【米国市況】株安・国債高、雇用統計で利下げ観測強まるも先行き憂慮
5日の米金融市場は株安・債券高の展開。米雇用統計が労働市場の減速を裏付け、景気のさらなる悪化を防ぐために連邦公開市場委員会(FOMC)が利下げを急がざるを得なくなるとの見方から株売り・国債買いが優勢となった。
短期金融市場では、FOMCが年内に実施する利下げの織り込み具合が高まり、ほぼ3回分と予想されている。
株式 終値 前営業日比 変化率 S&P500種株価指数 6481.50 -20.58 -0.32% ダウ工業株30種平均 45400.86 -220.43 -0.48% ナスダック総合指数 21700.39 -7.30 -0.03%S&P500種株価指数は取引時間中の最高値を付ける場面があったものの、インフレが根強い中で、FOMCが雇用悪化への対応で後れを取っているとの懸念から下げに転じた。
eToro(イートロ)のブレット・ケンウェル氏は、投資家は慎重な姿勢を保つべきだと指摘。雇用市場が一時的に減速しているのか、それとも深刻で持続的な悪化に向かっているのかでは明確な違いがあると語った。「利下げを歓迎するあまり、深刻な悪化リスクを無視して楽観的に構えるのは危うい」と述べ、「高金利と底堅い景気の中でも株式相場は持ちこたえてきたが、労働市場に本格的な亀裂が入れば、その底堅さは急速に揺らぐ可能性がある」と警鐘を鳴らした。
8月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比2万2000人増にとどまり、過去データの修正により、6月の雇用者数は2020年以来の減少となった。失業率は4.3%に上昇した。
関連記事:米雇用者数、2.2万人増にとどまる-失業率は2021年以来の高水準 (3)
JPモルガン・チェースのマイケル・フェローリ氏は「今回の統計は、連邦準備制度理事会(FRB)の見通しというよりも、むしろ成長見通しに対する疑問を深める内容だ」と指摘。今月0.25ポイントの利下げに踏み切る上で、「最後の大きな障害」は取り除かれたはずだとの見解を示した。さらに「今回の数字は、9月以降に利下げを段階的に行うよりも、連続して実施すべきだとの主張を後押しする内容でもある」と続けた。
LPLファイナンシャルのジェフ・ローチ氏は「労働市場は足踏み状態に入りつつある」と述べ、「FRBが次回会合の準備を進める中で、当局者は利下げの判断を正当化する材料として、雇用の弱さに焦点を当てる可能性が高い」と話した。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)のエコノミストはFOMCが年内に2回、9月と12月に金利を引き下げると予想した。8月の弱い雇用統計を受け、年内に利下げはないとの従来の予測を撤回した。
BofAのエコノミスト、アディティア・バーベ氏は雇用統計について、「供給面だけでなく、労働需要の悪化を示すいっそう明確な証拠だ」と指摘した。
関連記事:FOMCは年内2回利下げ、従来の利下げなしからBofAが予想変更
パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)のティファニー・ワイルディング氏は、今回の統計と他の経済指標を踏まえると、FRBが今月から利下げを開始する余地があると指摘。「リセッション(景気後退)は予想しておらず、インフレが正常化するにつれて、政策金利は比較的緩やかに中立水準へ戻ると見込んでいる」と述べた。「とはいえ、労働市場の弱さを示す証拠が積み重なっており、これまで想定していたよりもやや速いペースでの利下げが正当化される」と語った。
国債
米国債相場は大幅高。金融政策の変化に最も敏感な2年債利回りは一時、13ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下し、3.46%を付けた。
国債 直近値 前営業日比(bp) 変化率 米30年債利回り 4.77% -8.8 -1.81% 米10年債利回り 4.08% -7.9 -1.89% 米2年債利回り 3.52% -7.2 -2.02% 米東部時間 16時35分金利先物市場では、FRBが一段と積極的に動くとの見方が強まっている。今月の0.25ポイントの利下げは確実視されており、年内残る2回の会合でも同様の利下げが続くとの予想が織り込まれている。今月0.5ポイントの大幅利下げが実施される可能性もわずかに見込まれている。
短期債の上昇が際立つ中、利回り曲線はスティープ化し、5年債と30年債の利回り差は2021年以降で最大に拡大した。
このスティープ化取引は、利下げを見込んだポジションとして人気が高いだけでなく、財政赤字の拡大による長期債への懸念も反映している。
アメリベット・セキュリティーズで米国金利戦略を統括するグレゴリー・ファラネロ氏は「雇用市場は弱くなっており、公的部門から民間部門への雇用増加の移行には利下げが必要になる。FRBは今月から利下げを開始し、その後も一連の追加利下げが続くとわれわれは見込んでいる」と語った。
為替
外国為替市場では、ドル指数が下落。一時は7月28日以来の低水準を付けた。予想を下回る雇用統計を受け、今月の利下げが完全に織り込まれる中で、ドル売りが優勢になった。
円は対ドルで上昇。一時は1ドル=146円82銭と、1日以来の高値を付けた。
為替 直近値 前営業日比 変化率 ブルームバーグ・ドル指数 1202.18 -4.86 -0.40% ドル/円 ¥147.47 -¥1.02 -0.69% ユーロ/ドル $1.1718 $0.0069 0.59% 米東部時間 16時36分ブラウン・ブラザーズ・ハリマン(BBH)のストラテジスト、エリアス・ハダッド氏は「労働需要の急激な減速を受け、FRBは二大責務のうち物価安定よりも雇用の最大化の達成を優先する可能性がある」と述べ、「それがドルの重しとなり、リスク資産の上昇をさらに支える要因となり得る」と指摘した。
原油
ニューヨーク原油相場は3日続落。週末に開かれる石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成される「OPECプラス」の会合を控えた売りで、5月以来の安値に沈んだ。OPECプラスではサウジアラビアが増産検討を求めていることが分かった。
ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は、週間ベースで3.3%下げた。OPECプラスの主要加盟国は7日のオンライン会議で、今後の産油方針を話し合う。
関係者によると、決定はまだなされておらず、7日の会議で増産が合意されるか、数カ月後になるかは不明だ。世界市場シェア奪還を目指し、加速的な生産再開を主導してきたサウジアラビアは、価格下落を生産量増加で相殺するため、さらなる増産を望んでいるという。
関連記事:サウジアラビア、OPECプラスに追加の増産検討求める-7日に会合
コメルツ銀行のバーバラ・ランブレヒト、カーステン・フリッチ両アナリストは「OPECプラスの8カ国が再度の増産に同意すれば、原油価格に著しい下押し圧力がかかることは確実だ」とリポートで分析した。「供給超過のリスクがすでに大きいことは言うまでもない」と述べた。
WTI先物は年初から約14%下落。OPECプラスの方針転換に、非加盟国による増産が加わり、世界的な供給超過不安が悪化した。また米経済の健全性に対する不安が深まっていることも、市場のセンチメントを重くしている。米国では8月の雇用者の増加ペースが減速した。
今週は地政学的緊張も注目された。米政府はウクライナでの戦争を終わらせる取り組みの一環として、ロシア産原油の買い手に圧力をかける方向だ。トランプ大統領はインドからの一部輸入品に50%に関税を発動した。大統領は5日、米国は「インドとロシアを、最も深刻で暗黒の中国に奪われた」ようだと述べた。
TDセキュリティーズの商品ストラテジスト、ダニエル・ガリ氏は「原油市場のセンチメントは暗い」と語る。「OPECの会合を控え、取引は引き続き不釣り合いにダウンサイドに傾斜している。ガイアナやブラジルからの供給が今後増えるとの予想もあり、当社は原油に対し戦術的に弱気姿勢を維持している」と述べた。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物10月限は、前日比1.61ドル(2.5%)安い1バレル=61.87ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント11月限は2.2%下げて65.50ドル。
金
ニューヨーク金相場は過去最高値を更新。予想以上に弱い米雇用統計で今月の利下げ観測が補強された。
金スポット価格は1オンス=3600.16ドルまで上昇。今週は利下げ観測が強まるにつれ、水準を切り上げてきた。
金利の低下は利息を生まない金投資の追い風と受け止められている。金はまた、FRBの今後を巡る懸念による強い逃避需要にも支えられている。
金は銀とともに、この3年間で価格が2倍余り上昇した。地政学や経済、貿易のリスクが著しく上昇し、投資資産の逃避を促している。今年はトランプ米大統領がFRB攻撃の手を強め、状況はエスカレートしている。トランプ氏は利下げを実現すべくFRBの「過半数をもうすぐ」手に入れると宣言している。
関連記事:トランプ氏のFRB攻撃で金相場の強気派に勢い、ドル安リスク警戒
投資家はまた、クックFRB理事が求めた解任の仮差し止めを判事が認めるかどうかにも注目。トランプ大統領はハト派的な人物をクック氏の後任に据える構えだ。FRBの独立性が損なわれ、投資家が保有資産のごく一部でも米国債から金に移した場合、金相場は1オンス=5000ドル近くまで上昇する可能性があるとゴールドマン・サックス・グループはみている。
関連記事:金は5000ドル近くに上昇、FRBの独立性損なわれれば-ゴールドマン
金スポット価格はニューヨーク時間午後1時40分現在、前日比47.93ドル(1.4%)高い1オンス=3593.78ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は、46.60ドル(1.3%)高い3653.30ドルで終えた。
原題:Stocks Fall as Bleak Jobs Report Sparks Bond Rally: Markets Wrap(抜粋)
Bonds Rally as Weak Job Growth Solidifies Bets on Fed Rate Cuts
Dollar Falls as Soft Jobs Data Cements Fed Rate Cut: Inside G-10
Oil Extends Drop as Saudis Want OPEC to Pursue More Output Hikes