「火星の土から金属を作る方法」を科学者らが探っている、火星基地の建材を現地調達できるかも
NASAなどが将来的な火星の有人探査を計画している中、「火星に基地や居住地を建設する」というアイデアも現実味を帯びつつあります。火星基地建設における大きな障害のひとつが、「どうやって大量の建材を火星に運ぶのか?」という点ですが、科学者らはこの問題を解決するべく「火星の土から金属を作る方法」を探っています。
Iron (alloy) extraction on Mars through carbothermic reduction of regolith: a thermodynamic assessment and experimental study - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0094576525002814Metals extraction on Mars through carbothermic reduction: Mars regolith simulant (MGS-1) characterization and preliminary reduction experiments - ScienceDirect https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0094576525002498
How to make metals from Martian dirt | Swinburne
https://www.swinburne.edu.au/news/2025/08/how-to-make-metals-from-martian-dirt.html/火星基地の建設には大量の建材が必要となりますが、そもそも物質を地球から宇宙に打ち上げるには多額のコストがかかります。たとえばNASAが開発した火星探査機「パーサヴィアランス」の重さは約1トンほどでしたが、これを火星に送り込むだけでなんと2億4300万ドル(約360億円)もの費用が必要となりました。
近年は宇宙開発業界の発展に伴って打ち上げコストが下がりつつあるものの、火星基地に必要な建材をすべて地球から輸送するとなれば、やはり巨額の費用が必要です。オーストラリアのスウィンバーン工科大学の卒業生であり、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)で博士研究員を務めるデディ・ナババン博士は、長年この疑問について考え続けてきたとのこと。
ナババン氏は、「地球から火星へ金属を送ることは可能かもしれませんが、経済的ではありません。何トンもの金属を火星に運ぶことを想像できますか?それは現実的ではありません。その代わりに、火星にある資源を活用することができます。これは、現地資源利用(in-situ resources utilization/I.S.R.U.)と呼ばれています」と述べ、火星で建材を作り出すことを提唱しています。
宇宙空間にある物質を使って金属を作り出す学問は、「astrometallurgy(宇宙冶金(やきん)学)」と呼ばれています。たとえば、火星の土(レゴリス)には鉄分豊富な酸化物が含まれており、大気中には還元剤として働く炭素もあることから、火星には金属を作り出すのに必要なすべての成分がそろっています。 ナババン氏はスウィンバーン工科大学の宇宙冶金学者であるアクバル・ラムダニ教授らと共に、火星のレゴリスを人工的に再現した模擬レゴリスを使い、金属を作り出すプロセスを研究しています。テストでは、模擬レゴリスを火星の表面気圧を再現したチャンバー内に置いて加熱したところ、摂氏約1000度で純鉄が生成され、約1400度で液体のシリコン-鉄合金が生成されることが示されました。
ナババン氏は、「火星のゲール・クレーターで見つかったものと非常によく似た特性を持つ模擬物質を選び、地球上で火星の環境を模倣して処理しました。これにより、この処理が地球外でどのように機能するかを的確に把握できるようになりました」と述べています。 以下が、ナババン氏らが研究に用いている火星の模擬レゴリスです。
ISRUは宇宙科学における成長分野であり、すでにパーサヴィアランスに搭載された酸素生成装置「MOXIE」は、火星の大気中に含まれる二酸化炭素を利用して酸素を生成する実験に成功しています。火星の土などを用いた金属の生成は、ISRUの新たな飛躍となる可能性があります。
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ラムダニ氏は、火星で作られた合金が住宅や研究施設の外壁、そして掘削機械などに利用されることを期待しています。「確かに課題はあります。これらの合金が時間の経過とともにどのように機能するか、そしてもちろん、このプロセスが実際の火星の表面で再現できるかどうかをより深く理解する必要があります」とラムダニ氏は述べました。
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