帝京からJ2長崎加入も公式戦出場3分のみ、”大先輩”久保建英との邂逅喜ぶ19歳大型CB田所莉旺が気迫の92分間ソシエダ封じ「試合前に何人かの先輩に…」
出番の少ないルーキーイヤーで巡ってきたプロ初先発の相手が、川崎Fアカデミーの大先輩MF久保建英を擁するソシエダ。公式戦ではない国際親善試合という位置付けの華試合にも、並ならぬ闘志を持って挑んだV・ファーレン長崎の19歳DF田所莉旺が気迫の92分間で自らの価値をアピールした。
昨季の全国高校選手権で15年ぶりの出場を果たした帝京高出身の田所は187cmの上背を持つ大型CB。高卒ルーキーイヤーの今季は海外挑戦の意向もあったなか、J2の長崎入りを決断したものの、公式戦の出場機会は3月26日に行われたルヴァン杯1回戦・群馬戦(◯4-1)の延長後半12分からの3分間(公式記録)という一度きりに限られており、この試合に向けたモチベーションは人一倍高かった。
その姿勢はすぐにピッチ上で表現し、3バックの中央からの積極的な守備で魅せた。前半4分、トップ下のMFブライス・メンデスがセンターサークル付近まで降りてパスを受けようとすると、果敢に追いかけてクリーンなタックルで進撃を阻止。続く同5分にはさらに低い位置まで降りたB・メンデスを執拗にマークし、相手の巧みな駆け引きによってファウルにはなったものの、ショートカウンターにつながりそうな場面を作った。
スペイン代表経験を持つMFにも臆さないメンタルは田所の大きな長所だ。 「リーガでもバリバリ出場している選手だとスカウティングで聞いていたし、もう少し中盤でプレーするのかなと思ったら自分のマッチアップだった。高木監督からは『最初の5分、絶対に引くなよ』と言われていた。2度目はファウルという形になってしまって、そこは改善が必要かなと思うけど、ファーストプレーで行けたことで前向きな気持ちになれた」(田所) 両脇を固めるDF江川湧清、DF岡野洵のサポートも受けながら、「周りの選手にもハーフタイムにあれくらい行っていいよと言われたし、(江川)湧清くんと(岡野)洵くんがカバーに入ってくれたのもあって、思い切って当たれた」と前向きな手応えを得た。 その後はチーム全体のプレッシングが機能していたことで、大きくポジションを崩さずとも守れるようになり、安定した守備ブロックの一員としてそつのないパフォーマンスを継続。また攻撃ではうまく相手のファーストプレスを引き込みつつ、前後左右の味方へのパスをつける配球力でも存在感を見せた。最後は相手のシュートブロックに走った際、足がつってしまい途中交代となったが、後半アディショナルタイム2分まで堂々の“ほぼデビュー戦”だった。 試合後、報道陣の取材を受けた19歳は「緊張はあまりなくて、いつも通りのプレーで少しでも長崎のサポーターであったり、世間に自分の良さを伝えられればと思っていた。高木(琢也)監督からも『思い切って、楽しんでやってこい』というふうな声をかけてくださっていたので、そこは自信を持ってプレーできた。(実質的な)デビュー戦にしてはわりとできたのかなと思う」と充実感をにじませた。 代表落選の悔しさもぶつける気迫のパフォーマンスだった。今月17日、第2次大岩ジャパン初陣となるU-22日本代表のウズベキスタン遠征メンバーが発表されたが、そこには川崎F U-18で同期だったDF土屋櫂大をはじめ、年齢の近い旧知の選手が多く名を連ねたものの、田所の名前はなし。J2・J3からも選ばれる選手がいるが、公式戦で一定の出場機会を重ねている者ばかりで、実戦でアピールを求められているのは明らかだった。 「この前、発表されていたけど代表のメンバーに自分の知っているような選手がゾロゾロと入っていたのを見て、悔しさを感じていた。もともとこのままじゃいけないなとは思っていたけど、より本格的に思い始めた。監督・スタッフがこういったチャンスをくれたのは大きなチャンスだと思ったし、楽しむことももちろんそうだけど、自分としては長崎のファン、世間の皆さんに自分を知ってもらういいチャンスだと思っていた」(田所)この試合にかける思いの強さから「試合前には何人かの先輩に『今日良いプレーをして、そのままソシエダに行ってきます!』と冗談半分に言っていた」という田所。だが、ソシエダのCBではラ・リーガや欧州カップ戦で一定の出場機会を掴んでいる同い年のDFジョン・マルティンがプレーしており、川崎Fで背中を追い続けたDF高井幸大はトッテナムに渡った。彼らに自らを重ね、世界を目指す思いは本気だった。
「チャンスはそういうところに転がっているのも、いろんな選手を見てきて本当にわかっていた。年が近いCBの選手も出ているとスカウティングで聞いていたので、今日良いプレーをすれば目指せない場所ではないのかなと思っていたし、ここでやることでソシエダを含め、いろんなチームがいい選手なんじゃないかと見てくれている可能性もある。サッカーの世界はそういうのが多いじゃないですか。自分の二つ上の高井先輩がトッテナムに行ったことで、すごく刺激をもらっているし、目指せない場所ではないと思わせてもらったので、そういう面で今日はすごくワクワクしていました」(田所) そんな思いもこもった気迫の92分間を終えた後には、自ら久保のもとに歩み寄って話し込む姿も見られた。「たまたま近くにいて、握手をするタイミングがあったので、ちょっと話しかけようかなと思って。自分の中でわりとできた感覚もあったので、自信を持って話しかけられました(笑)」。パフォーマンスへの手応えも胸に、思い切って話を切り出したという。 「フロンターレのアカデミーの大先輩なので、お世話になっていたコーチが一緒だったりして、その話をさせていただいた。弟(久保瑛史)が一つ下で、彼はマリノスだったけど、自分がフロンターレの時によく対戦していたこともあって、そういう話をさせていただいた。自分が小さい頃から見ていた選手だったので、嬉しい時間でした」(田所)田所は高校1年時に帝京高に転籍するまでの間、小学校時代から川崎Fのアカデミーで過ごしており、川崎F U-12出身の久保は5歳年上の「大先輩」。これまで面識はなかったそうだが、共通の指導者である長橋康弘ヘッドコーチ、玉置晴一U-15等々力監督の話題から攻めることで、久保の懐に入り込んでいった。
特に玉置氏は「自分はあの人に一番お世話になって、今の自分があるのはほとんどあの人(のおかげ)だと思っている」というほどの恩師で、「小さい頃から『アイツ(久保)はそれくらいやっていたぞ』という取り組みは聞いていた」。試合中も、試合後も、積極的に世界との距離を測りにいった19歳は「まずは長崎で自分の立ち位置を確立して、J1昇格に貢献することが大事」という目の前の目標にも目を向けつつも、「後々は世界を目指していきたいと思っているので、今日は良いゲームになった」と充実の一夜にひたった。 (取材・文 竹内達也)●2025シーズンJリーグ特集●海外組ガイド●ラ・リーガ2025-26特集▶お笑いコンビ・ヤーレンズのサッカー番組がスタート!