私が、私たちが高市早苗首相を受け入れられない理由=作家・甘糟りり子(Hanasone)

 ずらりと議員席に並ぶ後ろ姿の男性議員たちの中を、トレードマークの青いジャケットを着た高市早苗内閣総理大臣がひとり反対方向に歩いていくという写真を見ました。BBCが撮影したものだそうです。なかなかに見応えのある構図でした。 【写真はこちら】私が、私たちが高市首相を受け入れられない理由=作家・甘糟りり子  ◇高市首相の誕生に「気持ちが落ち込む」  初めて女性の内閣総理大臣が誕生したことによって、日本のジェンダーギャップ指数は上がると言われています。“初の女性リーダー”という事実だけは、まあ良かったんだよね。と、自分を納得させようと努力しております。  なんてことを言ったり書いたりすると、  <女性の活躍を阻んでいるのは結局女性じゃないか>  <フェミニストはつべこべ言わずに女性のリーダー誕生を素直に喜べ>  <高市さんは女性だから選ばれたのではない、優れているから選ばれたのだ>  そういう声が飛んできます。そりゃあできることなら素直に女性のリーダー誕生を喜びたいですよ。しかし、どうにもこうにも気持ちが落ち込んでしまいます。  ◇乱暴な言いがかりにはうんざりだが…  先進国ではまれに見るボーイズクラブ(それもかなりのオールドボーイズ)の自民党においてトップに上り詰めるためには、ものすごい意志と努力と根回しが必要だったでしょう。そのエネルギーに対しては敬意を払います。  高市さんを批判するために「口裂け女みたいだ」といったコメンテーターがいましたけれど、容姿を揶揄(やゆ)したり、服装やメークを否定したりするのはまったくもってお門違いだと思います。  政治家にはイメージが必要とはいえ、政治は外見でするものではないはずです。また、福島瑞穂さんの「高市早苗さんを総理大臣にしないためにみんなで力を合わせましょう」という呼びかけはあまりにも幼稚。他のいい方があると思います。「あんなやつは死んでしまえと言えばいい」といった田原総一朗さんに至っては、もう論外。  そういう乱暴な言いがかりにはうんざりするとはいえ、どうして私が、いや私たちがとあえて言わせてもらいます、高市早苗さんを受け入れられないのか。  ◇高市首相を受け入れられない理由  自分が首相指名を受けるための数合わせに、「天皇陛下に側室を」「核兵器は最も安上がりな武装」などと主張する参政党や、二馬力選挙の立花孝志氏率いるN国(NHKから国民を守る)党とまでなりふりかまわず手を組もうとするから、だけではありません。  公明党に手を切られて頭にきたのでしょう、公明党の議員がいる選挙区に対立候補を擁立すると速攻で表明した気の短さが恐ろしいから、だけでもありません。  自民党総裁就任直後、高揚したのでしょう(まあ、その気持ちはわかる)、その影響も考えずに議員に対して「馬車馬のように働いてもらう」と言い、案の定、浅はかな新興系の経営者たちがあちこちで「我が社も見習おう!」「日本全体で馬車馬になろう!」と言い始めたから、だけでもありません。  日本を愛するがゆえに裏も取れていない「鹿を蹴る外国人」を攻撃したり、自民党だけが「みそぎが済んだ」と勘違いしている裏金問題を単なる不記載と言い張ったり、人数が足りないからという雑な理由で通称・裏金議員を大臣に登用しようとしたり……だけでもありません。  ◇彼女の目線は長老と自分に向いている  高市さんは「女を使っていない」という声もありますが、党の重鎮である麻生太郎氏に暗躍してもらって総裁の座を手に入れた、これにはかなり嫌悪感があります。女を使う〜しかじかではなくて、結局は古い体質の長老にべったり頼り、挙げ句は麻生氏の傀儡(かいらい)政権などと言われる始末です。そんなことまでしないとトップに立てないんですかね。彼女の目線はいつでも長老と自分に向いているように思えます。  あれは「#MeToo」運動が日本にも広まった7〜8年前のことでしょうか。尊敬する編集者にいわれました。  「あなたたちは今、例えてみれば公民権運動が始まったぐらいの時期にいるんだよ。それなのに、甘糟さんときたら」  学生時代、勉強をおろそかにしていた私は、一瞬、それなんだっけ?と思い、あせりました。もちろん、公民権運動とは、1950年代から60年代にかけてアメリカ合衆国で起こったアフリカ系アメリカンの人たちの人権運動のこと。その方はアメリカの黒人差別に女性差別をなぞらえて話したのでした。  ◇「いつまでたっても男尊女卑だから」  約70年前に初めて参政権を手に入れた日本の女性たちがやっと声をあげ始めた時期なのに、文章を書く仕事をしている私が声をあげなくていいのかと問われました。それまで、そういう主張をするのはきちんと勉強をしてきた人や新聞記者など報道の仕事をしている人、いわゆる有識者の役目だと思っておりました。でも、そんなこと言っている場合ではないと気がついたのです。  いつまでたっても男尊女卑だから。  私たちが、日本初の女性総理大臣に自分たち女性の代表を望むのはそんなにあつかましいことでしょうか。公民権運動時代のアフリカ系アメリカンは白人のことばかり配慮するリーダーを望んでいなかった。それと同じではなぜいけないの?  自分たちとすべてが同じ意見でないと認めないなんて思っていないし、女性だからリベラルであるべきだとも思いません。ただ、女性の人権に関心を持っている人にリーダーになってもらいたいだけです。いつまでたっても男尊女卑だから。大切なことなので2度書きました。  ◇女性が異を唱えると「女の対決」?  政治家としての高市さんに女性が少しでも異を唱えると、すぐに女の対立にしたがる(主に)男性が少なくなくて、本当にうっとうしい。あまりにも安易な発想であきれてしまいます。  野田聖子さんが高市さんに関して意見を言ったら、自分が高市さんの立場になれなかった嫉妬だと書いた記事がありましたよね。バッカじゃねーの。あ、つい言葉が汚くなってしまいました。申し訳ありません。あれを書いた人は意見と嫉妬の区別もつかないようですね。  ◇高市首相は選択的夫婦別姓に反対  しかし、高市さんが断固として選択的夫婦別姓を認めないことは理解できません。ご自分は再婚された際に自分の元の苗字を取り戻してますよね。市井の女性にだって自分の苗字に誇りや愛着がある方がいますし、面倒な手続きで疲弊している人は多いです。  選択的なのに、どうしてそこまで反対するのか。旧姓使用の拡大でいいじゃないかというのは高市さんの主張ですが、肝心のパスポートとキャッシュカードはそれでは解決しません。  これまでの言動から、夫婦同姓には戦前の家父長制的な家庭のイメージがあるからだと思われます。せっかく少しずつ世の中の価値観がアップデートされたのに、時代を逆行させる気でしょうか。  BBCの写真がイメージさせるように、前時代的な空気の反対方向に歩いていってほしいと思っています。が、まあ無理な望みかなあ、スパイ防止法や国旗損壊罪を成立させようとする極右のあの方には。ワールドカップの後、試合で振っていた日の丸の旗、みんなどうするんだろう?(作家・甘糟りり子)

Hanasone
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