この黄色い粉、地球温暖化を救う救世主になるかも
カレー粉のような黄色い粉。世界を救うヒーローになるかもしれない。
温暖化対策としてすっかり必要不可欠な存在になってしまった、大気からのCO2直接回収(直接空気回収=DAC)。稼働中のDAC施設を全部合わせても、まだ1年かけて年間排出量の30秒分しか回収できないありさま。
人類の未来は粉々に砕け散るのか…と途方に暮れかけているところに、希望の黄色い粉がさっそうと登場しました。実はその黄色い粉、大木並みにCO2を吸収してくれるそうですよ!
黄色い粉でCO2をキャッチ
典型的な大木は、空気から年間10~40kgのCO2を吸収します。今回、カリフォルニア大学バークレー校の科学者チームは、200gほどでCO2を20kg吸収する黄色い粉を開発しました。研究結果は、科学誌Natureに掲載されています。
黄色い粉は共有結合有機構造体(COF)と呼ばれる多孔質材料で、「COF-999」と名付けられています。研究に参加した同大学の博士号候補であるZihui Zhou氏によると、この粉を走査型顕微鏡で見ると、何十億個もの穴が開いた小さなパスケットボールのような感じだそうです。
炭素と窒素でできた六角形の構造体の足場には、塩基性のpHを持つアミンと呼ばれる化合物が結合しており、通過する空気から酸性のCO2分子だけを効率よく除去します。残りの成分は何事もなく通り過ぎていくといいます。
研究チームは、COF-999の炭素除去能力を試すために、黄色い粉をストローくらいの大きさのステンレス製の鋼管に詰めて、CO2濃度が410~517ppmある屋外の空気に20日間さらしたところ、鋼管を通過した空気からはCO2がまったく検出されなかったとのこと。
つまり、実験時における黄色い粉の炭素除去率は100%だったことになります。カレー粉みたいな黄色い粉、優秀すぎる。
また、多孔質のCOF-999は表面積が大きいので、CO2分子を保持できる場所が多いといいます。そのため、直接空気回収(DAC)に使用される他の素材と比較して「少なくとも10倍」の速さでCO2を除去できるそう。
研究を主導したOmar Yaghi氏は、今後もさらに改良を続け、2025年には能力を2倍に高める予定だと述べています。
Yaghi氏は、DACに限らず、既存の製油所や火力発電所がCO2を回収・貯留するシステムを導入している場合、CO2除去に使用する素材をCOF-999に置き換えるのは可能だといいます。CO2回収の効率が上がりますね。
再利用可&耐久性バッチリ可能
通常、炭素回収技術によって大気から除去されたCO2は、素材を加熱することで放出されます。現在炭素回収に使用されている素材は、CO2を放出させるには120度以上まで加熱する必要があるのに対して、COF-999は60度ですむといいます。
CO2放出に必要な温度が低いほど、消費するエネルギーも少なくなりますね。発電時にCO2を排出するエネルギーで回収したCO2を分離する場合でも、COF-999を使えばCO2排出量を減らせます。
さらに、COF-999は耐久性もバッチリ備えていますよ。Zhou氏によると、新しいバージョンは実験が終了するまでにCO2を300回もキャッチ&リリースできたそうです。
研究には参加していない、アリゾナ州立大学のCenter for Negative Carbon Emissionsを創設したKlaus Lackner氏は、COF-999の耐久性テストの結果について、いい兆候だとしたうえでこうコメントしています。
100サイクルを終えても劣化しないということは、数千サイクルはいけるということです。数十万サイクルが可能かどうかはわかりませんけど。
実用化には課題も
あまりにも万能過ぎて今すぐ地球規模で導入を進めてほしいと思っちゃいますが、産業規模で展開するには、粉が吹き飛ばされることなく空気が通れるような、金属製の大きな箱を作って、既存の化学工場や石油施設のような規模で大量にまとめて設置する必要があるとZhou氏は述べています。
また、Lackner氏は、DACによる何千億トンものCO2除去を本格化させるには、システム全体のコストを「現在の10分の1にしなければならない」と話しています。
さらに、ペンシルベニア大学の化学エンジニアであり、かつてアメリカのエネルギー省で炭素除去に取り組んだことのあるJennifer Wilcox氏は、COF-999はまだ実際の用途でテストを行なっていないと指摘しています。
たとえば、フィルターに塗布したり、ペレット状に成形したりした場合、空気の流れを制限しすぎるとファンのエネルギー消費量が増える可能性があるそうです。Wilcox氏はこのような技術的特性が「最終的にはコストを左右するでしょう」と述べています。
黄色い粉は追い風に乗れるのか、向かい風にさらされてしまうのか。パリ協定の「気温上昇を産業革命前比で2度未満に抑え、それを大きく下回る1.5度未満を目指す」という目標を達成するため、安定した気候を維持するために、温暖化対策としてのDACは不可欠です。
Yaghi氏はこう話しています。
たとえCO2の排出を止めたとしても、大気中のCO2を除去する必要があります。他に選択肢はありません。
飛べ、未来をつくる黄色い粉。でも、吹き飛ばされないでね。
Source: Zhou et al. 2024 / Nature, Los Angeles Times, UC Berkeley
Reference: EcoTree