東京は3分の1が外国人の街になる
黒坂岳央です。
東京は昔から「世界規模の国際都市」でありながら、外国人比率が低く、日本人が住む日本人の街だった。そんな東京が近年、急速に多国籍化しているように感じる。
都内の外資系ホテルのラウンジに行くと、聞こえてくるのは英語と中国語ばかりだ。ホテルレストランでは外国人スタッフが英語で挨拶、オーダーを取ることもあった。また、都内のコンビニ、外食チェーンでも日本人を見ることは少なくなっている。
これは一時的なインバウンドブームではない。2025年時点の住民基本台帳ベースで見れば、新宿区では約13%、豊島区でも10%を超え、すでに「住民の1割以上が外国人」という状況は常態化している(都全体ではおおむね5%程度)。
今後、この比率が上昇し、いずれ「東京の3分の1が外国人」という時代が到来する未来もあり得るのではないだろうか。3分の1とはかなり強気シナリオだが、変化の想定は無駄ではないし比率が高まるのは大局的に大きな間違いはないだろう。
これはニューヨークやロンドン、シンガポールといった世界の主要都市では当たり前の光景が、周回遅れで東京にも訪れているに過ぎない。
zu-kuni/iStock
東京の外国人比率が高まる3つの理由
東京は急速に外国人の街になっている。主な主要因は3つある。
1つ目は深刻な労働力不足だ。クルートワークス研究所の試算によれば 2040年には約1,100万人の労働力が不足すると試算される日本において、コンビニの24時間営業や宅急便の翌日配送といったインフラを維持するには、外国人労働者の力に頼らざるを得ない。先日、大手引越し業者のサカイ引越センターは外国人スタッフを雇用した発表をしてSNSでは大きな反響があった。
「外国人ではなく日本人スタッフがいい」といっても、働き手がいなければ雇用せざるを得ない。企業も生き残りをかけて必死なのだ。
政府が特定技能2号の分野拡大や家族帯同の容認へと舵を切ったのは、リベラルな思想からではなく、こうした経済的な要請によるものだ。
2つ目は日本の国としての魅力だ。東京の生活コストや不動産価格は、ニューヨークやロンドン、シンガポールに比べて明らかに割安である。海外の中間層にとって、東京は「世界一清潔で、食事が美味しく、治安が良い上に、生活費が安いコスパのいい都市」として映る。
そして日本の魅力は価格だけではない。一時期、「円安になると外国人労働者はいなくなる」という意見も見られたが、実態は逆で増えている。日本は円が昔と比べて相対的に安くなっても、安全、清潔、インフラなどの総合的な魅力で依然として外国人を惹きつけている。
3つ目は富裕層マネーによる不動産の買い占めだ。 都心の億ション、特に最上階の購入者が外国人だらけという事例も珍しくない。彼らは投資目的、あるいは自国のカントリーリスク回避(セカンドハウス)として、キャッシュで都心の不動産を押さえている。
そして外国人による不動産買い占めは地方でも起きている。筆者は今年の夏、住居を購入した。その際、家を8軒内覧をしたが、その物件すべてが外国人所有だった。職業は経営者、投資家、有名デザイナー、芸能人である。そして近所の2億5000万円以上する130坪の豪邸も外国人オーナーだった。すでに地方でも良い物件から外国人富裕層が確保している。
東京に住んでいた日本人はどこへ行くのか?
この変化により、東京では「居住者の二極化」が進行している。 一方は、高額な不動産を購入・賃借できる「外国人富裕層」。もう一方は、人手不足の現場を支えるためにシェアハウス等に住む「外国人労働者」だ。
この間に挟まれた「日本の中間層(一般的なサラリーマン)」はどうなるか。答えは「東京脱出、埼玉や千葉県へいく」のである。
これはかつてロンドンやニューヨークで起きた現象と同じだ。マンハッタンの家賃が高騰し、一般市民が住めなくなった結果、彼らはハドソン川を越えてニュージャージー州やブルックリンの奥地へと移り住んだ。 これと同じことが、東京と埼玉・千葉の間で起きようとしている。
荒川や江戸川を越えて、埼玉や千葉から1時間半かけて通勤するスタイルが、今後の日本人にとってのスタンダードになる。これを「都落ち」と嘆くのは古い感覚だ。グローバルシティにおいては、中心部は「職住近接を金で買う富裕層」と「観光客」の場所であり、一般市民は郊外に住むのが経済合理性に基づいた「住み分け」なのである。
外国人嫌悪の感情はどうする?
外国人比率の高まりにより、すでに起きているのは外国人嫌悪の感情だ。「日本の治安が悪くなる」「日本の文化が壊れる」といった反発はすでにあちこちで起きている。
人気の観光地が混雑するのは昔からだが、日本人による混雑に不満を言う人はいなかった。だが近年の外国人旅行者による混雑となれば、「オーバーツーリズムを放置して政府は何をやっているんだ」と反発になる。
個人的にはその感情は理解できる。旅行先でも外国人ばかりで、英語と中国語だらけだと疲れてしまうが、日本人が日本語を話す空間はどこかホッとする。だが感情を抜きにして外国人とうまく付き合って行く必要がある。
たとえば「外国人を追い出せ」という意見に対しては、「では、誰が親の介護をし、コンビニの弁当を作り、ビルの清掃をするのか?」となる。人口減の日本において、彼らを排除すれば経済は即座に立ち行かなくなる。追い出して困るのは日本人なのだ。
「治安への懸念」については、むしろ経済的な停滞によるスラム化の方がリスクが高い。貧すれば鈍すると言われる通り、日本全体が国際競争に敗れて貧しくなれば、日本人による犯罪が増加することは確定的だ。それなら「多様性による摩擦」というコストを支払ってでも、外貨と活気を取り込み、都市の新陳代謝を促す方が、長期的に治安維持、生存確率は高まる。
◇
「日本語しか通じない、日本人だけの東京」はゆっくり、だが着実に変わっていくだろう。だが都市というのはどの国でも似たような変容を遂げるものなのだ。
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