ソフトバンク、7GHz帯で広域カバーを確認 6G時代の都市実証が予想以上の成果に
ソフトバンクは、ノキアの協力のもと実施した6G(第6世代移動通信システム)に向けたセンチメートル波(7GHz帯)の屋外実証実験で、都市部でも良好なエリアカバレッジと通信品質が得られることを確認したと発表した。
ソフトバンク先端技術研究所の矢吹歩氏は、まず6G(IMT-2030)の技術的な背景を紹介した。5Gのコンセプトに加えて、6Gでは特にVRやMRといった「イマーシブコミュニケーション」への対応が重要になり、大容量コンテンツを扱う通信が求められるという。6Gの候補周波数としては、センチメートル波とサブテラヘルツ波が検討されてきた。
同社では、サブテラヘルツ波が100Gbps級の高速通信に必要になるとして研究を進めてきたが、周波数が高すぎることによる課題やデバイス技術の未成熟といった理由から、世界的には「FR3」と呼ばれるセンチメートル波への注目が高まり、ソフトバンクもその取り組みを強化することになった。
議論に挙がっている15GHz帯よりも、7GHz帯はSub6に近く、連続した周波数帯を確保しやすいことから、ソフトバンクは7GHzに注目している。
理論上、7GHz帯は3.5GHz帯よりも見通し内での伝搬損失が約6dB大きくなるが、波長が半分になるため、同じ面積のアンテナに4倍のアンテナ素子を収容できる。その利得を活かすことで、理論上の損失分を補える可能性がある。
今回の実証の目的は、この特性によって7GHz帯がミリ波のようなスモールセル中心ではなく、マクロ局による広域展開に使えるのかを確かめることにあった。
実証は2025年6月から、東京都中央区の銀座エリア(4丁目~8丁目)で実施された。Massive MIMOに対応した7GHz帯(7180~7280MHz)の実験局3局を、3.9GHz帯の商用5G基地局と並設し、EIRP(等価等方放射電力)を74~75dBWで揃え、比較検証を行った。
実験の結果、大通りの見通し内では、3.9GHz帯と7GHz帯の伝搬損失はほぼ同じで、中央値の差は1dB未満となった。ソフトバンクの試算を大きく上回る結果で、銀座のような高層ビル街では電波が反射し合い、外へ漏れにくい環境が作用したとみている。
一方、路地の見通し外では7GHz帯の伝搬損失が大きく、中央値の差は約10dBとなり、見通し外での伝搬モデルと概ね一致した。
測定車による評価では、大通り沿いだけでなく、細い路地など見通し外の場所でも信号を受信でき、広いエリアをカバーできることが確認された。受信電力(RSRP)の測定では、弱電圏外(-100dBm以下)となる地点は約0.5%にとどまり、良好なエリア形成が可能とわかった。
通信品質(SINR)は全てのエリアで0dB以上となり、安定した通信が可能だった。中央値は5.9dBと良好で、10dB以上のエリアも23%存在した。これは7GHz帯の電波が回り込みにくく、隣接局との干渉が少ないことが品質向上につながったと見ている。
ソフトバンクは、7GHz帯でも高出力のマクロ局を使うことで、都市部の繁華街を広くカバーし、品質の高い通信エリアを構築できるとまとめた。今後は、8GHz帯や「Upper 6」と呼ばれる帯域での実証も計画し、6G導入に向けた取り組みを進めていく考え。
ノキアソリューションズ&ネットワークスの高岡晴生氏は、6Gに限らず周波数が戦略立案のうえで最も重要な要素の一つであると説明した。
ベル研究所の分析では、AI導入によるモバイル通信トラフィックの増加により、世界のネットワークトラフィックは2024年~2034年の10年間で5~9倍に拡大する見込みで、現行の5Gネットワークは2029~2030年頃に飽和すると指摘。6G導入前に新たな周波数を確保する必要があるという。
特に注目されているのが、6.425GHz~7.125GHzのいわゆるミッドバンドで、700MHzの帯域幅を確保でき、5G Sub6と同等のカバレッジを、進化したアンテナ技術で実現できるとされる。
6.4GHz~8.4GHzの帯域レンジでは、日本でも3オペレーターで200~300MHz程度の割り当てができそうな候補はあるが、現状では課題が多い状況だという。
WRC-23で6G候補とされたミッドバンドは、日本ではFPU(放送事業用固定無線局)やWi-Fi向けの議論が進んでおり、すぐにIMTへ割り当てるのは難しい。また、7.1GHz以上の帯域は衛星通信で利用されているため、移動通信用に割り当てるのは簡単ではない。
日本の通信事業者やベンダーは、こうした状況のなかでもオペレーターあたり200MHz以上の帯域確保を目標に、総務省などへの働きかけを進めている段階にある。
欧州では、RSPG(無線スペクトル政策グループ)の協議の結果、6.4GHzを超える帯域をIMTバンドとして利用する方向が固まり、EUへの意見書提出に向けて調整が続いている。
ノキアはソフトバンクと連携するほか、フィンランド、オーストリア、英国、フランスなど各国で7GHz帯の実証を進めており、屋内外の全ての試験で3.5GHz帯の無線装置と同等の性能を確認しているという。