広い森もトラを引き離せない? ロシア科学者が野生に戻す実験で成果

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Anthony Ham/The New York Times,翻訳=玉川透/朝日新聞GLOBE編集部

2018年に観察用カメラで撮影されたボリスとスベトラヤ(野生生物保護協会提供)=ニューヨーク・タイムズ

 ロシアの科学者たちが2014年、親のいないアムールトラの子供2頭をロシア極東の辺境の地に広がる野生環境に放った。大型ネコ科の中でも世界最大の動物であるアムールトラは、別名「シベリアトラ」と呼ばれ、今もなお絶滅の危機にさらされている。科学者たちの目的は種の保存を図ることだったが、それだけでなく、あり得そうもない愛の物語も生み出した。

 この2頭の子トラは生後3~5カ月のとき、アムールトラの主な生息地であるシホテアリニ[the Sikhote-Alin]山脈(訳注:ロシア極東ウラジオストクの北東から日本海沿いにかけて連なる山脈)で、野生の状態で保護された。血のつながりがない2頭は、ボリスとスベトラヤと名付けられ、生後18カ月で野生に戻されるまで人間の飼育下で一緒に育てられた。野生に戻す際、2頭はロシアと中国の国境沿いにあるプリ・アムール[Pri-Amur]地域で100マイル(約160キロ)以上も離れた場所に放たれた。アムールトラの分布をこの地域で広げるのが目的だった。

 それから1年以上の時がすぎ、2頭を観察していた科学者たちは奇妙なことが起きていることに気づいた。ボリスがほぼ直線距離で120マイル(約193キロ)以上を歩いて、スベトラヤが暮らしている地までやってきたのだ。

 その6カ月後、スベトラヤは複数頭の子トラを産んだ。

 飼育下で育てたネコ科の保護動物を野生に放ち、個体数を回復させるという試みは、スペインのイベリアオオヤマネコ[the Iberian lynx](訳注:別名スペインオオヤマネコ)の成功例はあるが、アムールトラのような大型ネコ科の前例はなかった。

 野生生物保護協会(WCS)の科学者たちは、2024年11月発行の「ワイルドライフ・マネジメント・ジャーナル」誌に掲載された研究論文で、ボリスとスベトラヤのような子トラを野生に戻す試みが成功すれば、初めて野生のトラをかつて生息していた地域に復活させる現実的な選択肢になりうる、と指摘している。

絶滅の危機にさらされている世界最大の大型ネコ科動物、アムールトラ(別名シベリアトラ)。ロシア極東の辺境に飼育した子トラを放ち、野生環境での生息域を広げる試みが進んでいます。研究者たちがめざす最終目標とは何か。NYTが報じています。

 ロシアに今も生息するトラの…

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