磁石に付かない金属も実は磁場に反応していたと判明

金や銅が磁石に「反応しない」は本当か? / Crdit:Canva

私たちは日常の中で、無意識のうちに「磁石につく金属」と「磁石につかない金属」を区別しています。

例えば、冷蔵庫にメモや写真を貼る際、磁石がピタッと貼りつくのは、冷蔵庫の表面が鉄でできているからです。

一方で、金や銀、銅やアルミニウムといった金属は磁石を近づけても全く反応しません。

そのため私たちは、こうした金属が磁気とは全く無関係であると思い込んでしまっています。

しかし、本当にそうなのでしょうか?

実は、「磁石につかない」とされる金属でも、磁気に完全に無関係というわけではありません。

磁石につく金属に比べれば非常に微弱ですが、磁場をかけた時にほんのわずかな反応を示すのです。

具体的には、磁場をかけると金属内を流れる電気の流れ方に、非常に微細な変化が生じます。

この現象は、今から140年以上も前の1879年に、アメリカの物理学者エドウィン・ホールによって発見され、「ホール効果」と名付けられました。

以来、この現象は電子機器や半導体デバイスの特性を調べるための基本的な測定方法として、現代のテクノロジーに欠かせない技術となっています。

ただ、このホール効果の強さは、金属の種類によって非常に大きく異なります。

鉄やニッケルのように磁石に強く反応する「強磁性金属」では、磁場により電流の流れ方が劇的に変化するため、「異常ホール効果」と呼ばれるほど強い反応を示します。

これに対して、銅や金、アルミニウムなどの非磁性金属では、磁場をかけても電気の流れが曲がる効果は極めて微弱であり、従来の測定方法では検出することが非常に困難でした。

理論的には、こうした微弱なホール効果も、特別な方法を使えば目に見えるように検出できる可能性があります。

例えば、金属にを照射し、その反射された光を分析すれば、金属内の電子が磁場によってどのように動いているかを可視化できるのではないかと考えられています。

このように、ホール効果を光によって観察する方法は「光学ホール効果」と呼ばれています。

【コラム】なぜ光でホール効果がわかるのか?

「ホール効果」とは、金属の中を電気が流れているときに磁場をかけると、電気の流れがほんの少しだけ曲がるという現象です。これは、ちょうど川の水が岩にぶつかって流れの向きを変えるように、磁場という見えない「力」が電子の流れを曲げるから起こります。電子はある意味で極小の磁石であるため、磁場の影響を受けます。そして電子が流れる方向が少し曲がると、金属の中にある電子の配置が変わり、わずかな電気の偏りが生じます。この「電子の偏り」が起こると、金属の表面で光を反射したときに、その光がわずかに性質を変えることがあるのです。例えば、鏡を少し傾けると反射した光の向きが変わるように、電子の配置が変わると、反射された光の性質(特に偏光という光の振動の方向)がわずかに変化します。つまり、「光でホール効果がわかる」のは、電子が磁場によって少し曲げられると、金属表面での光の反射のしかたがごくわずかに変化するからなのです。

しかしながら、現実にはこの光学ホール効果を可視光(人間が目にする光の波長)で観測しようとすると、その信号はあまりにも微弱で、これまでどんな高度な装置を用いても捉えることができませんでした。

ちょうど、大勢の人が騒いでいる部屋で、誰かが小声で話しているのを聞き取ろうとするのに似ており、従来の装置ではその小さな声を拾うだけの十分な「耳」が備わっていなかったのです。

ホール効果を発見したエドウィン・ホール自身も銀のホール効果を検出しようとしましたが、残念ながら成功しませんでした。

1881年に彼が論文の最後に書き残した言葉が、この難しさを象徴的に示しています。

「もし銀の効果が鉄の10分の1でもあれば検出できただろうが、そのような効果は観測されなかった」(E. H. Hall, 1881)。

これは単なる失敗の記録ではなく、後世の科学者たちに向けられた重要な課題として残りました。

こうした歴史的背景を持つため、「磁石につかない金属も微かに磁気に反応している可能性がある」という仮説は、物理学の中で150年近く解決されない謎として残り続けてきました。

そこで今回、ヘブライ大学エルサレム校のアミール・カプア教授を中心とする国際的な研究チームは、この長年の課題に挑戦することを決意しました。

研究者たちは次のような仮説を立てました。

「磁石につかない金属であっても、実は極めて微弱なレベルで磁気と相互作用をしているのではないか。そして、その微弱な磁気を、最新のレーザー光学技術を使えば初めて検出できるのではないか。」

この仮説を確かめるためには、これまでにない全く新しい測定技術の開発が不可欠でした。

果たして研究チームは、どのような新しい方法を用いて、この微かな磁気信号を実際に検出することができたのでしょうか?

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