2度延期のH3ロケット8号機、まもなく打ち上げ 対策施し「年内最後のチャンス」に挑む

発射地点で打ち上げを待つH3ロケット8号機=12月22日午前7時45分、鹿児島県南種子町(伊藤壽一郎撮影)

日本版の衛星利用測位システム(GPS)を担う国の準天頂衛星「みちびき」5号機を搭載し、日本の主力大型ロケット「H3」8号機が22日午前10時51分30秒、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センターから打ち上げられる。機体や打ち上げ設備の不具合によって、2度延期した後の打ち上げだ。打ち上げチームはプレッシャーや時間的制約と必死で闘いながら、より信頼性を向上させた機体と設備で、年内打ち上げの「最後のチャンス」に挑む。

これまでは5機連続成功

H3は、今年6月に退役した名作ロケット「H2A」の後継機として開発された。H2Aは、全50機のうち、打ち上げに失敗したのは2003年11月の6号機だけで、世界的にも極めて高い98%という通算打ち上げ成功率を打ち立てた。

一方、H3の打ち上げは、2023年3月の初号機は失敗したが、24年2月の2号機以降、5機連続で成功している。新たに開発されたばかりのロケットとしては、初期のH2Aと肩を並べる立派な実績だ。

ただ、8号機の打ち上げは難航している。当初計画の打ち上げ日は7日だったが、機体の部品に不具合が見つかったことから、原因究明と部品の交換が必要となって17日に延期された。

さらに、17日には打ち上げ時刻の16・8秒前、燃焼開始時にエンジンが発する高温の噴流を冷やすため、発射台側から水を噴射する装置に不具合が判明。打ち上げ施設や機体を高温や振動から守れないことから、再度の延期が決定した。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると、最初の延期の原因となった機体部品の不具合は、部品の製造工程のばらつきによる、使われた部品固有の品質不良だった。不具合がないことをきちんと確認した優良な部品への交換で解決した。部品の不良を打ち上げ前に見事に見抜いたチェック体制は称賛に値する。

難航の背景にあるものは

一方、2度目の延期の原因となった水噴射装置の不具合は、深刻な問題を含んでいるように見える。不具合について、JAXAは20日に記者会見を開き、水に圧力をかける装置のバルブの開き方が足りず、十分な量の水を噴射できなかったと説明した。その原因は、8号機で新たに導入した、バルブの開き具合を確認する方法がうまく機能しなかったためだという。

新方式は、スタッフが考案した簡単な計測器具をバルブに当てることで開き具合を確認するもので、同時に複数のスタッフが一目瞭然で確認できる、効率的で優れたアイディアだった。しかし、17日の打ち上げでは器具が誤った位置に当てられて開き方が不十分になり、水の噴射量が本来必要な量の4分の3に落ちた。

新方式の導入に合わせ、マニュアルは書き換えられたが、どの位置に当てるのかについては詳しく記されていなかった。また、新たな取り組みの導入だったにもかかわらず、器具の当て方についての事前テストを実施していなかった。

打ち上げのわずか16・8秒前とはいえ、水噴射装置の不具合を見つけ、発射作業を緊急停止できたことは素晴らしい。だが、背景にある不適切なマニュアル作成や、事前テストをしない「ぶっつけ本番」を良しとした管理態勢はどうだろうか。全ての新規事項の事前テストは無理だろうが、やるやらないの切り分け方に問題はなかったか。

日本の技術の底力発揮へ

JAXAの有田誠プロジェクトマネージャは、20日の記者会見で「事象は真摯(しんし)に重く受け止めるべきで、なぜ起きたかについての深掘りを今後も続ける必要がある」と表情を曇らせた。

関係者によると、種子島宇宙センターの発射場は、年内は23日までしか使うことができないため、8号機が打ち上げられる22日は、年内打ち上げの「最後のチャンス」とみられている。そして年内に打ち上げを済ませることが、極めて重要なのだという。

年明けから年度末にかけて、同センターでは2月1日に9号機の打ち上げがあり、3月には機体構成を変更する6号機のエンジン燃焼試験が行われる。8号機の打ち上げが来年にずれ込めば、今後の打ち上げ計画などに大きな影響が出ることが確実視されるからだ。

2度の打ち上げ延期とタイムリミット。ロケット打ち上げのスタッフにのしかかる、これらのプレッシャーはすさまじいものに違いない。だが、有田氏は「より信頼性を高めた状態で打ち上げに臨める機会を得た。成功に向け、全員が心を1つにして全力を尽くす」ときっぱり語った。日本のロケット技術の底力を発揮し、6機連続の打ち上げ成功を成し遂げてほしい。(伊藤壽一郎)

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