年間1,900トンも捨てられる廃エアバッグ、日本企業の技術でリサイクルへ

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自動車のエアバッグって、命を守ってくれる超重要なパーツですよね。でも、その役目を終えた後、どうなってるか知ってます?

日本では毎年約273万台の車が廃車になっていて、そこから出てくるエアバッグは年間約1,900トンだそう。ところが、これまでほとんどがASR(Automobile Shredder Residue、自動車破砕残渣)という、要するにリサイクルできないゴミとして処分されてたんです。

エアバッグの素材は、主に「ナイロン66」という高性能なプラスチック。ただ捨てるにはもったいない…ということで、アップサイクルしてアパレルアイテムに使う例はあったのですが、この状況を変える技術開発が進んでいました。

リサイクルできなかった理由は「複合材料」だから

なんで今まで捨てるしかなかったのか? それは、エアバッグが「複合材料」だからです。

エアバッグは単なるナイロンの布だけでなく、空気が漏れないように表面にシリコーンゴムがコーティングされてます。この2つの素材がガッチリくっついてるせいで、「どちらも傷つけずにキレイに分ける」っていうのが技術的にめちゃくちゃ難しかった。

世界中の自動車業界が「リサイクルしたいけどできない」と頭を抱えてた問題だったんです。

「ゴミを原料に戻すプロ」と「原料を製品化するプロ」が手を組んだ

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ここからが本題。日本企業のリファインバースと東レが協業して、この難題に挑んでいます。 2社がまるでバトンリレーみたいに技術をつないでいます。

第1走者:リファインバース(前処理の専門家)

リファインバースが担うのは、ゴミになったエアバッグを高品質なナイロンペレットに生まれ変わらせる作業。

まずは自動車解体事業者からエアバッグを回収。これを愛知県一宮市の自社工場に持ち込み、エアバッグから独自技術でシリコーンの剥離と洗浄を行います。

そして洗浄したナイロン布を溶かして冷やし、小さな粒(ペレット)に加工。この再生ナイロンペレットを、東レがさらに高品質化します。

Image: リファインバース

第2走者:東レ(仕上げ・量産の専門家)

リファインバースが作った再生ペレットを、東レは車の部品としても使えるような超高性能な素材に仕上げる作業を担います。

これは「コンパウンド処方設計」と呼ばれる工程で、いわば「秘密のレシピ作り」。ただ作った再生ペレットだけでは必要な強度や耐久性、熱への強さが足りないので、いろんな添加剤を混ぜる配合を設計するんです。そして設計したレシピ通りに、品質のブレがない素材を大量生産。自動車メーカーに安定して供給できる体制を作ります。

両社は、ナイロン66樹脂に残存する異物をできる限り減らして、剥離、洗浄、リペレット工程の最適化を推進中。従来品以上に純度の高いリサイクル樹脂の開発を進めています。

いずれは廃車から回収するエアバッグを、自動車用途へ再利用する仕組みを作ると掲げています。

「廃車の部品」が「新車の部品」に戻る

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廃車から取り出したエアバッグを、もう一度、安全性や耐久性が必要不可欠な車の部品として使えるレベルまで持っていける。これがうまくいけば、廃車の自動車から新車を作る「Car to Car」の世界の実現に近づきます。

環境面でも、新品のナイロン66を作るのと比べて、CO2排出量を大幅に削減できるのもメリットです。

いまEU(欧州連合)では、自動車に対して「資源を循環させるデザインにすること」や「使用済み部品のリサイクル率を上げること」を義務付ける規制案が審議中です。 日本の自動車メーカーも、この世界的な流れに対応するために、リサイクル素材を使いたい、循環の仕組みを作りたいっていうニーズが急激に高まっています。

そんな中で、東レとリファインバースのこの取り組みは、世界の自動車業界が抱えていた技術的な壁を解決する先進事例になるかもしれません。毎年1,900トンも捨てられてた高性能素材が、ついに循環し始める。

これまでの不可能を覆して、「もったいない」を解決する技術って、やっぱりカッコいいですね!

Source: REFINVERSE Group, Toray

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