アメリカ、ウクライナに新たな和平案を提示 ゼレンスキー氏とトランプ氏が協議へ
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ウクライナとロシアの戦争をめぐり、アメリカは20日、ロシアとまとめた新たな和平案をウクライナに提示した。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、戦争終結に向けて「アメリカの構想」で動く準備があるとしている。
この和平案は28項目からなるとされる。アメリカのスティーヴ・ウィトコフ特使と、ロシアのキリル・ドミトリエフ特使が書き上げたもので、ウクライナがどれほど関わったのかは不明。
ウクライナ大統領府は20日に声明を発表。和平案について、アメリカが「外交を再び活性化させるのに役立つ」と考えているとした。
また、ウクライナは「戦争を公正に終わらせるような方法で、この案にある条件に取り組むことで同意した」と説明。「真の平和に近づけるすべての実質的な提案」を支持するとした。
ウクライナは、和平案の詳細を明らかにしていない。米アクシオス、英フィナンシャル・タイムズ、ロイター通信などは情報筋の話として、ウクライナがまだ統制している東部ドンバス地方を放棄し、軍の規模を大幅に縮小し、兵器の多くを諦める内容になっていると報じている。
また、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟しないことを誓うとの内容も盛り込まれているとされる。同国はこれまで、この条件を拒み続けてきた。
フィナンシャル・タイムズとアクシオスが全文を報じた和平案によると、ウクライナ軍の兵力は60万人に限定される。一方で、ポーランドにヨーロッパの戦闘機が配備される。
また、ウクライナは「信頼できる安全の保証」を得るとされているが、具体的な内容は示されていない。
ロシアについては、制裁解除と、主要7カ国(G7)に招かれ再びG8の一員となることで、「グローバル経済に再統合される」とされている。
これらが正しければ、ロシアの利益に大きく傾いた要求となりうる。
米ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官は記者会見で、この和平案がウクライナに大きな譲歩を要求するものとの見方は誤りだと主張。ウィトコフ特使とマルコ・ルビオ米国務長官が約1カ月間、ひそかに作業し、「(ロシアとウクライナが)どういう内容なら永続的、持続的な平和の実現に向けて履行を誓うのか理解しようと、双方と等しく関わってきた」と述べた。
さらに、「ロシアとウクライナの双方にとって良い計画だ」、「双方にとって受け入れられるものだと信じている。私たちはこれを実現させようと懸命に動いている」と話した。
一方、ロシアはこの和平案を重視しない姿勢を示している。
クレムリン(ロシア大統領府)のドミトリー・ペスコフ報道官は、アメリカ側と「接触」はあったものの「『協議』と呼べるようなプロセスはなかった」と述べた。
その後、ゼレンスキー氏はXに、「アメリカ側は戦争終結に向けた案の要点を提示した——アメリカの構想だ。私は私たちの基本原則を説明した。双方は、どちらのチームも各項目について協議し、全てが誠実なものであることを確認することで合意した」と投稿した。
和平案に対するウクライナの反応は熱のないものだったが、それでもゼレンスキー氏は、「ヨーロッパの安全保障を回復しようとするトランプ大統領とそのチームの努力に感謝する」と述べた。これには、ロシアにソフトな対応を取っていると評されるトランプ氏を、味方に引き付けておく狙いがあったとみられる。
ゼレンスキー氏は20日夜の演説では、ウクライナには「価値ある平和」が必要で、「ウクライナ国民の尊厳」は尊重されなくてはならないと述べた。
一方、欧州連合(EU)のカヤ・カラス外務・安全保障政策上級代表(外相)は、和平案の作成にヨーロッパが関与したのかと記者団から問われると、「私が知る限りではしていない」と答えた。
そして、「どのような案であれ、ウクライナとヨーロッパの人々の賛同が必要だ」と述べた。
クレムリンのペスコフ報道官は、いかなる和平合意も「紛争の根本原因」に対処する必要があると警告した。「紛争の根本原因」というこの表現は、ロシアによる多大な要求の数々の裏付けとして同国が使ってきたもので、ウクライナにとっては降伏に等しい。
イギリスのキア・スターマー首相は、「ウクライナの未来はウクライナ自身によって決定されるべきだ。誰もが望んでいる公正で永続的な平和の基盤であるこの原則を、私たちは決して忘れてはならない」とコメントした。
しかし、ロシアによるウクライナ全面侵攻が4年目に入ろうとするなか、両国は紛争をどう終わらせるかをめぐって、深く対立したままとなっている。
ウクライナは、長距離ドローンでロシアの軍事インフラやエネルギー施設を攻撃することに熟達してきている。一方のロシアは、ウクライナへの攻撃で衰えを見せていない。