大谷翔平、データが示す「異変」 興味深いその読み解きと修正力

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前々回のコラム(3月31日電子版「大谷翔平の『非常識』な打撃 体に引きつけ異例の飛距離)で、打者がどこでボールを捉えたかを表す「コンタクトポイント」という新たなデータが公開されるようになり、大谷翔平(ドジャース)が極めて体に近い位置でボールを捉えていることを紹介した。

今シーズンのデータもある程度サンプルが集まり、日々大きく数値が前後することはなくなった。ということで、データが公開されている過去のシーズンと比較してみたのだが、関連するデータをつなげていくと、大谷が今シーズンまだ波に乗り切れていない現状がそこに表れていた。

まず目立つのが右方向への打球だ。これはデータでも明らかで、右方向への打球そのものだけでなく、右方向へのゴロの割合もキャリア最多である。

過去のシーズン、右方向へのゴロが多いときは、変化球を打ったときがほとんどだったが、今年はいわゆる「真っすぐ」のフォーシーム・ファストボール(以下フォーシーム)が半分近くを占める。その分、右方向へのゴロが増加している可能性がある。以下、2021年以降の違いは以下の通りだ。

いずれにしても、これだけ右方向への打球が多いということは、前々回のコラムで紹介したコンタクトポイントが、投手寄りになっているのではないか、という仮説が成り立つ。だとすれば、それは大谷本来のコンタクトポイントではない。自分のポイントで打てていない、ということになる。

大リーグのデータサイト、Baseball Savantで検索できるコンタクトポイントには2種類ある。1つは、実際にバットがボールに当たったポイント(基準はホームベースの一番投手寄りのライン。それよりも前であればプラスで表記され、後ろであればマイナスで表記される。プラスの値が大きいほど、投手寄りでコンタクトし、マイナスの値が大きいほど打者に近いポイントだったことを表す)。もう1つは、体の重心からコンタクトしたポイントまでの距離だ。

いずれも大谷は、ボールをギリギリまで引きつけ打っており、それは、長打を狙うならスイングスピードがピークに達するホームベースの前でさばけ、という大リーグのトレンドとは異なっていた。

今回、公表されたデータをより詳しく調べたところ、1球ごとのコンタクトポイントは検索できないものの、打ったときだけではなく、空振りの場合(ボールとバットが一番接近した地点)、ファウルの場合、すべてを合わせたケースで検索できた。それをまとめたものが下記のデータだが、予想通り今季はことごとくコンタクトポイントが投手寄りになっている。

全体の平均値では、ホームベースの前までコンタクトポイントが出ていることがわかる。相手投手が右か左かでも検索できるので、それぞれの傾向を調べてみると、より不振の原因を特定する手掛かりが見えてきた。特に差が大きいもので言えば、対右投手の空振りはポイントがホームプレートの5.2インチ(1インチは2.54センチ)も前。重心から34.3インチも離れていた。

改めて左右を比較すると、右投手と対戦したときの方が、これまでよりコンタクトポイントが前になっており、本来のポイントとのズレが大きい。ということは、対右投手のときの方が、引っ張る割合が例年よりも上がっているのだろうか。

昨季と比べても、オフスピード系(チェンジアップ、スプリットなど)では割合が下がっていたが(65.8%→42.9%)、ブレーキング系(カーブ、スライダーなど)は60.6%から88.9%に、ファストボール系は36.8%から50.0%に右方向への打球割合が増えている。いずれもキャリアハイだった。  

これが意味するものは何か。おそらく、本来の打撃を取り戻すとしたら、対右投手のファストボール系、ブレーキング系の球をどのポイントで捉えるか、ということになりそうだ。さらに絞るなら、フォーシームをどこで捉えるか。おそらくボール1個分(約7.5センチ)後ろに下がれば、結果が違ってくるのではないか。

なお、オフスピード系で右方向への打球割合が下がっている理由だが、今年は空振り率が昨年の30.2%から60.0%にほぼ倍増しており、そもそも前に飛ばなくなったから、と言えるかもしれない。

では、こうしたデータというのは、どんな意味を持つのか。マーリンズのフィールドコーディネーターを務めるアーロン・リーンハート氏に聞くと「我々にとっては、ものすごく価値があるし、選手にとっても、重要な数値」と強調した。

リーンハート氏は、いま話題のトルピード(魚雷型)バットの生みの親として知られる。ミシガン大で電気工学を学び、マサチューセッツ工科大の大学院へ進学して物理学の博士号を取得。その後、母校ミシガン大へ戻って物理学を7年間教えていたが、17年から野球部のコーチを始めたのをきっかけにこの世界に入ると、打撃データを専門分野の知識をもとに分析するようになった。

そして、ヤンキースのマイナーで打撃コーディネーターを務めていた2年ほど前、多くの打者がバットの芯よりもやや手元に近い位置でコンタクトしていることから、その位置に芯を動かせばいいのではないか、という発想に至ったという。その結果、魚雷型バットが生まれたそうだ。

そのロジックを実際のバットを用いて説明してくれたリーンハート氏は、こう言った。

「選手たちに説明する際、明確なデータがあれば伝えられるし、納得もしてもらえる。今の時代は様々なデータがあるが、それぞれの点と点を結んでいくと、線になる。そうしてトルピード・バットも生まれた」

大谷のデータしかり。ドジャースや大谷の方がより詳しい傾向を把握しているだろう。大谷本人は、それぞれの数値から何を読み取り、どんな修正を試みるのか。それはそれで興味深い。

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