砂漠の水不足が解決するかも。1週間で1万人分の水を確保できる可能性
温暖化時代に必要不可欠な技術になっていくと思う。
1年でたった1mmしか雨が降らない場所。チリのアタカマ砂漠といえば、世界でも指折りの乾燥地帯です。そんな過酷な環境にある都市で、人々は地下水を頼りに暮らしてきました。でも今回、研究者たちが水不足解消を支援するシンプルな方法を見つけたそうです。
霧を集めて水源を確保する技術
チリの国際研究チームは、霧を利用した水の収集方法の実現可能性を検証しました。学術誌Frontiers in Environmental Scienceに掲載されたオープンアクセスの研究結果によると、この方法は安定した水源を確保できない貧困地域や非公式居住地(スラムや難民キャンプ、仮設住宅など)の人々にとって、大きな支援になる可能性があるそうです。
Universidad Mayor(マヨール大学)の持続可能な開発の専門家であり、本研究の主執筆者のひとりであるVirginia Carter氏はFrontiersの声明で次のように述べています。
「水の収集と利用、特に霧のような非従来型の水源を活用することは、住民の生活の質を向上させるための重要な機会を提供します」
Carter氏と研究チームは、急成長中のアルトオスピシオ市で調査を実施しました。この地域では約1万人が非公式な居住区に住んでおり、水道網に接続されているのはわずか1.6%に過ぎないといいます。
Image: Carter et al. 2025 / Frontiers in Environmental Science霧水収集装置研究チームが使ったのは、とてもシンプルな霧水収集装置(上の画像を参照)。目が細かい網を2本の支柱に取り付け、その表面で水滴になった空気中の水分が樋(とい)を伝って貯水タンクに流れ込む仕組みになっています。この装置は、電気やその他のエネルギーも不要なところがポイントです。
弱者にとって命の水を供給
本研究の主執筆者のひとりであり、ブリュッセル自由大学のエンジニアであるNathalie Verbrugghe氏は、研究の意義についてこう述べています。
「この研究は、チリでもっとも汚名を着せられながらも急速に都市化が進むアルトオスピシオにおいて霧水収集装置の可能性を示すことで、他の水不足の都市部でのより広範な導入に向けた基礎を築くものです」
研究チームの試算によると、100平方キロメートルの範囲で、1平方メートルあたり1日平均0.2〜5リットルの霧水を収集できる可能性があるそうです。特に8月と9月は収集量のピークで、この期間には1平方メートルあたり最大10リットルもの水を収集できたとのこと。
Carter氏は装置の可能性について次のように述べています。
「この研究は、霧水の利用に対する認識を大きく変えるものです。これまで地方の小規模な解決策と考えられてきた霧水が、都市部でも実用的な水資源になり得ることを示しました」
研究チームによると、比較的小さな面積の収集ネットでも、アルトオスピシオの緑地のかんがいに十分な量の水を確保できると見込んでいます。
また、霧水収集装置を大型化して拡張すれば、市内の非公式居住区に住む人々の1週間あたりの需要を満たせる水を収集できる可能性があるとのこと。さらに、霧水は土を使わない農業にも応用可能で、毎月最大20kgの葉物野菜を生産できると予想されています。
課題はスケールアップ
この研究にはいくつかの課題があることもチームは指摘しています。今回の希望につながる結果が得られたのは、市街地の外にある高地に設置した霧水収集装置によるもので、実際に活用するには大規模な貯水施設と水道インフラが必要になるそうです。
Verbrugghe氏は、「霧収集には、霧の密度、適切な風向き、最適な高度の地形など、いくつかの重要な前提条件があります。さらに、霧は多くの地域で季節性があるため、そういった変動も考慮しなければなりません」と話します。
Carter氏は、「霧水は都市部の補完的な水供給源にはなり得ますが、水不足を完全に解決するものではありません」と、この技術が根本的な解決策にならないことを強調しています。
最終的には政策決定者の意思次第
それでも、研究チームはこの技術が政策決定者に影響を与えることを期待しているそうです。Carter氏はこう結論づけます。
「この再生可能な水資源を国家の水政策に組み込むよう、政策決定者に働きかけたいです。霧水収集技術によって、気候変動や急速な都市化に対するレジリエンスを高めながら、清潔な水へのアクセスを改善できる可能性があります」
霧水を集めるだけで水不足が解決するわけじゃなくても、砂漠地域における革新的で持続可能な水管理方法として、将来的に重要なツールになる可能性は十分にありそうです。
Reference: EurekAlert!, Carter et al. 2025 / Frontiers in Environmental Science