「ありがとうアレックス」-予選失格から10位入賞へ、サインツ大逆転劇の裏に”アルボンの献身プレーと助言” / F1シンガポールGP《決勝》2025

カルロス・サインツが2025年F1第18戦シンガポールGPで10位入賞を果たし、チームに貴重な1ポイントをもたらした。ウィリアムズは予選後のDRS規定違反による両車予選失格という痛手から、見事に挽回した。

だが、この1ポイント獲得の陰には、チームメイトのアレックス・アルボンによる、チームを優先する献身的な走りと助言があった。ジェームズ・ヴァウルズ代表はレース後、アルボンへの感謝を表明した。

「ありがとうアレックス。素晴らしいチームプレーだった」

Courtesy Of Williams

ピットレーンに立つアレックス・アルボン(ウィリアムズ)、2025年10月4日(土) F1第18戦シンガポールGP予選(マリーナベイ市街地コース)

ウィリアムズ勢は予選後、公式車検においてDRSフラップの開口部が「外側両端85mm」を超えて開く状態になっていたことが判明。技術規定第3条10項10号(g)への違反により失格処分が下された。

これを受けサインツは18番手からのスタートとなり、アルボンはセットアップに変更を施し、パルクフェルメ規定違反によりピットレーンからスタートした。

セットアップを変更したのは「テストアイテム」と呼ばれる開発パーツの効果を検証するためだった。

レース38周目、第1スティントを引っ張り続けていたサインツは、他車のピットストップにより9番手まで浮上。目の前にはリアム・ローソン、背後にはオリバー・ベアマン、そしてその後方にアルボンという状況だった。

ここでアルボンが最初の貢献をする。すでにベアマンに抜かれていた彼は、無線でレースエンジニアのジェームズ・アーウィンにこう助言を送った。

「カルロスに伝えて、ターン14で『オーバーテイク』モードを使えって、いやターン13だ」

その直後、アルボンはフェルナンド・アロンソに抜かれる際、タイヤをロック。「フロントタイヤが終わった。フラットスポットが酷い」と訴え、理想より早いピットインを余儀なくされた。

「これ以上遅く走れない」—チーム優先の献身走行

それでもアルボンは、タイヤ交換を終えた後に見事なペースを刻んだ。淡々とタイムを重ね、48周目にローソンがピットインすると、その前に出ることに成功。“アンダーカット”を決めてみせた。だが、その直後、無線に新たな指示が入る。

「頼む、1.5秒のギャップを作る必要がある。チームを助けるために1.5秒ペースを落としてくれ」

アルボンは「了解」と短く応じた。するとさらに、具体的な要求が続く。

「2周の間、1分40秒フラットで走ってほしい」「セクター2でペースを落としてくれ」

ただ、アルボンの返答は痛切だった。

「これ以上遅く走るのは無理だよ」

その言葉の裏には、後方のレーシング・ブルズが自分たちの戦略的減速に気づいているという確信があった。

「僕が何をしているのか連中にはバレてる」

タイヤ交換直後、アルボンはアンダーカットを狙った際、1分35秒961までタイムを縮めていたが、ローソンを抑えるために1分40秒751までペースを落とした。4.79秒のペースダウンだ。

この献身が実を結んだ。サインツは、50周目にソフトタイヤに交換してアルボンとローソンの前でコースに復帰。ヴァウルズは「ありがとう、アレックス。あとは最後まで全開だ」とアルボンに感謝を伝えた。

サインツは残り12周で、ランス・ストロール、ガブリエル・ボルトレート、フランコ・コラピント、角田裕毅、そしてアイザック・ハジャーを次々とオーバーテイク。最終的に10位でチェッカーフラッグを受け、ウィリアムズに1点をもたらした。

チェッカーフラッグ後、ヴァウルズは改めてアルボンに感謝の言葉を贈った。

「ありがとうアレックス。素晴らしいチームプレーだった。今日は君にポイントを取らせてあげられなくて申し訳ない。カルロスは1点を取った。よくやった。ペースはあった。またも、こんな風になってしまいすまない。次のオースティンでまた頑張ろう。これからのレースが楽しみだ」

これに対してアルボンは、例の”テストアイテム”は効果がなかったと報告。ヴァウルズは「そうだな。まあ、今回それが分かって良かったよ」と応じた。

14位でフィニッシュしたアルボンはポイントを獲得できなかったが、開発パーツに関する貴重なフィードバックを返した。そして何より、チームメイトを勝たせるために自らのレースを犠牲にした。

予選失格という逆境から、チーム一丸となって1点を奪い返したウィリアムズ。その裏には、綿密な戦略と、アルボンの献身的な走りがあった。

Courtesy Of Williams

10位入賞のレースを終えてピットレーンを歩くカルロス・サインツ(ウィリアムズ)、2025年10月5日(日) F1第18戦シンガポールGP決勝(マリーナベイ市街地コース)

Courtesy Of Williams

パドックで話をするウィリアムズのアレックス・アルボンとカルロス・サインツ、2025年10月3日(金) F1第18戦シンガポールGPフリー走行(マリーナベイ市街地コース)

2025年F1第18戦シンガポールGP決勝レースは、ジョージ・ラッセル(メルセデス)がポール・トゥ・ウインを飾り、2位にマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、3位にランド・ノリス(マクラーレン)が続く結果となった。

サーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)を舞台とする次戦アメリカGPは10月17日のフリー走行1で幕を開ける。

F1シンガポールGP特集

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