銃口の50センチ先にクマの顔、「やられる」と片手で発砲し命中…緊急銃猟で出動の隊員「こんなところに出てこなければ」(読売新聞オンライン)

 「銃口の50センチ先にクマの顔が迫った――」。今年、富山県内で相次いだクマの緊急銃猟。実際の現場は、どのようなものなのか。11月に砺波市の納屋に入り込んだクマを撃った猟友会員や市職員らの証言を基に、緊迫した当時の模様を再現した。(源一秀) 【写真】クマが入り込んだ納屋と「発砲して仕留めた小窓」

 クマが出没したのは民家が散在する田園地帯。警察官約10人、市職員6人とともに、5人は一帯の捜索にあたった。ほどなく田んぼにクマの足跡が見つかる。足跡が続く先の民家に急行した。

 午前7時5分頃、男性隊員が、民家の生け垣に潜む黒い影を発見した。この隊員は狩猟歴37年。これまでにクマを3頭仕留めたベテランだが、許可が出るまでは発砲できない。

 冷静にスマートフォンを取り出し、SNSで他の隊員らに「いました」と報告。「役に立たないだろう」と思いつつ持ってきた護身用のスコップを握り直し、物陰に身を隠した。

 一同が集結した時、クマの姿はなかった。だが、民家の敷地のどこかにはいるはずだ。緊張が高まる。

 午前8時5分、緊急銃猟が許可された。慎重に敷地内を調べると、納屋の中にクマの気配が確認された。

 納屋の入り口は2か所あり、開いていた引き戸から侵入したようだ。隊長が様子をうかがいながら、素早く戸を閉め、納屋に閉じ込めた。

 「君がやってくれ」。最初にクマを見つけた隊員が隊長から指名された。

 隊員は納屋の地上約1メートル80の高さにある小窓からクマを狙うことにした。撃ち損じてもクマの向こう側に壁があり、弾が突き抜けても射程内にほかの民家はない。また、撃ち下ろせるポジションなので、撃ち手もある程度安全だ。

 納屋には鶏舎だった小屋が隣接している。小窓に近づくため、隊員は脚立で鶏舎の屋根によじのぼり、腹ばいになった。「クマが動いても動かなくても、見たら撃て」と隊長。ハンターに人気の高い米国製猟銃「レミントン1187」を握り、大型獣に使う一発弾「スラッグ弾」2発を込めた。


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 小窓を開け銃口を先に突っ込み、そっと中をうかがうが、いない。

 そう思った瞬間、真下の棚の陰からクマが立ち上がった。完全な死角だった。

 「やられる」。クマの牙、爪の鋭さ、俊敏さは熟知している。不意をつかれ、「左手が銃を握っていない状態」で、反射的に右手で引き金を引いた。その一弾はクマの顔に命中。あおむけに崩れ落ちた。

 納屋に入ると、クマの体はわずかに動いていた。別の隊員がとどめの1発を頭部に放ち、午前8時35分、任務は完了した。全長約1メートル30、体重70キロのメスの成獣だった。

 「かわいそうだな。食ってやることもできない」。そんな感慨が隊員の頭をよぎった。通常の狩猟の獲物は食卓に上るが、市鳥獣被害対策実施隊で駆除したクマは焼却か埋却処理される決まりだ。

 当時、敷地内の2本の柿の木には、実がたわわに実っていた。腹をすかせて食べに来たのだろうか。「こんなところに出てこなければ」。隊長も、どこかむなしさを感じたという。

 市農業振興課によると今月19日現在で、市内での過去5年間の銃によるクマ駆除は2件目。今年は9年ぶりに山間部でわなによる捕獲も実施し、これまでに6頭を処分したという。

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