FRBの12月金利判断、雇用統計発表されても難航するのは必至
米連邦準備制度理事会(FRB)当局者は、政府機関閉鎖に伴い、主要な経済統計が得られない中で、直近の金利判断を迫られた。ただ、政府が再開し、データが取得可能になっても次回の判断が容易になるとは限らない。
政府機関が経済統計の発表を停止して以降、7日で雇用統計の未公表が2カ月分に達する。たとえ政府が間もなく再開するとしても、閉鎖期間中の調査は遡及(そきゅう)的に行われるため、数値の信頼性は低下するとみられる。
エコノミストによると、10月分の一部の雇用・物価データが一切公表されない可能性は日を追うごとに高まっている。インフレリスクもある中で、12月の追加利下げを正当化するほど労働市場は急速に弱まっているのかどうかを巡る議論は、FRB内で長期化する公算が大きい。この問題ではすでに見解が分かれている。
RBCキャピタル・マーケッツのシニア米国エコノミスト、マイケル・リード氏は「意見の相違がさらに広がる可能性がある」と述べ、「政府データの質が問われることになるだろう」とも語った。
FRBのパウエル議長は、データ不足の中でも10月下旬の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で利下げ実施で合意をまとめることに成功した。ただ、会合後の記者会見で、12月の追加利下げは確定的ではないと強調した。
複数の政策当局者も同様の警告を発している。次回FOMC会合はまだ6週間先なのに自らの見解を示すのは異例の動きだ。
10月の会合では、金融当局者は最新のインフレ指標を把握していたが、雇用に関する最新の報告は得られていなかった。仮に政府機関の閉鎖が12月9-10日の会合までに解除された場合、状況が逆転する可能性が高い。
もっとも、パウエル議長は12月の判断について、主に労働市場の実態に焦点を当てると述べており、この点からすれば今回の状況は適切な政策判断を下す上で有利に働く可能性がある。夏場の雇用鈍化を受けて、9月と10月に利下げが実施された背景にも、金融政策が過度に引き締まっているとの懸念があった。
パウエル議長は10月29日、「FOMCの一部では、いったん立ち止まり、本当に労働市場に下振れリスクがあるのかを見極める時期に来ているとの見方がある」と述べた。
当初7日に発表される予定だった10月の雇用統計はいくつかの注意点がある。中でも、失業率が上昇しても、一時帰休中の連邦政府職員の影響がどの程度かが不明確で、統計の解釈が難しくなるとみられている。
一部のエコノミストは、FRBにとって最も重要な指標とされる失業率そのものが発表されない可能性もあると指摘している。これは、雇用統計が毎月12日を含む週の状況を反映する仕組みであるためだ。労働統計局が作成する雇用統計は、非農業部門の雇用者数を算出する事業所調査と、失業率の基となる家計調査の2種類から成る。
企業側は通常、給与データを保管しており、自らオンラインで報告することも多いため、事業所調査の実施にはそれほど支障がないとみられる。一方、家計調査では調査員が電話や対面で労働者本人に聞き取りを行う必要があり、特定の週の就業状況を正確に思い出してもらうのは難しいとされる。
BNPパリバの米国担当シニアエコノミスト、アンドリュー・ハスビー氏は最近の顧客向けリポートで、「時間がたつほど、回答の信頼性は下がる」と指摘。「ある時点で労働統計局は、10月分の回答収集を断念し、11月分に注力する判断を下す可能性がある。そうなれば、10月の失業率は最終的に発表されないことになるだろう」と述べた。
新たな争点
たとえ10月の雇用統計で失業率が発表されたとしても、政府閉鎖による一時的な影響と基調的な動きとを切り分ける作業は、新たな論争を招く可能性がある。議会予算局(CBO)によれば、約65万人の一時帰休中の連邦政府職員がすべて一時的な失業者としてカウントされた場合、失業率は0.4ポイント上昇することになる。
政府閉鎖が6週目に入った今、労働統計局が10月分の消費者物価指数(CPI)を発表できない可能性も高まっていると、エコノミストは指摘する。CPIの算出は主に全米各地の企業への対面調査に依存しているためだという。労働統計局は9月分のCPI発表のため、一時的に職員の呼び戻しを命じられたが、社会保障庁が年次の生活費調整を行うための対応であり、10月1日の政府閉鎖以降、他の経済統計は公表されていない。
雇用統計の信頼性が疑問視され、インフレ指標はそもそも公表されていない中、労働市場の悪化を懸念する当局者は追加利下げを主張し、インフレ圧力を重視する当局者は利下げの見送りを求めるなど、対立が続いている。ただ現在の先物市場では12月の利下げ確率は5割を超えており、利下げ派がやや優勢だ。
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のスチュアート・ポール、アンドレイ・ソコル、アナ・ウォン3氏は「米政府の閉鎖が2カ月目に入り、雇用統計の公表も遅れる中、ブルームバーグ・エコノミクスは利用可能な労働関連の代替データを用いて労働市場指数を作成した。この指数によると、米国の労働市場は引き続き減速傾向にあるが、そのペースはやや鈍化している」と指摘した。
利下げを主張する側は、5日にADPリサーチ・インスティテュートが発表した民間雇用者数を根拠に挙げることができる。10月の雇用増加は引き続き低調で、教育・医療サービス分野に偏っていた。
FRB当局者は週次の新規失業保険申請件数にも言及している。これは連邦政府閉鎖中も州政府によって集計され続けているが、目立った増加は確認されていない。
一方、インフレに関する政府統計は、民間の代替データが限られていることから、置き換えが難しいのが現状だ。
公式統計の発表がない中、今週はADPリサーチ、チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス、レベリオ・ラボによる民間データの発表を受け、米国債市場では利回りが激しく動いた。
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これらの相反するデータは、関係者全てにとって状況の難しさを浮き彫りにしていると、コロンビア・スレッドニードル・インベストメントのポートフォリオ・マネージャー、エド・アルフセイニ氏は指摘。「今もなお、信頼性の高い指標は失業保険申請件数と公式の失業率だ」と述べた。
原題:When Fed Gets Jobs Data, It Won’t Make December Rate Call Easier
(抜粋)
— 取材協力 Michael MacKenzie