新型コロナのパンデミックは感染していない人の脳の老化も加速させたとの研究結果

サイエンス

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症するとせきや呼吸困難、発熱、体の痛みといった症状が出るほか、脳にもダメージを受けることが知られています。新たに、COVID-19のパンデミックは感染していない人の脳の老化も加速させたという研究結果が発表されました。

Accelerated brain ageing during the COVID-19 pandemic | Nature Communications

https://www.nature.com/articles/s41467-025-61033-4

People’s brains aged faster during the COVID pandemic — even the uninfected https://www.nature.com/articles/d41586-025-02313-3

COVID-19 Made Our Brains Age Faster | TIME

https://time.com/7304417/covid-19-brain-effects-aging/ COVID-19のパンデミックは、新しい致死的な感染症であったCOVID-19そのものの脅威に加え、社会的距離を取って人同士の接触を極力避ける政策が打ち出されたことで、孤立や生活様式の乱れ、ストレスの増加といった広範な影響も引き起こしました。しかし、パンデミックが脳の老化に及ぼした影響を調べた研究はほとんどないとのこと。

イギリスのノッティンガム大学の研究チームは、パンデミックが人々の脳に及ぼした影響を調査するため、UKバイオバンクが収集した脳スキャンデータで機械学習モデルをトレーニングしました。このモデルはさまざまな年齢における脳の状態を予測し、実際の脳スキャンデータと実年齢を比較して「脳年齢ギャップ」を算出します。 その後研究チームは、少なくとも2年の間隔を空けて2回の脳スキャンを受けた996人分のデータを機械学習モデルで分析し、脳の老化レベルを測定しました。被験者の中にはCOVID-19パンデミック前に2回のスキャンを受けた対照群と、パンデミック前に1回、パンデミック後に1回のスキャンを受けた実験群が含まれていました。

分析の結果、パンデミックを経験した人々の脳はそうでない人と比較して、約5.5カ月早く老化が進んでいることが判明。この老化の加速は新型コロナウイルスに感染した人だけでなく、感染していない人でも確認されました。

この結果は、脳の老化の加速には生物学的要因やウイルスに起因する要因のほかに、ストレスなどのパンデミックそのものに関連する要因も影響していたことを示唆しています。実際に、パンデミックを経験した被験者の灰白質白質の変化は、新型コロナウイルスの感染者と非感染者で類似していたと報告されています。

論文の筆頭著者であるノッティンガム大学の医学部のアリ=レザ・モハマディ=ネジャド氏は、「この発見は興味深く、やや意外なものでした。私たちは、単純にパンデミック期間を経験した被験者が感染の有無にかかわらず、脳の老化がやや加速する兆候を示したことを発見しました。これは、日常生活の混乱やストレス、社会的交流や活動量の減少といったパンデミックの広範な経験が、脳の健康に測定可能な影響を及ぼした可能性を示しています」と述べました。 パンデミックの影響は、特に「男性」「高齢者」「健康状態が悪い人」「教育水準や収入が低い人」「住居が不安定な人」など、一部の人々でより大きくなりました。たとえば雇用が不安定な人はそうでない人と比べて脳年齢が平均5カ月高く、健康状態が悪い人は脳年齢が約4カ月高かったとのことです。しかし、認知能力の低下がみられたのは、新型コロナウイルスに感染した人のみでした。

たとえ新型コロナウイルスに感染していなくてもパンデミック中に脳の老化が加速したという事実は、医師が重視しがちな身体的指標を超えた、パンデミックのより広範な健康への影響を認識する必要性を強調するものです。 モハマディ=ネジャド氏は、「脳の健康は日常生活に影響を受けるものであり、パンデミックのような重大な社会的混乱は、健康な人にも影響を及ぼす可能性があります。これは、今後の危機対応計画において伝統的な身体的健康指標と共に、精神的・認知的・社会的福祉を考慮する重要性を強調し、公衆衛生への理解を深めるものです」と述べました。

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