米特使がロシア側に助言-トランプ氏へのウクライナ和平案プレゼンで
トランプ米大統領のウィトコフ特使が先月、イスラエルとパレスチナ自治区ガザの和平合意の成功直後、ロシア高官と電話で協議し、ウクライナでも同様の計画を協力して進めるよう提案していたことが分かった。その上で、ロシアのプーチン大統領がトランプ氏とこの件を協議するよう促していた。
10月14日に行われた電話協議は5分余りで、ウィトコフ特使はロシアのウシャコフ大統領補佐官(外交政策担当)に対し、トランプ氏への切り出し方について助言した。ウィトコフ特使の提案には、同月17日に予定されていたウクライナのゼレンスキー大統領のホワイトハウス訪問前に、トランプ氏とプーチン氏の電話会談を設定することや、ガザ合意を話し合いの入り口として活用することなどが含まれていた。
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ウィトコフ特使はウシャコフ氏との協議で「われわれは和平のための20項目から成るトランプ・プランをまとめた。あなた方とも同じようなことをやってみてもいいかもしれない」と述べたという。ブルームバーグが通話録音の確認・書き起こしを行った。
通話の全記録はこちら。
ホワイトハウスのチョン広報部長は「この話が示しているのは1点だ。ウィトコフ特使は和平実現のために、ロシアとウクライナ双方の当局者とほぼ毎日協議している。これはまさにトランプ大統領から与えられた同氏の使命そのものだ」と述べた。ロシア大統領府のペスコフ報道官にコメントを要請したが返答はない。
ウィトコフ特使とロシア側の対話は、同氏が最近展開している交渉戦術や、今月初めに明らかになった28項目の和平案の原点と見受けられる動きについて、初めて直接的な手掛かりを与えるものだ。米国はこの案について、合意の土台として受け入れるようウクライナに促している。
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プーチン氏は今月、米国案が和平実現の基礎になり得るとの考えを示した。同氏はロシア安全保障会議の会合で高官らに対し、28項目の計画を巡り米国とまだ詳細な協議はしていないものの、ロシア側はそのコピーを受け取ったと説明した。
トランプ氏は25日、和平案の最終化を目指すとして、ウィトコフ特使にプーチン氏と会うよう指示したと自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿。「米国が策定した28項目から成る和平案は、双方の追加的な意見を踏まえて微調整され、残る対立点はほんのわずかだ」としている。
ウィトコフ特使とウシャコフ氏の電話協議の当時、トランプ氏はガザでの戦闘終結に向けた取り組みの成果に浸っていた。その前日の10月13日には、イスラム組織ハマスに拘束されていた生存する最後の20人人質の解放を取りまとめたことを受け、米大統領として2008年以来となるイスラエル国会(クネセト)での演説を行っていた。
しかし、プーチン氏に対するトランプ氏の姿勢は揺らぎ始めていた。ゼレンスキー氏との会談を同月17日に控え、ロシア本土の奥深くを攻撃可能な巡航ミサイル「トマホーク」のウクライナへの供与の検討やロシアへの追加制裁の議論を進め、プーチン氏へのいら立ちを示していた。
ウィトコフ特使とウシャコフ氏の電話協議が行われた10月14日、トランプ氏はプーチン氏について、「彼がなぜこの戦争を続けるのか分からない」とし、「彼はただ戦争を終わらせたくないのだと思う。そしてそれが彼に関して非常に悪い印象を与えている」と話した。
タイムライン:ウクライナ和平案を巡る米国の対ロシア関与- 10月13日 イスラエルの人質解放を受け、トランプ氏がイスラエル国会で演説
- 10月14日 ウィトコフ氏がウシャコフ氏と話し、米ロ首脳電話会談案を協議
- 10月16日 トランプ氏がプーチン氏と2時間半にわたり電話会談
- 10月17日 ゼレンスキー氏がホワイトハウスを訪問
- 10月24-26日ごろ ウィトコフ氏がマイアミでドミトリエフ氏と会談
- 10月29日 ウシャコフ氏とドミトリエフ氏がロシア側戦略を電話で協議
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ウィトコフ特使はウシャコフ氏との協議で、プーチン氏に深い敬意を抱いていると伝えたほか、ロシアは常に和平を望んできたと自身は考えており、その旨をトランプ氏にも伝えていると述べた。ウィトコフ特使はゼレンスキー氏の訪問予定に触れ、プーチン氏がその前にトランプ氏と話すことができるとよいと提案した。
ウィトコフ特使は「ゼレンスキー氏が17日にホワイトハウスを訪問する」と述べるとともに、「私はそこに来てほしいといわれているため、その場に臨むつもりだ。ただ、もし可能なら、17日の会談の前にあなたのボスとの電話会談を設定できればと思う」と語った。
ウシャコフ氏は、プーチン氏がトランプ氏に電話をするのは「有益」かどうかを尋ね、ウィトコフ特使は有益だと答えた。
ウィトコフ特使はさらに、プーチン氏がガザ和平合意についてトランプ氏を祝福し、ロシアもそれを支持し、平和を重んじる人物としてトランプ氏を尊敬していることを伝えるよう助言した。ウィトコフ特使は「そうすれば、本当に良い電話になる」と話した。
ウィトコフ特使はまた、プーチン氏がトランプ氏に「スティーブ(ウィトコフ氏)とユーリ(ウシャコフ氏)は非常によく似た20項目の和平案について議論した。それは事態を少し動かすかもしれないもので、われわれはそうした案に前向きだと話す」といった趣旨のシナリオをウシャコフ氏側に例示した。
ウシャコフ氏は一部の助言を受け入れた様子で、プーチン氏がトランプ氏に「祝意を伝える」ほか、「トランプ氏は真の平和の人だ」と述べるだろうと語った。
その2日後の10月16日、トランプ氏とプーチン氏はロシア側の要請で電話会談を行い、トランプ氏は2時間半に及んだこの通話を「非常に生産的だった」と表現した。トランプ氏はその後、ハンガリーの首都ブダペストでプーチン氏と会談する計画を発表したが、この首脳会談はまだ実現していない。また、プーチン氏がガザ合意について祝意を示したことにもトランプ氏は言及している。
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ウシャコフ氏との電話協議を受け、ウィトコフ特使はプーチン氏の経済特使キリル・ドミトリエフ氏と米フロリダ州マイアミで面会した。ドミトリエフ氏が米ニュースサイトのアクシオスとのインタビューで明らかにしたもので、10月24日から3日間マイアミに滞在していたと述べた。ドミトリエフ氏の報道担当者はコメントを控えた。
10月29日にはドミトリエフ氏とウシャコフ氏が電話で話し合い、和平案を巡りロシアがどの程度強硬に要求を押し出すべきかを議論した。これはブルームバーグが確認した別の通話録音に基づいている。
この通話の書き起こし(ロシア語を英語に翻訳)はこちら。
プーチン氏の側近の2人が複数の選択肢を検討する中で、ウシャコフ氏はホワイトハウスへの提示内容について「最大限」の要求を行うべきだと主張した。
ウシャコフ氏は、米国側が提案内容を誤解し、一部を削った上で合意が成立したと主張する可能性があることを懸念していると述べ、そうなれば交渉が終わってしまうリスクがあるとドミトリエフ氏に語った。
ロシア直接投資基金(RDIF)を率いるドミトリエフ氏は、非公式に文書を共有する案を示し、米国がロシア案を完全に受け入れなくても、少なくともそれに非常に近い対応を取るだろうとの認識を示した。
ドミトリエフ氏はその後、ウシャコフ氏に対し、自分は指示された通りに発言すると約束し、文書についてウシャコフ氏も「スティーブ(ウィトコフ氏)」と後で話すことができると述べた。
ブルームバーグは、ロシアが米国側と具体的にどのような提案を共有し、それが最終的な28項目の青写真にどの程度影響したのかを正確には確認できていない。
しかしその後、ウィトコフ特使がロシア側の協力を得て作成したこの提案を受け入れるよう、ウクライナは強い圧力にさらされている。米政府当局者は、ゼレンスキー氏が提案を拒めばウクライナ軍への重要な情報支援を打ち切ると警告した。
ただ、ウクライナはその後、一定の譲歩を引き出し、ルビオ米国務長官との23日の協議を経て、ペースを緩めることで米国の理解を得た。
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今月初めに米国が最初に提示した条件では、ウクライナはロシア軍が制圧できなかった東部ドンバス地域の一部から部隊を撤収する必要があった。同地域は中立の非武装緩衝地帯となり、国際的にはロシア領として認められることになるとされていた。
ロシアはこのほか、クリミア、ルハンシク、ドネツクの各地域に対する自国の主張について、事実上の承認を得ることになるとされた。ヘルソンやザポリージャを含む前線の大部分は実質的に凍結される内容なのに対し、ウクライナと欧州の同盟国は戦闘は現在の戦線で停止すべきだとの立場を崩していない。
これらはウィトコフ特使とウシャコフ氏が10月14日の電話協議の時点で触れていた条件の一部と考えられる。
ウィトコフ特使はその中で、「和平合意をまとめるために何が必要かは分かっている」とウシャコフ氏に発言。「ドネツク、そしてどこかで土地の交換かもしれない。ただ、そういう話の仕方ではなく、もっと前向きな語り方をしたい。なぜなら、私はここで合意に到達できると思っているからだ」と語った。
さらにウィトコフ特使はトランプ氏について、「大統領は合意に向けて私に大きな裁量と自由度を与えてくれる。このため、この後に私がユーリ(ウシャコフ氏)と話し合いをしたという機会をつくることができれば、それは大きな成果につながる可能性がある」と述べた。
ウシャコフ氏は「分かった。良さそうだ」と応じていた。
原題:Witkoff Advised Russia on How to Pitch Ukraine Plan to Trump (1)(抜粋)
— 取材協力 Flavia Jackson