時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリカを「一人負け」の道に導く...中国は大笑い(ニューズウィーク日本版)

冷戦時代のアメリカは、長距離ミサイルや人工衛星など、最先端の軍事技術ををめぐり、ソ連と猛烈に競い合った。だが、21世紀の今、最先端技術のフロンティアはAI(人工知能)と次世代エネルギーへと移り、競争の風景も大きく変わった。 【動画】議会で「ドリル・ベイビー・ドリル」(石油を掘りまくれ)と訴えるトランプ アメリカは、AIの分野では他国を寄せ付けない強さを見せている。ところが次世代エネルギーの分野では、いまだにスタートラインをうろついているレベルにある。その原因は、技術でも、経済でも、安全保障でもない。政治にある。 ドナルド・トランプ米大統領は、2期目の発足以来、大規模な石油・石炭産業優遇策を講じてきた。また、トランプ政権はエネルギー安全保障を理由に、再生可能エネルギーへの支援を縮小して、瀕死の石炭産業を政治的に蘇生させようとしてきた。 だが、現実は違う。2019年以降、アメリカの石油と天然ガス、石炭の生産量は需要を上回っており、余剰分は輸出に回されてきた。これによりアメリカは世界屈指の化石燃料輸出大国となった。つまり、エネルギー安全保障の問題は存在しない。 代わりにアメリカが直面しているのは、エネルギー費の上昇と、気候変動問題の悪化だ。しかもそれは、トランプ政権の化石燃料支援策により、一段と悪化するだろう。

トランプ政権はこの半年で、それまでの10年間のグリーン産業育成策を覆した。次世代エネルギーのイノベーションを加速させた数十億ドルの税額控除や補助金も廃止された。 これに対して中国は、再生可能エネルギー大国の道をまっしぐらに進んでいる。とりわけ風力発電と太陽光発電、そして次世代バッテリーの分野に力を入れており、24年に新たに設置された風力発電施設と太陽光発電施設の数は、それ以外の全世界の合計を上回った。 中国にとってうれしいことに、世界一のクリーンテクノロジー大国の座をめぐり、手ごわい競争相手になると思われたアメリカは、自ら早々に「戦線離脱」してしまった。 今やクリーンエネルギー商品の要となるリチウムイオン電池の約5分の1は中国製だ。最先端のバッテリーの多くも、中国で開発され、中国企業に特許を押さえられている。 トランプが相変わらず、「ドリル、ベイビー、ドリル」(石油を掘りまくれ)」と連呼している間に、中国はリチウムやニッケルといったクリーンエネルギー社会への移行に不可欠の重要鉱物(クリティカルミネラル)の市場を圧倒している。 アメリカでは、7月に成立した税制改革・歳出削減法案(いわゆるワン・ビッグ・ビューティフル法案)により、一般家庭の光熱費は、35年までに年170ドルのペースで上昇すると予想されている。 その一方で、自然災害による被害は年々深刻になっている(24年の被害総額は1830億ドルに達した)。7月にテキサスを襲った大規模な洪水や、カリフォルニアやハワイの森林火災により、気候変動は一般市民にも無視できない問題になってきた。それなのに政府が化石燃料業界を手厚く支援し続けることは、有権者の納得を得られなくなるだろう。

ニューズウィーク日本版
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