“戦術カタール”でブラジル初撃破…攻守に大車輪の10番・堂安律「本大会でやってこそ本物」
MF堂安律(フランクフルト)
[10.14 キリンチャレンジ杯 日本 3-2 ブラジル 味スタ]
攻守にわたって大車輪のパフォーマンスを続け、ブラジル撃破の快挙を演じた日本代表の10番は、歴史的白星を冷静に受け止めていた。
「二つの思いがある。一つは日本サッカーにとってブラジルという国を倒したことは間違いなく大きな一歩になったと思うし、歴史を作った日ではあるので、素晴らしい日になったと思う。もう一つは本大会で勝たないといけないので、勝利の後で釘を刺すようだけど、本大会でやってこそ本物。彼らが本当に本大会のテンションかと言ったらそこはわからないけど、自分たちで話す必要があるし、手放しで喜ぶ時間はない。一方で素晴らしい日になったのは間違いないとは思います」9月から3試合勝ちなしと停滞感が漂うなかでも意気揚々と挑んだブラジル戦。その意気は一点、劣勢のまま0-2でハーフタイムを迎えたことで、チームには嫌なムードが漂いかけていたが、MF堂安律(フランクフルト)はゲームキャプテンのMF南野拓実(モナコ)とともにあえてポジティブな言葉でチームを鼓舞した。
「(遠藤)航くんがいない、(板倉)滉くんがいない、(三笘)薫くんがいないというなか、なんか変えようとしている選手が少ないなというのを正直前半に感じていた。チーム的にも若いし、経験の浅い選手が多いなか、ハーフタイムにどうしてもネガティブになりがちなので、ネガティブにならずポジティブになろうというのは拓実くんと僕がセットになって声をかけていた。非常に有意義な時間を過ごして後半に臨めたと思う」 世界屈指のサッカー大国に対し、ビハインドで迎えたハーフタイム。森保ジャパンには何より大きな成功体験があった。 「冗談で僕たちは『戦術カタール』って言ってるんですけど。冗談ですよ。あんまりタイトルで過激に書かないでください(笑)」。想起するのはもちろん、0-1のビハインドからドイツ、スペインを破った2022年末のカタールW杯グループリーグの記憶。自身のサイドを突破された「2失点目が余計だった」とも認める堂安だが、後半勝負のゲームプラン自体は試合前から持っていたという。 「戦術的にミドルブロックでやっていたので、後半に体力が温存できていた。だから後半に逆転できたと思う。今までの第2次政権は主体的に主体的にというなか、前半から“ガンプレ”(猛烈なプレス)してたんで、後半にちょっとエネルギー不足になって相手がそれに慣れてくるというのがあった。どちらかというと今日は後半からエネルギーを入れた感じ」 体力面のマネジメントも効果を発揮し、カタールW杯同様のマンツーマン布陣が機能。もともと「相手の後ろ4枚はビルドアップが不安定だった」と感じていたという相手守備陣をのみ込み、一気に敵陣で試合を進めた結果、後半7分からの約20分間で3ゴールを奪うという大逆転劇を演じた。 その中で堂安が果たした役目も絶大だった。帰陣守備の貢献度の高さはブラジル相手でも変わることなく、さらに後半7分には猛烈な中央へのプレッシングで相手のバックパスを誘発し、反撃の口火を切る1点目を演出。その後はチームが攻勢に回るなか、積極的なドリブル突破と内外の使い分けで相手にマークを絞らせず、2アシストで勝利の立役者となった伊東を“解放する”役目を担った。 その背景には森保監督の采配もあった。「僕がウイングバックにいたままで純也くんをシャドーに置いたのはちょっと意図を感じた。純也くんを走らせたいのかなと。僕が中でやるよりも僕が外で起点になれていたのですごいなと」。パラグアイ戦ではカタールW杯と同様、堂安がシャドー、伊東がウイングバックだったが、この日は逆。その配置が見事にブラジル相手に刺さり、歴史的な初白星につながった。 それでもカタールW杯と何より大きく違うのは、これが親善試合であること。堂安は冷静な見解も口にした。 「『戦術カタール』がハマったんですけど、0-2は正直本大会だとキツいと思う。0-1まではOKだと思うし、2失点目が余計だった。1点なら大丈夫という感覚はW杯でドイツ戦、スペイン戦であったし、2失点はどうかなと思ったけど、結果的に逆転できた。でも失点は少なければ少ないほうがいい。試合前から失点してから2失点目を取られないようにしようとは思っていたので課題」 このブラジル撃破はあくまでも8か月後のW杯への通過点。「前半に0-0で後半にギアを上げて、少し前から行って1点、2点で2-0で勝つというのが『戦術カタール』なのであれば大賛成だけど、0-1、0-2は余計。グループリーグではその1点が致命的になることもある。ないに越したことはない。結果的に逆転できているのは素晴らしいことだけど、やっぱりゼロで行きたい」。後半の奇襲攻撃には手応えは残しつつ、前半の試合運びに課題を見つめていた。 (取材・文 竹内達也)●2026ワールドカップ(W杯)北中米大会特集▶日本代表の最新情報はポッドキャストでも配信中