任天堂、Switch 2専用ゲームの増加にブレーキ?旧Switchユーザー離れを防ぐためか

多根清史アニメライター/ゲームライター
Image:Digital Foundry

Nintendo Switch 2の発売から約3か月が経過しました。『マリオカート ワールド』など任天堂のファーストパーティタイトルは好調な一方で、サードパーティ製ゲームの売上はあまり振るわないというデータが出ています。

その背景には「魅力的なタイトルが移植できない」、つまり十分な数の開発キットがスタジオに配布されていないことがあるのではないか、という見方が浮上しています。

実際、多くの開発者がSwitch 2の開発キットを入手できずに苦労していると報じられており、任天堂が「どのスタジオに開発を許すかを慎重に選んでいる」との指摘が出ています

ゲーム映像の分析で知られるDigital Foundryの関係者は、複数の開発者から「Switch 2ではなく旧Switch向けにリリースし、下位互換に頼るように」と任天堂に促された話を聞いたと述べています。多くのスタジオはSwitch 2で開発したいと考えているものの、肝心の開発キットが手に入らない状況とのことです。

さらに、AAA級の大手スタジオでさえ開発機材を確保できない一方で、一部のインディースタジオには配布されているという不思議な状況もあります。たとえば、カメラ機能を活用したインディー作品「チルっと焚き火ソン」が優先されているというぐあいです。

この問題が注目を集めたきっかけは、世界最大級のゲームイベントGamescomで『Elden Ring: Tarnished Edition』の携帯モード動作に難があると報じられたことでした。現地でデモを体験した記者は、チュートリアルを終えてオープンワールドに移行した途端に安定性が失われ、ハードの処理能力に不安を覚えたとしています

Switch 2のCPUやGPUは旧Switchより高性能ではあるものの、『エルデンリング』のような重量級タイトルを安定動作させるには開発キットを使った十分な最適化が必要です。

しかし、目玉となるフロム・ソフトウェアでさえ入手がSwitch 2の発売前後にずれ込んだとみられ、開発キット不足の深刻さを物語っています。

Switch 2専用タイトルの急増は旧Switchユーザー維持に不都合?

写真:ロイター/アフロ

任天堂が開発キット配布を制限している理由のひとつとして推測されるのは、旧Switch市場を急激に冷え込ませないためです。

任天堂は約1億5000万台の旧Switchユーザーを維持する方針を繰り返し表明しており、新機種への移行を急がせるより新旧ハード対応を推奨していると考えられます。

また、Nintendo of America社長のDoug Bowser氏も「Switch 2は高価であり、旧Switchユーザーがすぐに移行するとは限らない」と語り、新旧Switchを両立させる戦略を強調しています

もう一つの理由としては、Switch 2の性能に対する不安を抑える狙いがあると考えられます。確かに旧Switchよりは高性能ですが、競合他社には依然として遅れを取っています。

任天堂自身もファーストタイトル『ドンキーコング バナンザ』でフレーム落ちが発生していることを認めており、早くもハードの限界を意識し始めているようです。

移植の完成度に関するニュースは良くも悪くも注目を集めやすく、『エルデンリング』に続き、Switch 2版『Borderlands 4』のデモプレイでも「敵が複数登場するだけで30fpsを維持できず、入力遅延や解像度低下が起きた」との報告が出ていました

Switch 2は携帯型ゲーム機の側面を持つ以上、消費電力や発熱の制約から据え置き機のような高性能は望めません。その制約の中で可能な限り性能を底上げしており、「開発者の工夫次第でPS5などとのマルチ移植も可能」になったと言えます。

今後は開発キットがより多くのスタジオに行き渡り、十分な最適化の時間が確保されるよう期待したいところです。

アニメライター/ゲームライター

京都大学法学部大学院修士課程卒。著書に『宇宙政治の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。現在はGadget GateやGet Navi Web、マグミクスで記事を執筆中。

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