恐竜捕食した超巨大ワニ、なぜ広く君臨できたのか、定説覆す新説

デイノスクスは巨大なワニで、白亜紀後期、湿地の頂点捕食者だった。復元図は、現在の米国ユタ州にある岩石層から発見されたDeinosuchus hatcheri。ハドロサウルスの一種Rhinorex condrupusにかみ付いている。(ILLUSTRATION BY JULIUS T CSOTONYI / SCIENCE PHOTO LIBRARY)

 約7500万年前、北米で最も大きくて恐ろしい肉食動物は、恐竜ではなくワニだった。ラテン語で「恐ろしいワニ」を意味するデイノスクスは体長10メートル、体重5トンに達することもあった。骨の化石に残されたかみ跡から、恐竜を捕食していたことは明白だが、デイノスクスがなぜこれほど大きくなり、捕食者として広く君臨したかは謎だった。(参考記事:「恐竜を襲う巨大な古代ワニの生態」

 2025年4月23日付けで学術誌「Communications Biology」に発表された論文では、ワニの系統樹を見直して、この謎を解明したと主張している。さらに、デイノスクスが塩分を含む生息環境にどれくらい耐性があったかについても、これまでの認識が覆される可能性がある。

「デイノスクスはどのように北米全域の沿岸の湿地で頂点捕食者になったのか、なぜあれほど巨大化したのかをより深く理解したいと思いました」と研究に参加したドイツ、テュービンゲン大学の古生物学者マートン・ラビ氏は話す。

 1858年に米国ノースカロライナ州で歯の化石が発見されて以来、古生物学者たちはデイノスクスを追いかけてきた。これまでに歯、装甲、頭骨の断片、骨格の一部がメキシコ、米国ユタ州、テキサス州、モンタナ州、ニュージャージー州などで発見されている。

 いずれも8200万年前から7200万年前に海岸線だった場所だ。デイノスクスは白亜紀の北米の低湿地で獲物を待ち伏せていたようだ。

 古生物学者たちは既知のデイノスクス3種をアリゲーター上科に分類している。現代のアメリカアリゲーターとヨウスコウアリゲーターを含む広範なグループだ。デイノスクスの広くて丸い鼻はクロコダイル、アリゲーター、その近縁種を含むワニ目でも特にアリゲーターと似ており、近縁であることを示唆していた。

 一方、今回の研究ではワニの系統樹における種の関係を比較して、デイノスクスの分類を見直した。論文によれば、デイノスクスは、現代のアリゲーターとクロコダイルが枝分かれする前のさらに古い系統に属し、両方の特徴を持っていたという。デイノスクスが、現代のイリエワニのように、河口や海岸といった塩分濃度の高い生息環境で繁栄できたのはそのためだ。

「デイノスクスはアリゲーター上科ではないとわかって驚きました」とラビ氏は振り返る。研究チームによれば、デイノスクスのアリゲーターに似た外見は、グループ内の類似性ではなく、異なる系統の生物が似たような特徴を独立して獲得する収斂(しゅうれん)進化の結果だった可能性が高いという。

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