米FBI、裁判官を逮捕 裁判所構内での移民拘束を「妨害」の疑い

画像提供, Reuters

画像説明, 移民拘束を「妨害」したとしてFBIに逮捕された、ウィスコンシン州のハナ・デュガン判事

米連邦捜査局(FBI)は25日、不法移民の逮捕逃れを手助けしようとしたとして、ウィスコンシン州ミルウォーキー郡裁判所の裁判官を公務執行妨害の疑いで逮捕した。

FBIのカシュ・パテル長官は、ミルウォーキー郡巡回裁判所のハナ・デュガン判事(65)の逮捕を発表。FBIが逮捕しようとしていたメキシコ人男性の居場所について、判事が移民当局の担当者を「わざと誤った方向に誘導した」としている。

25日の予備審問で、デュガン判事の弁護士は「(判事は)自分の逮捕を全面的に遺憾に思い、抗議する。今回の逮捕は公共の安全のために行われたものではない」と主張した。

デュガン判事は、公務執行妨害と犯人隠避の罪で訴追された。両方の罪で有罪となった場合、最高で禁錮6年が科せられる。公務執行妨害罪は最高で禁錮5年と25万ドルの罰金が科せられ、隠蔽罪は最高で禁錮1年と10万ドルの罰金が科せられる。

判事は誓約書を提出して釈放された。5月15日に公判が開かれる。

判事逮捕のきっかけとなったのは、デュガン判事が担当した裁判の法廷での出来事。 FBIが裁判所に提出した資料によると、移民裁判所の判事が4月17日に、メキシコ国籍のエドゥアルド・フローレス=ルイス容疑者の逮捕状を発行した。家庭内のけんかに関する、軽犯罪にあたる暴行容疑3件が罪状だった。

フローレス=ルイス容疑者が翌日、ミルウォーキー郡巡回裁に出廷したところ、移民・関税執行局(ICE)とFBIと麻薬取締局(DEA)の捜査員計6人が、容疑者逮捕を目的に裁判所に現れた。

捜査員たちは裁判所職員に身分を明かし、デュガン判事の法廷の外で待っていたものの、FBI資料によると、判事は「捜査員がいるのを知ると、見るからに腹を立て、この状況は『ばかげている』と発言し、裁判官席を離れて裁判官室に入った」のだという。

その後、法廷の外の廊下で判事と、匿名の捜査員たちは、発行された逮捕状の種類について言い争い、判事はその挙げ句、巡回裁長官の事務所に報告するよう捜査員たちに指示したという。

FBIの裁判資料によると、捜査員たちが長官事務所にいる間、デュガン判事はフローレス=ルイス容疑者と弁護士を呼び、陪審員たちが法廷を出る際に使うドアへ案内した。この間、法廷の近くに待機していた捜査員2人が、逃走しようとするフローレス=ルイス容疑者に気づいたという。

容疑者は裁判所から出たものの、追いかけた捜査員たちに数分後に逮捕されたという。

当局によると、フローレス=ルイス容疑者は2013年にアメリカから追放されている。

デュガン判事が逮捕される前日には、ニューメキシコ州の元裁判官が自宅にヴェネズエラのギャング・メンバーとされる人物をかくまった疑いで逮捕されている。

パム・ボンディ司法長官は25日、FOXニュースに対して、「裁判官の中には自分が法律を超越した存在だと思っている人もいるようだが、決してそんなことはない」と話した。

「家庭内暴力の被害者が法廷内に座っているというのに、もしも(判事が)証拠を隠滅し、司法を妨害し、刑事被告人を裏口から逃そうとするなら、そのようなことは決して認められない」とも、司法長官は述べた。

判事逮捕への国内の反応は、与野党の違いによって分かれた。

野党・ 民主党のタミー・ボールドウィン上院議員(ウィスコンシン州選出)は、「極めて深刻で、極端な対応」だと述べた。

「誤解のないように。この国に王はいないし、誰もが従わなくてはならない法によって統治される民主国家だ」、「司法制度を絶え間なく攻撃し、裁判所の命令を無視し、現職判事を逮捕することで、この大統領はウィスコンシン州民が大切にしている基本的な民主主義の価値観を危険にさらしている」 と議員は声明で述べた。

ミルウォーキーのキャヴァリア・ジョンソン市長もこの逮捕を、「人目を引くことがねらい」だと批判し、裁判手続きを「萎縮させる」と警告した。

与党・共和党のロン・ジョンソン上院議員(同州選出)は、地元紙ミルウォーキー・ジャーナル・センチネルに対し、「私はすべての人に、連邦捜査機関に協力するよう助言する。連邦捜査員が犯罪者や不法移民を逮捕しようとするのを妨害して、捜査員や一般市民を危険にさらすようなまねは、控えるべきだ」と述べた。

デュガン氏は2016年に初めて判事に選出された。2022年に再選され、2期目の任期(6年間)中。

ウィスコンシン州の裁判官任命選挙は無党派で行われるものの、民主党所属のミルウォーキー市長がデュガン判事の任命を支持した。

トランプ第1次政権の最中の2019年には、マサチューセッツ州の判事が逮捕されている。逮捕されたシェリー・M・リッチモンド・ジョーセフ判事は、不法移民の被告が法廷内の留置所に所持品を取りに行くことを許可した。被告はそのまま法廷を出て行った。

判事は司法妨害の罪で起訴されたが、2022年に起訴は取り下げられた。しかし、この事件を理由にした職務倫理上の苦情申告の審理は今も続いている。

関連記事: