日本株「一人負け」の理由 欧米中に見劣りする国の姿勢

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年度末である。本稿が掲載される28日は、2024年度最後となる配当の権利落ち日。つまり受け渡し日は25年度となり、実質的には新年度相場の初日である。よいタイミングなので、24年度の日本株相場を振り返っておこう。とは言っても、総括すれば「横ばい」の一言で済む。24年夏場の上振れ・下振れを除けば、基本的にはボックス圏内の動きに終始した1年であった。

日経平均株価のボックス圏のレンジは、ざっくり言うと上限が4万円、下限が3万8000円だった。上値抵抗水準として意識される長期の200日移動平均が現在、3万8000円台半ばであることから、振り返ればレンジ下方で推移した日が多かったことが分かる。

上限4万円とは言うものの、実際に4万円以上の終値で引けた日は年度を通じて15営業日しかない。その大半が、日経平均が高値をつけた7月で、「令和のブラックマンデー」と呼ばれた24年8月5日の急落以降をみると12月末に1日、25年初に1日、4万円台を回復したことがあっただけ。いかに「日経平均4万円」が遠かったかということである。そして年度末が近づいた3月に入ると、日経平均はレンジの下限3万8000円を下抜けてしまった。このままいくと、日経平均の24年度のリターンはマイナスとなる。

さえないパフォーマンスの理由はグローバルマネーの日本株離れである。24年度の海外投資家の売り越しは、3月半ばまでの累計で9兆円にも及ぶ見込みだ。海外投資家は23年前半、米著名投資家のウォーレン・バフェット氏による日本株への追加投資をきっかけとした「バフェット効果」などもあって、大幅に日本株を買い越した。その買越額は、日経平均が高値をつけた24年7月半ばまでの累計でおよそ9兆4000億円。それをそっくり吐き出した格好である。

24年度相場のシナリオに「消去法的な日本株買い」というものがあった。その内容は、次のようなものだった。

「景気減速が著しい中国や、景気低迷だけでなく極右政党の台頭など政治リスクもある欧州への投資を、グローバル投資家は忌避するだろう。米国もハイテク株への一極集中など過熱感が顕著だ。その点、日本株はバリュエーション(投資尺度)の観点からも割高感がなく、政治も安定し、企業業績も底堅い。特段、大きな魅力はないが、欧米中いずれも難がある中では、消去法的に投資先として選択されるだろう」

ところがふたを開けてみれば、グローバルマネーは日本を素通りして欧州と中国に向かったのだ。24年度の欧州株と中国株の株価パフォーマンスを比較すると、欧州株が断トツの高リターン、中国がそれに次ぐ。年度後半だけでみれば、中国株の急上昇も目を引くものがある。

誤算はどこにあったのか。バフェット氏も尊敬する投資家であるハワード・マークス氏は、著書「投資で一番大切な20の教え」の中で、「一次的思考をしていては勝てない」と述べている。「一次的思考」とは表面的な情報に頼った単純な考え方を言い、例えば「景気が悪くなりそうだから株を買うのはやめておこう」というようなものである。今回の例がまさにそうだ。「欧州や中国など景気が悪い国・地域の株価は買われないだろう」という、あまりに単純な一次的思考に基づいた発想が間違いだった。

景気が悪ければ、当然、良くなるように政策が打たれる。例えば金融政策。欧米の金融政策のサイクルはおおむね一致しているが、利下げを停止してしまった米連邦準備理事会(FRB)に対して、欧州中央銀行(ECB)はずっと利下げを続け、25年3月にも利下げを決めた。政策金利の一つで市場が注目する中銀預金金利の利下げは24年6月以降で6回目で、据え置きを挟んだ9月以降では5会合連続だ。累計の金利引き下げ幅は1.5%に達した。ドイツ株価指数(DAX)は、利下げが始まった24年6月から一貫して右肩上がりのトレンドをたどっているのが見て取れる。

中国政府も相次いで景気支援策を打ち出している。中国人民銀行(中央銀行)が24年9月下旬、景気下支えのために一段の金融緩和や不動産対策を実施すると発表したのをきっかけに、中国株は急騰した。当初はすぐに息切れするとの見方もあったが、中国政府はその後も景気対策を打ち出す姿勢を崩さないことから投資家の期待をつなぎとめることに成功し、結果として株価は堅調に推移している。

それだけではない。これまで厳格な財政運営を旨としてきたドイツが多額の財政出動に動く。ドイツ連邦議会が基本法(憲法)の改正案を可決、承認したことで国防費の増額とインフラ投資計画の実現が可能になる。ドイツの24年の経済成長率は2年連続のマイナスに沈んだ。ロシア・ウクライナ戦争が長引き、米トランプ政権の政策も欧州に逆風となりかねない。そんな中、欧州全体の経済を立て直す起死回生の決断に思える。

中国政府は25年3月23日、北京市で世界大手企業のトップらを招く国際会議を開いた。李強(リー・チャン)首相は開幕式で「経済安定のため、必要なら新たな政策を打ち出す」と述べ、米国との貿易戦争などを念頭に、追加の景気対策に言及した。会議には米国や日本企業のトップも招かれた。李氏は「外資企業は中国の発展に欠かせない」と述べ、積極的な対中投資を呼びかけた。

ドイツも中国も国を挙げて経済を守ろうとしている。歴史的な財政政策の転換や首相による外資系企業へのトップセールス。トランプ米大統領の「Make America Great Again(米国を再び偉大に)」は言うまでもない。善しあしは別として、欧米中とも政治家が自国のためになりふり構わずの政治に突き進んでいるのだ。それらに比べて、我が国では、国民生活の何がどう改善されるのかよくわからない「年収の壁」議論、多くの経済学者が反対する高校無償化、極めつきが新人議員への商品券配布だ。これでは勝負になるわけがない。24年度の株価リターンが日本一人負けの背景である。

広木隆(ひろき・たかし)マネックス証券チーフ・ストラテジスト、帝京平成大学経営学科教授。国内外の運用機関でファンドマネジャーなどを歴任。株式・為替からマクロ経済まで幅広い知見を基に自らヘッジファンドも立ち上げた。バイサイド時代の経験から斬る相場分析や展望に定評。神戸大学大学院・経済学研究科後期博士課程修了。博士(経済学)。
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