の大型双眼望遠鏡(LBT)などが捉えた若い恒星「TYC 5709-354-1(通称・WISPIT 2)」の様子。この恒星を囲む明るい白色の塵のリングと外側の淡いリングの間にある塵のない領域(ギャップ)に、原始惑星「WISPIT 2b」が紫色の点として現れている。もうひとつの惑星候補である天体「CC1」は、塵のない空洞に赤く見えている。Photograph: Laird Close, University of Arizona

宇宙に輝く若い恒星の多くは、塵とガスでできた原始惑星系円盤に囲まれている。この円盤のなかに見られるリングやギャップ(ガスなどの物質が少ない領域)といった構造こそが、新たな惑星が形成されつつあるサインだと考えられている。だが、こうした構造のなかで成長過程にある惑星が、実際に観測された事例はこれまでなかった。

こうしたなか、米国やオランダの天文学者による国際研究チームが、ついにその“決定的瞬間”を捉えることに初めて成功した。「これまで何十本という論文で原始惑星がギャップを形成するという理論が発表されてきましたが、今日まで観測による決定的な証拠は何ひとつ得られていませんでした」と、アリゾナ大学のレアード・クローズは説明する

クローズらの研究チームが観測したのは、誕生してからまだ500万年ほどしか経過しておらず、太陽とほぼ同じ質量をもつ若い恒星「TYC 5709-354-1(通称・WISPIT 2)」だ。その周囲には塵とガスのリングが複数存在し、明瞭なギャップが刻まれている。まさにそのギャップの中に、「WISPIT 2b」と名付けられた惑星が姿を現したのだ。この惑星は木星の約5倍の質量をもち、周囲のガスをのみ込みながら成長を続けているという。

まるで太陽系の若き日の姿

WISPIT 2bを検出する手がかりとなったのは、水素原子が放つ「Hα線」という特徴的な光である。この光は惑星が周囲からガスを取り込む過程で、表面に高温のプラズマが発生することで放たれる。研究チームは今回、アリゾナ大学が開発した高性能の補償光学システム「MagAO-X」を使って恒星の強烈な光を分離することで、WISPIT 2bの淡い輝きを浮かび上がらせることに成功した。

惑星は通常、周囲のガスや塵を重力で引き寄せることで質量を増やしていく。このときに物質が多く集まって明るく見える部分が、若い恒星を取り巻く原始惑星系円盤のなかに形成されるリングだ。そして惑星がある程度の大きさまで成長すると、その重力と運動の影響で軌道付近の物質がかき乱され、原始惑星系円盤の中に物質が少ない領域であるギャップが形成される。

WISPIT 2からおよそ54au(auは天文単位。 1auは地球と太陽の間の距離)の距離に位置するWISPIT 2bは、ちょうど原始惑星系円盤のリングとギャップの境界に位置している。つまり、このギャップはWISPIT 2bが周囲の物質を掃き出した痕跡であり、原始惑星系円盤の構造と惑星形成の因果関係を直接証明する証拠だということだ。

さらに研究チームは、恒星により近い位置でもうひとつの惑星候補である天体「CC1」を発見した。この天体は木星の9倍ほどの質量をもっていると考えられるが、惑星に該当するかどうかはまだ断定できていない。

もし惑星であることが確認されれば、WISPIT 2では2つの巨大ガス惑星が並んで、複数のリングとギャップを形成していることになる。そうなれば太陽系の若き日の姿を彷彿とさせるだろう。

惑星発見以上の意義

WISPIT 2bの発見は、複数の観測装置を組み合わせた多波長観測によって実現した。チリのマゼラン望遠鏡でHα線を捉えただけでなく、アリゾナ州の大型双眼望遠鏡(LBT)やヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡(VLT)を用いた赤外線観測でも惑星の存在が裏づけられたのだ。技術の進歩が惑星形成の研究に新たな眼を開いたといえる。

研究者たちによると、Hα線を放射する惑星が観測される星系には、奇妙な共通点があるという。これまでに発見された事例はいずれも、原始惑星系円盤が地球から見て37〜52度ほど傾いた角度で観測されているのだ。これは単なる偶然ではなく、惑星へのガス降着の仕組みに関係している可能性があると、研究者たちは考えている。

太陽系もまた、かつては同じような原始惑星系円盤から始まった。塵の粒が集まり、やがて木星や土星といった巨大ガス惑星が生まれ、円盤の構造を大きく変えていったと考えられている。

このほど観測されたWISPIT 2の事例は、その過程をリアルタイムでのぞき見ているようなものだ。それはまるで45億年前に太陽系が“赤ちゃん”だった頃の写真を見ているようだと、LBTで惑星の質量を推定したガブリエル・ワイブルは説明している

今回の研究成果は、単に新たな惑星を見つけたこと以上に大きな意義をもつ。惑星の誕生によって恒星の円盤にギャップが形成されるという長年の仮説を裏付けるとともに、成長中の惑星を直接検出する手法の有効性を実際に示したからだ。

今後も同様の観測を続けていくことで、惑星形成のメカニズムがより明確になることが予想される。WISPIT 2の発見はその第一歩であり、太陽系誕生の謎を解く手がかりとなるかもしれない。

(Edited by Daisuke Takimoto)

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