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8月の米ドル/円は、150円台と3月末以来の高値圏でスタートしました。ただ1日に発表された米雇用統計を受けて労働市場が急悪化していた可能性が浮上し、米利下げの早期再開観測から米金利が大きく低下すると、米ドル/円も一転して急落、「雇用統計ショック」となりました(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2025年3月~)  

ただしその後は米ドル/円も下げ渋り、147円台中心の方向感の乏しい展開が続きました。「雇用統計ショック」で急落した米国株でしたが、すぐに反発に転じたことが大きかったのではないでしょうか。景気の先行指標でもある株価が最高値圏で推移する中で、早期利下げ再開についても慎重な見方が出てきていた可能性もあったでしょう。

こうした中で注目されたジャクソンホール会議でのパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の講演は、9月FOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げの可能性を示唆したと受け止められました。ただ、それが連続利下げの始まりになるかどうかは未だ不明瞭だったこともあり、米ドル/円の方向感が乏しい状況が続いたと考えられます。

9月の注目点=8月雇用統計の結果で米利下げ見通しはどうなるか

ヘッジファンドが円買い再開の可能性

以上のように、8月は「雇用統計ショック」の後、146円半ば~148円半ばといった2円程度の狭いレンジを中心とした方向感のない展開が続きましたが、日米金利差(米ドル優位・円劣位)からすると、もう少し米ドル安・円高となっていてもおかしくなさそうでした(図表3参照)。では、日米金利差が縮小したわりに、米ドル/円が下げ渋るところとなったのはなぜでしょうか。

【図表3】米ドル/円と日米2年債利回り差の推移(2025年7月~)

根強い米ドル買い・円売りの1つに、記録的に拡大したヘッジファンド(以下ヘッジF)の米ドル売り・円買いポジションを縮小する動きがありました。CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円買い越し・米ドル売り越しは、2025年4月末には18万枚近くとなりそれまでの最高を大きく上回る空前規模に拡大しましたが、8月中旬には7万枚台まで縮小しました(図表4参照)。

その背景には、8月初めにかけて150円まで米ドル高・円安に戻す中で、米ドル売り・円買いポジションの損失拡大を回避する必要性があったのではないでしょうか。

【図表4】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2022年1月~)

上記のような動きは8月中旬で一段落した可能性があります。投機筋の円買い越し・米ドル売り越しは、先週(8月25日週)にかけて小幅ながら2週連続で増加しました。これを見ると、ヘッジFは円買いポジション縮小に伴う円売りから、円買い再開に転換した可能性がありそうです。

ヘッジFが円買い再開の可能性

8月中旬に報道されたあるインタビューの中で、ベッセント財務長官は、「最近、植田日銀総裁と話した」ことを明かした上で、「日銀はインフレ対策で後手に回っているかもしれない」、「日銀は利上げすべきだ」などと発言しました。この頃から、米金利の低下を尻目に日本の金利の上昇傾向が目立つようになりました(図表5参照)。

【図表5】日米の10年債利回りの推移(2025年7月~)

じつは似たようなことが、やはりベッセント長官と植田総裁の電話会談があったとされた2月初めの後からも起こり、その中で日米金利差縮小に沿う形で米ドル安・円高が広がると、それに連れるようにヘッジFが米ドル売り・円買い拡大に動いたということがありました(図表6参照)。

【図表6】CFTC統計の投機筋の円ポジションと米ドル/円(2025年1月~)

ベッセント・植田会談の後からの日本の金利上昇、そしてヘッジFの円買い積極化といった最近の動きは、まだ顕著な円高という形にはなっていないものの、2~3月にかけてみられたことに重なるようです。その意味では、トランプ政権の150円を超える円安阻止や、円高誘導の再開といった可能性も注目されるのではないでしょうか。

この2~3ヶ月、米ドル買い・円売りの中心的な動きの1つだったヘッジFがそれを一段落したのであれば、米ドル/円の下げ渋りをもたらしているのは誰なのでしょうか。日米金利差は縮小していますが、それでも2年債利回り差は円劣位が2%以上といったように円売りに有利な状況には変わりないことから、ヘッジF以外の投機筋、日本のFXトレーダーなどの積極的な円売り姿勢は続いていると考えられます。

9月の米ドル/円予想レンジは143~148.5円

9月のレーバーデイ明けは、実質的な夏季休暇明けからトレードを本格化することにより、相場が一方向に大きく動き出す傾向があります。米国は利下げ、日本は利上げという日米の金融政策の方向性が逆向きで日米金利差縮小が見込まれる中で、米ドル/円の「下げ渋り」が終わり、米ドル安・円高が再燃するか、それが9月の焦点となるでしょう。

以上から、9月の米ドル/円はこの間続いてきた146円半ば~148円半ば中心のレンジを米ドル安・円高方向へブレークする展開を予想します。したがって、9月の米ドル/円予想レンジは143~148.5円で想定します。

9/1~9/5の米ドル/円予想レンジ=145~148.5円

9月第1週の最大の焦点は、やはり9月5日の米8月雇用統計発表でしょう。前回は、過去分のNFP(非農業部門雇用者数)の大幅な下方修正により、予想以上に米労働市場が急悪化していた可能性が浮上し、米国株、米金利、米ドルが急落する「雇用統計ショック」となりました。

その後のパウエル議長の「ジャクソンホール発言」などから、今回の結果を受けたとしても9月FOMCでの利下げの可能性が変わることはなさそうですが、結果次第でそれが0.5%以上の大幅利下げになるか、さらに連続利下げの始まりになるか左右するでしょう。

以上のように考えると、雇用統計は、米ドル安・円高を示唆する結果になった場合の影響が大きいのではないでしょうか。そうしたことから、今週(9月1日週)の米ドル/円の予想レンジは145~148.5円で想定します。

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