金足農が2年連続の甲子園へ 吉田大輝は大会前「メンタルぼろぼろ」

2025年7月22日17時46分

 (22日、第107回全国高校野球選手権秋田大会決勝、金足農2―1鹿角=延長十回タイブレーク)

 気持ちが切れかけそうな場面で、金足農のエース吉田大輝には、笑みを見せる余裕があった。

 「やっぱり、そんな簡単にはいかないよな」

 わずか1点差で迎えた九回2死。ワンバウンドする変化球で空振り三振を奪う。勝利を手にしたかと思われたが、捕手が捕りそこね、かつ一塁への送球も遅れて振り逃げで出塁を許した。その後野手のミスが重なり、内野安打で同点を許した。

 昨夏に甲子園を経験した右腕がすごみを見せたのは、タイブレークに入った延長十回だ。

 「チームに流れを持ってくるのがエース。相手が何か仕掛けてくると思ったので」

 1点もくれてやるもんか――。そう言わんばかりに、二塁走者に鋭い視線を送り続ける。牽制(けんせい)をしつこく繰り返し、プレッシャーをかける。

 鹿角は強攻策で来た。先頭打者は球威で押して、中飛に仕留める。後続はストライク先行で見逃し三振と一直に抑えた。三塁を踏ませない好投で流れを引き寄せる。

 その裏、2番の高橋海生がスクイズを決め、サヨナラ勝利で甲子園への切符をつかんだ。

 実は吉田は、新チームが発足した昨秋はキャプテンだった。2年生エースだった経験を買われたが、「みんなを引っ張れなかった」。秋の県大会は4回戦で秋田工に2―3で敗れ、今春の選抜大会出場を逃した。

 春からはキャプテンを外れて投球に専念したが、それでも調子が上がらない。「メンタルぼろぼろ」の状態で、今大会を迎えていた。

 それが、この夏は準決勝でライバル明桜を1―0で完封。決勝では味方のミスをカバーする10回1失点の力投を見せた。

 「保護者や先輩、友達のものすごい応援がやる気につながった。自分はアドレナリンが出るタイプなのかな」。自分でも驚くほどの好投ができたという。

 昨夏は全国選手権の初戦で打ち込まれて敗れ、「自信を持ちすぎていた」と悔やむ。この日は浮かれた様子もなく、「次!次!」とベンチで声がけしていた。

 夏の秋田大会2連覇は、兄の輝星(現オリックス)ですらなし得なかったことだ。「兄へ報告するか」と問われると、笑いを交えて謙虚に言った。「あんまり上から行くとたぶんめっちゃ怒られる。普通に『優勝したよ』ってLINEします」

 背番号1は苦しんだ日々を経て大人になった。今度こそ甲子園で、「全力校歌」を響かせる。=こまち(大宮慎次朗)

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