火星で発見された「過去最大」の有機物は生物由来? 火星サンプルリターンが必要な理由
NASAの火星探査ローバー「キュリオシティ」が採取したサンプルから、過去最大の有機分子が見つかったことが、3月24日、学術誌「米国科学アカデミー紀要」(PNAS)に発表された。 【画像】火星探査ローバー「キュリオシティ」とその調査 ■「脂肪酸」の断片かもしれない これまでの火星地表の探査で、すでに「有機物」は複数回にわたって発見されてきた。しかし、今回発見された有機分子は、過去に発見されたものよりも大きくて複雑な構造を持つ。学者陣はこれらの物質が「脂肪酸」の断片ではないかとの仮説を立てているが、もしそうであれば、火星の有機化合物に関する研究が大きく前進する。 ただし、有機物には生物を由来とするものと、そうでないものがある。過去に火星で発見された有機物が生物由来と断定されたことはなく、今回も同様に、生物由来なのか、非生物由来なのかは判明していない。これはキュリオシティが搭載する分析器の能力にも関係している。 ■キュリオシティの分析器「SAM」 今回発見された有機物は、ゲールクレーター内にある「イエローナイフ湾」で見つかった。キュリオシティがこのエリアに着陸したのは2012年8月。その9カ月後の2013年5月に採取されたサンプルに含まれていた。ここはかつて液体の水をたたえた湖と思われ、地形や岩石の形状などにその痕跡が残されている。 キュリオシティの全長は3m、総重量900kg。10種類の科学機器と17台のカメラを搭載することから「走る研究所」と呼ばれている。ロボットアームに取り付けられたドリルで岩石を掘削すると、その粉末を振るいにかけ、SAM(Sample Analysis at Mars)と呼ばれる分析器に投入する。 内部で1000度まで加熱された粉末は熱分解され、そこから揮発性成分がガスとして放出される。SAMに内蔵された3つのセンサーでそのガスを分析することによって、有機分子の種類、構造、同位体比などの情報を原子レベルで取得。そのデータを地球に送信する。このセンサーでは生命にとって不可欠な元素である 炭素、水素、窒素、酸素、リン、硫黄を特定できる。 今回、こうした分析の結果、デカン(C10 H22)、ウンデカン(C11 H24)、ドデカン(C12 H26)と呼ばれる3種類の有機化合物が見つかった。これらは炭素原子(C)の鎖に水素原子(H)が結合した「炭化水素」(アルカン)の一種。それぞれ炭素原子を10個、11個、12個持つ。過去に発見された最大の有機分子は、炭素原子6個だった。 もし、これらの炭化水素がSAMの内部で熱分解されていなければ、 学者チームの仮説どおり、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸などの「脂肪酸」として検出された可能性がある。脂肪酸とは、炭化水素に酸性の要素(カルボキシル基:-COOH)が加わった物質。そこに含まれる酸素原子が熱分解によって還元(酸素を失うこと)された結果、炭化水素として検出された可能性がある。