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8月22日のジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長の講演を控えて米ドル/円は方向感のない小動きが続いている(図表1参照)。FRB議長の「ジャクソンホール発言」を前に、米ドル/円の小動きが続く傾向が見られることがありますが、これは常にそうであったわけではない。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2025年4月~)

むしろ金融政策の方向性がはっきりしている場合は、「発言」前から一方向に大きく動くことが多かった。その意味では、今回「発言」を控える中で方向感の乏しい展開が続いているのは、8月1日の雇用統計発表以降、トランプ大統領などからの利下げ要請もあり早期の利下げ再開期待が強まったものの、為替市場などは本音ではまだそれを確信するまでに至っていないことを示しているのではないか。

ジャクソンホール会議前から大きく動いた2022、2024年=小動きだった2023年

たとえば、1年前、2024年のパウエル「ジャクソンホール発言」の前、米ドル/円は1週間程度で150円手前から145円割れへ5円程度下落していた(図表2参照)。FRBの利下げ開始が近づいていることをほぼ確信していたからだろう。これに対してパウエル議長は、「政策を調整する時がきた」と発言し、利下げ開始を分かりやすく示唆した。

【図表2】ジャクソンホール会議前後の米ドル/円の日足チャート(2024年)

2022年のジャクソンホール会議では、インフレ対策のためFRBが最大0.75%もの大幅利上げを続ける中で行われた。マーケットは利上げの継続についてほぼ確信していたことから、パウエル発言前から米ドル/円は大きく上昇していた。これに対してパウエル議長は、大幅利上げの継続の可能性を示唆したことから、「発言」後米ドル/円は一段高に向かった(図表3参照)。

【図表3】ジャクソンホール会議前後の米ドル/円の日足チャート(2022年)

一方で、2023年のジャクソンホール会議は、2022年から続いたFRBのインフレ対策の利上げが7月で終了した中で行われた。ただマーケットは、この8月というタイミングではまだ7月が「最後の利上げ」だったかは分からず、パウエル議長の「ジャクソンホール発言」にてFRBの考え方を見極めようとした。

これに対して、パウエル議長は「今後はデータ次第」と述べた。おそらくパウエル議長もFRBの大勢も、この時点では利上げは終わったかもしれないがまだ続ける可能性もある、文字通り「今後のデータ次第」と考えていたのだろう。このように、金融政策の方向性に確信が持てない状況では、米ドル/円は「発言」前後とも方向感のない動きが続いた(図表4参照)。

【図表4】ジャクソンホール会議前後の米ドル/円の日足チャート(2023年)

今回のジャクソンホール会議前、これまでの米ドル/円の方向感のない値動きは、過去3年の中では2023年のケースに近いだろう。それは、マーケットが早期の米利下げ再開についてまだ確信を持つまでには至っていないことを示しているのではないか。

市場は「パウエル発言」を事前に織り込めずか

8月1日の雇用統計発表をきっかけに、米労働市場の急悪化の可能性が浮上したことで、金融市場は一気に早期の米利下げ再開を織り込む動きとなり、9月FOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げはほぼ確実視されるところとなった。その上で、トランプ大統領などからの強い利下げ要請があり、0.5%以上の大幅利下げの可能性もあるとの見方が出てきた。

ただし、7月PPI(生産者物価指数)は予想以上の上昇となり、懸念されていたトランプ関税のインフレ再燃への影響がいよいよ出始めた。また、株価は高値更新が続き、それに伴う資産効果もインフレを再燃させる要因だろう。こうした中で、「物価の番人」の責任者である、FRB議長が今の段階で利下げ再開を確認するだろうか。

以上のように考えると、「ジャクソンホール発言」を控える中での米ドル/円の小動き、下げ渋りは、まだ米利下げ再開に確信が持てないことを示しているのではないか。そうであれば、「パウエル発言」への反応は、事前に織り込めないことから、ハト派でもタカ派でも大きくなる可能性に要注意かもしれない。

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