コラム:米国債売りが示唆する「ドル離れ」の深刻な未来

 最近の米国債売りについて、海外投資家が大挙して資金を引き揚げていることの表れだと断言するのは時期尚早だ。写真は米ドル紙幣。2022年7月撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

[ロンドン 14日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 最近の米国債売りについて、海外投資家が大挙して資金を引き揚げていることの表れだと断言するのは時期尚早だ。しかし何事かが進行している兆しが出ている。今後起こり得る動きがどれだけの規模になるかが、投資家と米政府が真剣に考えなければならないシナリオを決定する。

欧州時間14日午前の米10年国債利回りは4.44%と、11日終値の4.5%はやや下回ったが、4日以前の4%未満に比べるとなおずっと高い。先週の10年国債利回りの上昇幅は、過去20年余りで最大を記録した。

トランプ大統領が2日に発表した「相互関税」の詳細をきっかけに市場が混乱した足元の局面で、世界屈指のリスクフリー資産とされる米国債が買われるのではなく、売られたことはいささか驚く事態だ。理論上、借り入れコスト上昇は長期的な経済成長ないし物価上昇率の上振れによって正当化される。だが今回いずれのケースも当てはまりそうにない。関税に伴う世界的な貿易縮小は成長を圧迫するだろうし、期間10年のブレーク・イーブン・インフレ率などの長期の予想物価上昇率は4月に入ってやや低下している。

レバレッジを利かせ過ぎたヘッジファンドが売りを強いられていることも、マイナスに働いてきた。それが米国債市場を無秩序状態に陥らせれば、2022年の英国債市場の危機的動揺に際してのイングランド銀行と同じく、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長も緊急の国債買い入れに乗り出す可能性がある。

A line chart showing the precipitous rise in long-term US Treasury yields

米政府の立場から見て明らかにもっと恐ろしい展開は、通商政策を巡る混乱が海外投資家をおびえさせ、米国の金融資産からの撤退を促すことだ。実情を示す公式データの発表は遅れるので、今は「状況証拠」しか入手できない。ただ4月になって、投資家が米国債を買って得られる利回りが上がったにもかかわらず、主要通貨に対するドル指数が約5%下落した点からは、ドル建て資産に売り圧力が生じている様子がうかがえる。ドイツ、スイス、日本の国債といった他の安全資産は米国債と逆に利回りが低下しているのだ。

米政府のデータによると、オランダの年金基金から中国政府、日本の生命保険各社までさまざまな海外投資家が1月に保有していた米国債は総額でおよそ8兆5000億ドル。これは米証券業金融市場協会(SIFMA)が直近で推計した発行残高の30%に相当する。海外投資家が米国債への資金配分を減らせば、利回りはこれから長期にわたって上昇する。

海外勢は近年、米国株も熱狂的に購入してきた。UBSのアナリストチームが最近試算したところでは、海外投資家が保有するドル建て資産(株式と債券)が5%少なくなれば、7000億ドル前後のドル売り圧力が生み出されてもおかしくない。これは米国の経常赤字の3分の2に等しく、現実化すれば足元の混乱が全く他愛もないものに見えるほど深刻な事態になるだろう。

●背景となるニュース

*米10年国債利回りは14日1038GMT時点で4.44%と、11日の米市場終値の4.49%からやや低下している。

*主要通貨に対するドル指数は14日が99.44で、1日以降で4.6%下落した。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

Liam Proud is a Breakingviews Associate Editor, based in London. He focuses on banking, finance, private equity and deals. He joined Breakingviews in 2016 and previously covered technology, media, telecoms and the car industry.

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