木材が曲がる瞬間をナノ・ミクロの世界で初めて観察―放射光で明かされたマルチスケール構造変化―

 木材を大きく曲げると、肉眼では見えないナノからミクロスケールの構造にどのような変化が起きるのでしょうか。

 この度、田中聡一 生存圏研究所助教、今井友也 同教授、神代圭輔 京都府立大学准教授、堀山彰亮 産業技術総合研究所研究員らの研究グループは、大型放射光施設「SPring-8」で行った小角X線散乱(SAXS)と広角X線回折(WAXD)による「その場観察」で、木材が曲がる瞬間のナノ・ミクロ構造の変化を世界で初めて捉えました。木材を曲げると、凸側(外側)は引っ張られて伸び、凹側(内側)は圧縮されて縮みます。得られたSAXSデータを、Paavo Penttilä フィンランド・アールト大学(Aalto University)客員教授(現:フィンランド・ユヴァスキュラ大学(University of Jyväskylä)准教授)が開発した「WoodSASモデル」で解析した結果、引っ張られた外側では微小なクラック(ひび割れ)が発生し、圧縮された内側では細胞が圧密化(細胞が密集して密度が高くなる現象)することが検出されました。同時に、細胞壁を構成するセルロースミクロフィブリル同士の距離(数ナノメートル)が、引っ張られることで広がり、圧縮されることで狭まることも検出されました。この成果は、外力によって木材のナノ・ミクロ構造を制御する新たな可能性を示すものであり、革新的な木質系材料の開発や木材加工技術の向上に貢献するとともに、地球上最大規模のバイオマス資源である木材のさらなる有効活用にもつながると期待されます。

 本研究成果は、2025年7月2日に、国際学術誌『Carbohydrate Polymers』にオンライン掲載されました。

「木材は建築材料や家具として重宝される材料ですが、元は樹木が樹体を支え、水を運ぶために作った材料です。人の意思で作られていないからこそ、木材を使おうとすると変形したり腐ったり、人に都合の悪いことが起こります。木材を上手に使うには、木材を十分に理解する必要がありますが、樹木の都合もあるので容易ではありません。今回の発見が、樹木の都合を踏まえて木材を上手に使うための1つのピースになれば幸いです。」

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.carbpol.2025.124000 【書誌情報】

Soichi Tanaka, Keisuke Kojiro, Hiroaki Horiyama, Tomoya Imai (2025). In-situ synchrotron SAXS/WAXD analysis for tracking the change in multiscale structure of wood during macroscopic flexural deformation. Carbohydrate Polymers, 367, 124000.

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