悔し涙の日曜日 5人目のルーキー・馬場咲希が悩む「私にはない」もの
◇米国女子◇FM選手権 最終日(31日)◇TPCボストン(マサチューセッツ州)◇6598yd(パー72)
開幕前日の午後、馬場咲希は照り付ける太陽の下で白砂を巻き上げていた。「バンカーがあまりうまくないなと思っていたから、打ち方なんかを見直して」。大会前の時点で今季のサンドセーブ率はツアーで143番目の30%…。現在1位のイン・シャオウェン(中国)は61.76 %、日本勢トップで4位の山下美夢有が58.93 %(2人のデータは大会後)だから、馬場は彼女たちの約半分しか“砂イチ”に成功していないことになる。
練習後は「なんか、うまくできるようになったっぽい感じ!」と思えたがしかし、初日の後半5番で超ガッカリ。グリーン手前の深いバンカーからの脱出に3打を要しダブルボギーを叩いた。ライも「悪くなかった…」というから、ああ悲しい。「セカンドで難しいところからグリーンを狙ってバンカーに入っちゃったから、ティショットのせいだと思うんですけど、それでもバンカーから3回打つのはヤバい」と肩を落とした。
昨年プロとしての一歩を米下部エプソンツアーで踏み出し、レギュラーツアー1年目の今季は限られた前半戦の出場機会を生かして、すでに3回(ダブルス戦のダウ選手権を含む)のトップ10入り。年間ポイントレース(レース・トゥ・CMEグローブ)は65位と、来季の出場権確保が見える位置にいる。
プロ2年目、まだ20歳になったばかりと考えれば堂々の戦いぶりと言えそうで、本人の悩みは尽きない。同期であるその他の日本人ルーキーは4人(竹田麗央、岩井千怜、岩井明愛、山下美夢有)がみな、初優勝をマーク。先輩たちとはプロとしての経験、実績に差があるとは分かりつつ、苦手分野を克服する術がなかなか見いだせず苦しいという。
バンカーショットの訓練は今週、「全体の練習の3分の1はやった」。だから自信があったのに…。思えば、学生時代は今よりもずっと集中して練習に取り組めた気がする。お世話になった山梨県のゴルフ場では「100ydくらいのショットやアプローチを一日中だってできた」。プロとして毎週違うコースを回っていると、そうはいかない。「(試合会場では)一日中、アプローチ練習ができるわけじゃない。でも、他の選手たちには自分なりに『これをやっておけば安心』というのがあるんだと思う。私にはそれがない」と転戦しながら好成績を出すことへの難しさを感じる。
ホントはバンカーだって少し前まではちょっと自信があったんだ。2023年に「オーガスタナショナル女子アマチュア」に出場し、翌週のメジャー「マスターズ」に備えて練習する男子選手の姿を目で追った記憶は今も鮮明。「松山英樹さんが近いピンへのバンカーショットがめちゃくちゃうまくて。スピンもキュキュッ!って。私、打ち方を研究して覚えたんです。でも、(いつのまにか)できなくなっちゃった。松山さんはどのくらい練習してきたんだろう…」
悶々としながらも決勝ラウンドに進み、19位で迎えた今大会の最終日は2ダブルボギーを含む「75」をたたいた。同組で「68」をマークした岩井千の力強く、安定したプレーを見ながら、自分のアプローチミスに「こういうので、スコアが変わるんだよ!」と腹も立てた。最終18番(パー5)もボギー。スコアを提出すると、悔しさが涙になって溢れてきた。
今大会の直前、米女子ツアーで今を時めく日本人ツアーメンバーは13人全員が集まって夕食をともにした。短い時間で、最年少の馬場は先輩たちの話に耳を傾け、改めて思った。「(他の選手は)日本で活躍した方たちばかり。私は日本ツアーで優勝してから(米国に)来たわけじゃない。優勝できた成功体験もない。優勝争いの経験も少ない。だから想像だけでも、先輩たちの経験に近づけていきたいんです」。“お姉さんたち”が誰一人成し得なかった「全米女子アマチュア」制覇(2022年)という快挙のことは今、頭にない。
涙の日曜日は前半3番(パー3)でバンカーからの2打目をピンそば1mに寄せてパーを拾った。4日間を通じてバンカーショットに4回トライし、砂イチに2回成功。サンドセーブ率は試合前の30%から31.82 %(141位)に上がった。小さな努力の積み重ねで、ちょっとずつでも前に進めることもきっと分かった。(マサチューセッツ州ノートン/桂川洋一)
桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw